第128話「君が支えてくれるから」

 人は生きている事を実感するすべが多種多様だと言われている。

 俺はただ何となく日々の生活を送っていたのだと気づかされた。失ってはじめてわかるものもあるが、失わなくとも環境が変わり、自分を見つめる機会があればそこが起点となることもある。


 今がその時なのだろう。

 この世界に召喚されたときにはまだ、元の世界の延長線上でしかなかった。それが常に死と隣り合わせであることが俺を変えさせた。

 一本の柱は変わらずとも纏った衣が変われば見え方と言うものはおのずと変わるものだ。


 俺はいつの間にか別の何者かになろうとしていた。

 精神をすり減らし続ければ、肉体よりも先に心が死んでしまう。

 そうならずにすんだのは…… 


「アマト、スペラが起きたよ」


 俺の後ろからユイナが声をかけてきたのが辛うじてわかった。

 仲間の存在が俺を現実に引き戻す。


「よかった……」


「シャワー浴びてきなよ。風邪ひくよ」


「そうだな。これだけ激しい雨だとやっぱり痛いし、寒いみたいだ」


「私も同じだよ」


「迷惑かけてごめん……じゃなかった。心配してくれてありがとう」


 俺はありがとうといい改めた。

 元の世界では、よく謝罪会見などを見る機会が多かった。「ご心配をおかけしまして」「お騒がせいして」という常套句を使い絶対に「罪を犯して」「時分が愚かな行いをして」とは言わないのを見てきた。


 自分の否を改めないと先には進めない。

 俺は自分自身で軌道修正していかなければいけない。

 もう立ち止まるわけにはいかないのだから。

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