第287話「香ばしい香りに誘われて」

 しかし、スペラは目をキラキラさせながら姿を変えていく野兎をなおも見詰めている。

 それもそのはずで、鍋は愚か食器の類ですら持ち合わせていなかったというのに本格的な料理を進めているのだ。

 俺は一晩を過ごした建物の錬成どうよう、地面に手を当て竈を作り上げ火をおこし一連の作業を全て一人でこなしていた。


 規模が小さいこともあり、ユイナの力を借りずとも己の魔力のみですべてこなすことができていた。

 細部までイメージした通りに形にしていく。

 ユイナは竈を見ても特に気になる様子もないことから、この世界ではポピュラーなのか元の世界で見慣れていたのかどちらにせよ今後は得意料理をみせてもらえそうな予感がした。


「さあて、下ごしらえもしたことだしそろそろ焼き上げるか」


 香辛料はじゅうぶんに練り込んだ。

 それもディアナが集めてくれた野草、果物などがあったからこそである。

 俺は小規模な発火魔法で薪に火をつけるとじっくりと竈にかけることにする。


 甘く香ばしい香りが森中に漂いわたる。



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