第476話「敵か味方かはたまた……」
スペラは視界がほとんど利かない濃霧の中を、普段と遜色ない足さばきで草木を蹴散らし駆けていく。
絡みつく水の粒子で全身がびしょ濡れになりながらも、全身を巡らせている神経が情報を的確に集めていくが行動となって表れる。
まずは手始めに手近な松の木の表面を薄く焦がすように焼いておくことにした。
これは思い付きで何気ない行動であり、それ以上の意味を持たない。
おもむろに思い付きで行った行動であればあるほど信ぴょう性が増すのは、そこに介入する余地がないからである。
どれだけ複雑な暗号でもそこに規則性が生じてしまえば必ず答えが導かせてしまうのだから、前もって決めておく必要もなければ念を込めるようなことも、寧ろ逆効果になってしまう。
完全犯罪を意図して行えばいつの世も暴かれ答えは決った原型を呼び覚ますというのに、計画もなく意図せず起きた事柄であれば答えを導くことは困難を極める。
なぜならば当事者すら正確な回答を持ち合わせていないのだから、追及されても理解することは愚かそれを追求するすべを持たないのだ。
今ここで樹木痕を残したことで本人も敵も、味方すらも意味を理解することは出来ない。
確かなのはここにスペラが確かにいたことを示すという事だけである。
これを誰がどう捉えるかは見つけた者の裁量次第というわけだ。
スペラは痕跡その一か所にを残した後はただ全力で走る事に徹した。
そこでざっと数えても数十人はいるはいる獣人をいつでも飛び掛かれる範囲内に捕捉する。
成人した人間にしては一回りも二回りも小柄な、二足歩行の一本角の犬頭が何やら騒いでいることがぎりぎり聞こえる茂みに陣取るのだった。
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