第229話「不意に想いを抱く」

 寝たふりをして乗り切ろうとしたが、このまま問題を引き延ばしたところで良い方向へむかうことなどありはしない。

 

「俺が悪かった。ごめん」


「謝るようなことしたの?」


「……」


 勿論、悪いと思う事はしていない。

 不可抗力以前の問題で、自分には一切後ろめたいことなど無い……と言いたいところだが総じて誤解されるような事態を招いたのは事実である。


「謝らなくていいから、ちょっとこっちに来て」


 俺は言われるがまま二人を起こさないようにゆっくりとベッドから起き上るとユイナの方へと近づく。

 今までの数日の経験から新たな必殺の一撃を浴びせらるのだと身構えていた。

 身体はこわばって耐える姿勢へとゆっくりと膝を落としていく。


「目を瞑って、歯を食いしばって!!」


 俺は言われるがまま瞼を閉じ、唇をかみしめる。

 痛みというのは慣れないのはわかっている。

 アビリティやスキルなどというもので縛れない。


(く、くる!!)


 覚悟を決め、一層強く瞼に力を込めた。

 しかし、いくら待っていても拳が飛んでくるようなことはなかった。

 俺は瞼を開きかけて、動きを止めた。


 自分の胸に貌を埋めるユイナが薄らと見えたからだ。

 俺のことなど元の世界へと戻る為の一時の仲間だとそう思っている。

 それにも関わらず無防備にしがみつく姿はか弱い少女そのものに見えた。

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