第464話「素朴ではないよ」

 そうこうしているうちに足音と香ばしい香りが徐々に近づいてくる。

 バニティーが両手いっぱいに出来立ての料理を持ってくると、円卓に並べ始めた。

 一度で持ち切れなかったのだろう、残りの料理を取りに再び外へと向かう。


 俺とユイナはバニティーの後ろをついて行くことにした。

 何度も往復させるのも気がひけるというのもあるが、時間効率を考えればその方が都合がいいと思ったに過ぎない。

 スペラは既に並べられた兎の丸焼きにかじりついている。

 

 恐らくスペラならば真っ先に食いつくことを考慮して目の前に、配膳したのだろう。

 丸焼きというのは文字通り姿を崩さずそのままの原型を残しているのだから、一人で独占するには都合が良い。

 だからと言ってスペラの舌が鈍感という事もない。


 ただ、焼いただけの丸焼きを与えていれば納得するかと言えばそれもなくこれがまた面倒なのだ。

 前回俺がただ焼いただけで調味料もろくに使わなかった時それを食した時のスペラの何とも言えぬ表情に戸惑ったものだ。

 まずいとも言わず無表情に黙々と食べただけ。


 そこには一種の義務があった。

 美味かろう不味かろうではなく、誰かにとられるくらいなら死んでも食べてやるという意地。

 それが今は全くなく黙々と食べているのだから、言わずもながなそこには確かに夢中にさせる魅力があるのだろう。

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