第162話「ディアナの目覚め」
もうすでに僅かに残っていた建物も完全に無くなり、最早村の面影など完全に残されてはいなかった。
僅かな時間だったとはいえお世話になった診療所が跡形もなく消えてなくなって、多少なりとも感傷に浸ってしまったのだから住んでいた村が沈んでしまったのを村民が目の当たりにすればと思うとその比ではないだろ。
スペラはすぐに切り替えて今の現状の打破へと思考を巡らせることにした。
そもそも感傷に浸ることなど今までなかったのだから、心境の変化があったのは間違いない。
「スペラちゃんは私と出会った場所も無くなってしまったこと、気にしてるんでしょ」
言われてスペラの耳はぴくっと震えた。
運命的な出会いになった場所が無くなって何も感じないわけもない。だからと言っても失われてしまったものはもう取り戻す事など出来はしないのも理解していた。
「仕方がないにゃ」
そう、一度失ってしまったものは命であろうと物であろうと戻ってはこない。
だから人は思いでというものを胸に生きているのである。
「そう、仕方がないこと。だけど全てを割り切ってしまうのが必ずしも正しいことじゃないのよ。もう長く生きてきて何度も失ってきたのだけれど、未だに慣れることはないんだから」
「どうすればいいのかわからなくなったにゃ。いつでもこの身一つでなんでもできると思ってたにゃ……。でも、何もできないって思い知ったにゃ。結局アマトたちの足を引っ張ることしかできないってわかったにゃ」
「私だって数百年も生きているのにさっきみたいなことになるのよ。まだ若いスペラちゃんがそこまで言うのは傲慢じゃないかしら。生まれながらにして完璧な人なんていないんだから、これからいくらだって力をつけることができるんだから。まずは今、やるべきことをしましょう」
そう言って、意識を周囲に向けるディアナ。
辺りに何もないという事は敵からはこちらの位置が完全に筒抜けになっている。
反対にこちらからは360度どこに隠れているかを目視することは叶わない。
しかし、ディアナの索敵範囲はスペラを軽々と越えルナにも匹敵する。
即ちディアナが目覚めた今であればこちらから打って出ることもできるというわけだ。
もちろんその場合は、接近するまでの術が必要になる。
ディアナは体力が完全に戻っていない為動くことが辛うじて出る程度と、魔力が不安定な為行使することができない。
ここまでを読んでいたとなれば黒勇者は相当切れ者だと二人は内心で思っていた。
できれば二度会いまみえたくはないというのも同じ思いだった。
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