第130話「スペラの目覚め」

 俺は防具は着けずにラフな格好で皆がいる部屋へと向かう事にする。

 そこにはユイナ、ルナ、そして目を覚ましたスペラとまだ眠ったままのディアナがいた。

 俺がいない間にルナとスペラは挨拶は済ませていたようだが、わだかまりのようなものはないようだ。

 ルナはディアナとの一悶着があったことはスペラが知ることとなったと思うが、険悪な雰囲気はなかった。

 

「スペラ、目を覚ましたみたいだな。無理せず寝ていてもいいよ」


 まだ本調子ではないのだろう瞼を重そうに虚ろな眼差しのスペラへと俺は声をかけた。

 

「大丈夫にゃ。寝すぎて逆に疲れてしまったくらいにゃ。それよりも聞いてほしいにゃ!! ミャーはとんでもない物を見てしまったにゃ」


 スペラはそう言うと、興奮気味にこの村であったことを話し始めた。思いのほか話は皆の関心を集め気が付けば3時間以上話し続けていた。

 事のあらましは実に興味深く、ディアナの素性についてはまるで本人と直接話をしているのではないかと思うほど詳しく事細かに語って聞かされることとなった。


 スペラの話を聞く限りでは、ディアナは信頼に値する人間であり敵ではないと断定する材料があると思える。ルナとは少なからず因縁があるようだが、それも刻が流れたことで起きたことで本人たちが心の底から嫌悪しているわけではないようだ。


「ルナはどう思う?」


「ボクは気にしてないよ。結果的にボクはこうしてここにいるんだから、今更恨み言を口にする意味はないからね」


 結果的にルナが辿ったのは一人の少女の死と新たな少女の誕生という、過酷な運命を背負う事となった。本来は人の魂の有り方に肩入れすることなどないのだが、ルナは俺を取り巻く環境に巻き込まれることで新たな命を手に入れることとなった。


「ミャーも出来れば仲よくしてほしいにゃ。喧嘩したら、、正直どうなるか想像もできないにゃ」


 スペラが二人の仲を気にするくらいなのだから、二人がぶつかればどうなるかは想像に難くない。それはルナの力を間近に見ていた俺なら真っ先に理解ができるというものだ。


「本当に良かった。みんなスペラのこと心配したんだからね」


「心配かけてごめんにゃ」


「ボクも早く目を覚ましてほしいと思っていたんだ。いい遊び相手になってくれそうだったしね」


「遊ぶのは嫌いじゃないにゃ。ルナはなんだか昔から友達だったような気がするにゃ」


「そうだろうね。ディアナの記憶を辿ったのなら親近感が湧いて来てもおかしくはないよ。ボク達にとってのたった100年でもスペラ達にとっては人生の全てと等しいんだから、もう家族のようなものだよね」


 気軽に言ってくれるのだが、この辺が悪魔と人との違いだと思い知らされる。恐らくこのままでは俺の寿命が先につきそうなものだが考えないようにしようと思う。

 「死を思え」というものがあるが考えようによっては参ってしまう。これだから死と言うものは、やはり恐ろしい。

 

 今は仲間の帰還を素直に喜んでいればいい。これから待ち受けているものを考えれば喜びをかみしめておくことが最善なのだと。

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