第52話「スイートルームにて」
最上階は4階で、フロアの二分の一がスイートルームとして設けられていた。
ホテルには、次から次へ住まいをなくした者達が押し寄せているがホテルのスイートルームだけは毛色が大きく異なる為、無暗に受け入れはせずにいたことで追い出すような事態にはならなかった。
つまり、この部屋だけが唯一の空室となっていたのだ。
本来は金銭的な理由や貴族などの立場が確かな者にしか、宿泊は許されていないという。
俺達が泊まれるだけの宿泊料を用意できたのかもわからず、周囲に認められるだけの立場が確立できたという実感もない。
如何せん動きが早すぎて順応しきれていない節がある。
俺とユイナ、スペラは鞄をホテルマンに預け4階まで昇るとスイートルームに案内された。
エレベーターがないため4階まで階段を使う羽目になったが、この世界で生きている以上今後も自分の体が資本となるのだろうとは思っていた。
4階には客室が6部屋だが、スイートルームは一部屋で6室分の広さがある。
扉も豪華に装飾され際立っている。
まさに選ばれた者のみに許された贅沢と言えるだろう。
「こちらが当館で最上級の部屋でございます。ご要望の際は一階のフロント迄お越しください。最上級のサービスをご影響させていただきます」
ホテルマンは恭しく頭をさげ、代わりに運んでいた鞄を部屋へと下ろし、一階のフロントへと戻っていく。
サービスを受けるためにわざわざ一階まで行かなければならないのかと思ったが、そもそもこの部屋が使われることがそれほどなかったのだろう。
そんな単純なことに気づかないのだから。
だからと言って下層に伝える手段もろくに無いのだから仕方がない。
各部屋に電話機が置かれていたりしても、ミスマッチに戸惑うことになりそうだが。
実際はハイテク機器はないが貴族の住いのような豪華な部屋となっていた。
部屋は大小合わせて4部屋で構成されていて、部屋数は少ない物の一般の客室よりも遥かに広い。
寝室はダブルベッドがシングルベッド一つ分を開けて二つ。
中心のもっとも広い部屋は暖炉を完備している。
浴室には大理石の源泉かけ流しの温泉を備え付けてある。
もう、日が完全に暮れて真っ暗だが、部屋はというと光り輝く石がいい感じにムードを作り出している。
「アーニャ、早く御風呂に入るにゃ!! もう疲れたから、早く行くにゃ」
「いやそれはないから」
「そんなこと言ってユーニャとは入ったんだにゃ。ミャーだけ除け者にするのかにゃ!!」
「あれは事故で!!」
「やっぱり入ってるのにゃ!!」
「はめたわねっ!!」
「俺はこのまま寝る」
二人の言い争いを無視ししてベッドに突っ伏して眠ろうとしたのだった。
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