第99話「舞い降りた悪魔は俺の天使」

 目の前には血まみれの少女を背負ったまま地に伏すスペラの姿があった。

 一時間が過ぎるのを待ってもまだ戻らないスペラに、危機感を覚えた俺はユイナとルナを残して村へと向かおうと雑木林を出たときスペラの反応を感じたのだ。


 しかし、全くその場から動く気配がないことに不安を感じた。

 少なくとも動ける状態にないというのは察しがついていた。距離にして1キロメートル程と察知範囲からはぎりぎりの距離であったが、なんとかここまではこれたのだろう。


 もしももう少し距離が離れていたら見つけることができなかったかもしれない。

 暗闇というのは実に厄介なもので、日中に比べて視覚できる範囲が限定されてしまう。見つけられたのはアビリティがあったからという事もあるが、何よりもスペラのここまでたどり着こうとした意志によるところが大きい。


(背負っている女の人は誰? スペラがけが人を連れてくるとは思わなかったな)


 スペラが背中をみせられるほどの信頼を得た少女に僅かに、興味を持った。

 何より、背中の傷が自然治癒にしては早いペースで癒えていくことにある推測が浮かんだ。この少女が例の吸血鬼の眷属ではないだろうかと。


 それが事実であれば、ルナとはぶつかることもあるだろう。もしくは昔馴染みという事もあって元の鞘に収まることも想像できる。どちらに転んでも俺のフォロー一つで変わるような気がする。この少女がまともに会話ができるならばの話なのだが、それはユイナに治療をしてもらってから考えればいいことだ。


 今はスペラの帰還を素直に喜ぶことにしよう。

 俺はスペラを抱え、重傷の少女を背中に背負って足早にもと来た道を戻る。

 日が完全に沈んでしまえば例え一度通った道だとしても、迷う可能性がある。まして初めて訪れた地であればなおさら道を見失う可能性も高くなる。


 今、両手は塞がり背中に乗せるように少女を背負っている。とても走り抜けることなどできはしない。だというのにモンスターは襲い掛かってくる。

 俺は先程の戦闘で閃いた術を駆使して、獣、植物系のモンスターを蹴散らしていく。

 たった一キロメートルの道のりがこれほど遠く感じるということは、スペラ達の苦労はそれ以上だったに違いない。


「合流に成功したなら、もうボク達が待っている必要はないよね?」


 上空から、悪魔の羽を生やしたルナがユイナを抱いて舞い降りた。

 

「どうしてここがわかった? いや、入れ違いになったらどうするつもりだったんだ」


 俺はルナに対して思い通りにいかないことを嘆きつつ言った。


「アマトくんとの契約は特別だって言ったでしょ。この世界のどこに行ったとしてもみつけることができるんだなぁー、これが」


「まじか……」


「本当みたい……。迷ってる様子はなかったよ」


 ユイナのフォローがつらい。即ち俺はこの悪魔から逃げられないという事だ。覚悟はしていたつもりだが、どこにいてもというのは冗談ではないと思った。

 今は素直に安全の確保とスペラ達の治療ができる事を素直に喜んでおくとしよう.

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