第189話「幕間ⅩⅣ~英雄」
俺は自分と全く同じ姿をした青年を見た。
この世界には同じ姿をした者が三人いるという話を聞いたことがある。
その話を聞いたのはいったい何千年前の事だっただろうか。
確かなのは、青年は紛れもなく昔の自分であり、これから先の自分であるという事。
同じ人間が同時に存在できないなどと言うが、そのようなことは少なくともこの世界では意味をなさなかった。
元々異世界へと召喚された時点で世界の異物である。
タイムパラドックスも別の次元であれば意味をなさない。
世界は常に分岐している。
地上で別次元に取り残された者と戯れる青年も自分であり、それを眺めている自分もまた彼なのだ。
この世界に本来存在するはずのない二人は別々の魂と肉体を持ち、違った時間を生きている。
俺もこの世界に召喚された。
召喚されて間もなく仲間と共に世界を旅して廻り、この世界を脅かす者共を消滅させた。
その際に俺を除く仲間は皆命を落とした。
俺が生きている事さえ不思議でならなかった。
全身はぼろぼろで手足は細切れになり、身体の半身は失われていた。
それを救ったのは仲間たちだった。
『○○○はこの世界を救う英雄なんだから、生きて」
少女は青年にそう言って、自分の魂と仲間たちの魂と肉体を青年に捧げた。
「俺は英雄なんかじゃない!! 女の子一人守れない英雄なんかいるかよ!? 俺は自分のできる事だけをやってきただけなんだ!! 俺なんかの為にみんなが死ぬなんて冗談じゃない……。頼む……。俺を一人にしないでくれ……」
『○○○は一人じゃないよ……。私たちがいつもついてるから……。元の世界に帰る日まで……」
光になり消えていく仲間たちは青年に寄り添うように包み込み、青年は先程までの満身創痍が嘘のように失った半身を取り戻した。
しかし、元の姿に戻ったわけではなかった。
この世界に絶望し、この世界を見限った青年の瞳は底の見えない漆黒へと変わり果てていた。
この時、世界を救った英雄は世界を滅ぼす存在に姿を変えた。
この世界は一度終焉を迎えた。
青年の手によって。
「まただ。また、繰り返す。何度も。何度でも。俺のような思いをさせるくらいなら消してやる。この世界と共にな……」
青年は告げる。
『俺は自分のできる事だけをする』
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