第46話「真相は謎のまま」

 完全な守りから攻撃を繰り出せることが敵のアドバンテージとなっている。

 それを崩す事ができれば必ず活路が開けるというもの。

 グリットを中心に俺とユイナ、スペラの立ち位置は三角形の陣形を取っている。

 

 俺達の連携は少しづつ形を成していた。

 誰がどう動けば戦闘を有利に進めることができるかを、各自が相手の気持ちになって行動しているうちに自然にこのような形になったのだ。


 玄関ホールは師匠の屋敷ほどではないが、テニスコートほどの広さはある。

 取り囲む立ち位置を確保すれば有利だと思っていた。

 俺が真後ろからグリットへ刺突を繰り出すが、糸は意思を持つかのようにガルファールへと蛇のように這いずり巻きつこうとする。


 真後ろへの跳躍で拘束される状況は避けることができた。

 完全な死角からの攻撃のはずがなぜ反応できたのか。

 グリットは俺が離れてからようやく振り返り糸の龍のように巨大な塊となってこちらへと放った。


 壁際で伏せていたユイナもこれを好機と、一気に距離を詰め団長の頭めがけてレクフォールを振りかぶる。

 やはり、振り返ることもなく軽々と躱して見せる。

 着地点にはスペラが回り込み雷を纏った拳を叩き込もうとしているが、地面に着地することはなく空中に張られた糸の上を早足で走り抜け、陣形の外へと移動する。


 完全にこちらの動きが読まれているかのような奴の動き、決して柔軟でも、素早くも、洗練されているわけでもないだからと言って未来予知とも違う。

 そこから予測できることはそう多くはない。


 先程全く動く様子もなく蚊帳の外となっているシャーリーの存在。

 木偶人形のように姿を変えたことも、声の一つも上げなくなったのも奇妙。

 そう、奴もまた俺達の戦闘を客観的に達観できる場所に位置取っている。


(見られている……) 

 

 だが、どうやって伝えているというのだ。

 言葉、音波、振動、光……考えれば考える程きりがない。

 それならば、こいつから潰してしまえばいいという安易な発想にはならない。


 何故かはわからないが、今は無表情に木偶人形になり切るこの少女は危険な感じがする。

 言動だとか、予想不可能な思考だとかではなく根本的に違う気がする。

 グリットがただの人形として、扱っていい者ではないのではないだろうか。


(考えろ……考えるんだ)


「そこにゃっ!」


 シャーリー、俺、グリットと一直線に並び対角線上であればスペラの姿は見えない。

 そこから牽制の雷撃を放つ。

 この位置に移動するまでの経路は全ての人物に認識される。


 スペラが敢えて声を荒げて攻撃を放ったのは注意を引く為。

 タイミングを合わせるように、俺はガルファールをシャーリーに標的を変更し風を纏った渾身の一撃を放つ。


「うぉおおおおおおおおおおおおお、烈風瞬刃!!」


 木偶人形はこれを大量の糸を壁に変えて受け止め無効化して見せる。

 ユイナは直接近接攻撃には出ずに、その場で杖に魔力を込めていく。


「シャットアウト!!」

 

 手練れにかけるのが難しいためここぞという時にしか使わなかった魔法が、グリットを捉える。

 師匠の時とは違い、効果は絶大だったようで、頭を抱えて恐怖にのたうち回り始めた。


「なんだ、どうなっている!! おいっ!! 何をしやがった!!」


 口調も切羽詰まったように荒げたものに変り果て、最早世界の終わりを見ているかのような表情をみせる。

 

「答えてやりたいがどうせ聞こえないぜっ!! これで終わりだっ!」


 無駄に舌なめずりをして、絶好の機会を潰すなどありえない。

 やれる時にやる。

 刹那という時の中で決断を下し、刀を上段から振り下ろすまで幾数秒と経つことはなかった。


 確かな手ごたえが刀を伝って俺へと伝えるが、眼前にはグリットではなく首を失ったネイの半身であった。

 全てが流れ落ちたわけではなかったということだろう。僅かに血を吹きだして、再び床へと転がる。


「油断も何もあったものではないわね」


 シャーリーは木偶人形のような姿から、長身の女性に姿を変えてそう呟いた。


「もう、契約の対価としては十分だったわ」


 そう言うとグリットは床に倒れたっきり動かなくなった。

 満足したように軽く絵欲をすると扉の方へと歩いて行く。


「どこへ行く!!」


「さあね。また、会いましょう」


 殺し合いなど終わるときはあっさりしたものなのだ……。


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