第169話「見えざる矢」

 アマトはユイナが突然、不自然に倒れ込むのを見た。

 ユイナには不完全ながらも風の魔法により空を飛ぶことができるはずなのに、飛ぶ様子は見られなかった。

 それは周囲からなめまわすように見られているこの気配のせいだろう。


 その数は次第に増していくのを感じていた。

 留まる事を許されず、進むこともかなわない。

 八方ふさがりにも関わらず、ユイナの姿を見つけてからは不思議と不安を感じることはなかった。


「ユイナっ! 大丈夫か!?」


 膝をついて息も絶え絶えのユイナに俺は肩を貸して、立ち上がらせた。

 傷は自分で治療したのだろう。

 深い傷は見当たらなかった。それにも関わらず、顔色は悪く辛そうに見える。


「ちょっと、血を流し過ぎたみたい……。それより、私はいいからスペラ達を助けに行ってあげて。このままじゃ間に合わなくなるから」


「わかった。スペラを連れて必ず戻ってくるから、少しだけ待っていてくれ」


 俺はゆっくりとユイナを下すと、スペラ達がいる方向へと全力で駆ける。

 その瞬間足を何かがかすめた。

 目で見たわけではないのに、まるで矢が太ももを掠めたのではないかと思った。それは矢ならば構造上先端の鏃から伸びる箆と矢羽が肌に触れた気がしたのだ。


 だが、周囲にはそれらしいものは何も見当たらない。

 思いのほか厄介な技を使う輩がいるようだ。

 今は足を止めるわけにもいかず、ぬかるむ地面をジグザグに走って狙いをつけづらくして走り抜ける。


 スペラ達を補足した。油断せずに追い付いて見せようと意気込む。

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