第100話「味方になってもその力は強大」

 俺は近くの樹木の下へと怪我を負った二人を下すとユイナに治療を任せた。

 今はルナが一人でモンスターを蹴散らしている。俺が割って入る余地などないようにも思えるのだが、いくら個々の能力が高くとも複数を一度に相手に出来ないことを知っている。


 人間など脆いもので、伏兵に後ろから刺されるだけであっさり命を落としかねない。

 俺はルナが手を割くことができない距離の離れた茂みに潜むモンスター各個撃破していく。手負いの二人と治療中のユイナに近づかせるわけにはいかない。


「まったくこんなに雨が強いっているのにご苦労なことで……」


 俺はモンスターに言葉が通じないことはわかっていながら、嫌味を零した。労っているわけではないのだが、雨が降っている時くらいは家でおとなしくしていてもらいと思ってしまう。


「ボクも雨の中モンスター退治するのはねー」


 ルナもびしょ濡れになりながらも苦笑いを浮かべる。俺のコートを纏っただけなので激しく動かれると思わぬ肌ところで肌が露出してしまう。

 

「あんまり激しく動くなよ……」


「ボクの魅力に釘付けになっちゃうと危ないからね」


「ったく、言ってろ!!」


 外見は美少女だというのに羞恥心というものがないと、色気など感じることもなく傍から見ればただの露出狂だ。

 元の世界ならば即刻法律違反だというのに、まさかこの世界ならこんなのがごろごろしているとでもいうのか。


 一瞬恐ろしいことを思ってしまったが、よくよく考えれば人は服を着ているし、知性のある者ならばモンスターだとしても装備に身を包んでいたりする。

 穿った考えは杞憂というものだ。


「さっさと片付けて村に向かうぞ。もう日も沈むし、悪魔だって寝ないで良いという事はないんだろ?」


「悪魔だって眠たくなれば寝るのは一緒だね。魂だけならそんなことも無いんだけど、今は肉体もあってこの世界で生きているってことなら人間とおんなじだよ」


 背中から悪魔の特徴的な羽をばたつかせながらそんな事を言う。

 

「ちょっ!!」


 思わず声が出てしまう。俺の貸しているコートに羽を通せる穴など開いていないのだから羽を羽ばたくことができるという事は即ち真っ裸だという事。

 コートは袖に手を通している為羽の上の方でひらひらと舞っている。

 

 即ち上方を除く360度どこからどう見ても裸を晒していることになる。

 もう勘弁してほしい。近くに幸い人がいないことが救いだ。

 近々機能性のある服を与えておかないとパーティーに変態を抱えることになってしまう。


「ふふふーん。今は存分に味わうといい。どうせ拝めなくなるんだからね」


「わかってるならむやみに飛んでんじゃねーよ」


 相変わらず俺をからかって楽しんでいる節がある。

 僅かに頬を染めているように見えるのは恐らくだが、全く羞恥心がないわけではないという事を物語っている。

 一時の恥よりも俺へのいたずらが勝ったという事だ。まったくいい性格をしている。


「アマトー!! もう大丈夫。私も支援するよ」


「頼む。常識人はユイナだけだからな」


「何の事!?」


 ユイナはあっけにとられながらも飛び掛かるモンスターの頭蓋を拳で粉砕する。


「頼りにしているってことだよ」


「もう、わけのわからないこと言ってないで早く倒してしまおうよ。二人をベッドで休ませてあげたいし」


「そのつもりさ。少なくとも俺だって布団で寝たいからな」


「私はお風呂に入りたいかな。日本人だし、お風呂と布団は欠かせないよね」


「だよな。そうと決まれば畳みかけるぞ!!」


「もう、二人だけしかわからない話はつまらない!! ボクもまぜてよね」


「なら、さっさとこいつら倒してくれ。話はそれからだ」


「こんな時だけ悪魔づかいが荒いんだから。しょうがないか……少し本気を出しちゃおうかな。いくよ!!『精魂破砕蒼白翔』」


 ルナが一瞬消えたかに見えた。

 青白く軌跡が一拍遅れて宙に描き出される。モンスターが蒼白の奇軌跡に触れるや否や急に動かなくなりその場に砕け落ちる。


「何をした?」


「精神と魂魄、肉体のリンクを切り離したんだよ。するとごらんのとおり、この程度のモンスターならこれでもう二度と起き上がることはないよ」


 悪魔だからできる事なのかルナが特別なのかはわからないが恐ろしい攻撃だという事はわかった。

 敵に回すことが無くなってよかったと安堵したのだった。

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