第41話「悪鬼羅刹となりてモンスター共を駆逐する」
巨大ロボットとの戦闘は思ったよりも時間はかからなかったものの、それでも30分程は無駄にしてしまっていた。
パーティーメンバーの居場所は薄らと感じ取れるが正確な居場所まではわからない。
「時間は無駄にしたくないからな」
俺は、ステータスの画面を開くとすぐにPPを50使い『駒観測』を取得した。
『駒観測』
条件:パーティーメンバー無条件 その他は素肌に触れる事
効果:パーティーメンバー、及び登録した者の位置情報を把握〈最大人数現在1人〉
アビリティは使い続けることで進化していく。
現状では正確な位置情報を察知することができるが、それは視覚的なものではなく感覚的なものだ。
向うにいるようだとわかるし、移動していることも距離感もわかるが目で見えているわけでも聞こえているわけでもないので、周りの状況であったり地形などといったことは何一つわからない。
確かなのは二人とも確かに今生きているという事、そして二人は尋常ではないほど動き回っているのがわかる。
恐らく何かと戦っている。
巨大ロボットと戦っている最中に、オークやヴーエウルフを見かけたからそのどちらかではないかと推測する。
今の二人ならばどちらも敵ではないと思うが、町長、ライオット、ダタラを守らなければいけない以上何があるかわからない。
早く助けに向かわなければいけない。
何かあってからでは遅いし、よきせぬイレギュラーな事態程怖いものはない。
辺り一面は瓦礫の山、煉瓦造りの建物が多いためなのか火種が少ないためか火事は意外と少なかった。
モンスターに蹂躙された町イコール火の海という勝手なイメージとは裏腹に、静かなものだと思ったくらいだ。
たいていの住人達は少しでも安全な家の中に立てこもっているのだろう。
モンスターは扉を開けて中に入るよりも路上にいる人間を優先して襲っているように見える。
今まさに牙の餌食になろうとしていた老婆の元に、駆け寄り群がるヴォーウルフを切り捨てる。
「お婆さん、大丈夫!?」
「孫、孫娘が……」
既に惨たらしい姿に成り果てた何者かをヴォーウルフが貪り漁っていた。
吐き気を抑えつつ、それらのすべてを一掃したが失った命が元に戻ることもなく広がる血の海がさらに平がっただけだった。
これで少しは気持ちがはれるのだろうかと、思いつつ振り返ると先程まで孫娘の死に動揺いていた老婆は
ヴォーウルフの餌食となっていた。
喉を掻っ切られたことで声を出すことさえできなかったのだろう。
僅かな隙を獣は見逃さなかった、勝てる相手を見極めて先に襲い掛かるのは野性的だとも思う。
ゲームや、戦争の親玉を倒しさえすれば集団は機能しなくなるなんてのは、死んでいった者達には酷というものだ。
親がいれば子がいるように、上があれば下がある。
強かろうが弱かろうが命としての単位は変わらないのだから、ボスがいなくあれば戦意を喪失したり、降伏するほど世の中甘くはない。
それを、獣は本能で理解し俺ではなく今も町民を襲う事をやめない。
「助けてくれー」
俺は声のする方へ行きヴォーウルフやオークを殲滅して回るが、護衛できるわけではない。
一度数を減らしても、どこからともなく現れて蹂躙して回るモンスターとはいつまで経ってもいたちごっこが続く。
町民もモンスターもどちらも無限でなく有限であるため、このいたちごっこもどちらかが全滅れば終わるだろう。
「おい!! こっちにこい!」
モンスターに追われる町民を俺の方へと呼び、それに気が付いた数人がかけてくるが間に合うことなくヴォーウルフに噛み殺されていく。
天冥の軍勢と戦いを繰り広げた戦場では二人だけしか救うことができなかった。
それも、ユイナとスペラの協力があっての事だった。
やっぱり俺は何もわかってなどいなかった。
小説や漫画の最強の主人公は全て一人で無理難題を解決していたが、俺にそんな器用なことは出来ない。
結局どれだけ強大な能力を身に着けていたとしても、違う場所で一度に起こった事象を解決することなどできない。
「どうすればいいって言うんだよ!! うっとおしい!! 消えろよーー!!」
叫びながら悪鬼羅刹のごとく手当たり次第ばっさばっさとモンスターを斬って回った。
あまりにも人の死ぬ瞬間を見過ぎて、心が摩耗しきってしまっていたのだ。
無意識のうちにモンスターの気配を追い、見つけては消す、見つけては滅することを繰り返し『危険察知』は『危険対象察知』へと変わっているがそのことに気が付くこともない。
今までは自分自身の危険に対して、防衛手段を取る為の手段として使っていたが、今は身の回りの危険になりうる全てに能力が作用する。
崩れかけた建物の前を横切る子供には、建物を粉砕することで助け、今まさに怪我を負い動けなくなっている男性を襲おうとしていたヴォーウルフに瓦礫を投擲し頭を撃ち抜く。
戦争によって兵器が生まれるように、今まで戦争に参加したこともない学生だった俺が危機に陥ることで急激な成長と能力を身に着けていく。
数十分間休みもなく刀を振るうことで、もうすでにこの状況になれている自分がいた。
アビリティの進化によって、格段に敵を処理する効率を上げたことによる安心感によるものだろう。
安心感を得ることは成長を阻害する。
常に窮地に立たされている方が、レベルアップには都合がいいのは明らかだが失うものも多い。
それが命というのであればそれ以上に事はない。
1km程に伸びたアビリティの有効範囲内のモンスターは一匹残らず、殲滅しつくした。
生き残った町民の人数までは確認することは出来ないが、想像しているよりはずっと被害は少ないとだけはわかる。
「勇者様だー」
「勇者様がモンスター共を全部やっつけてくれたぞー」
「勇者様が町を救ってくれたぞ!!」
「勇者様バンザーイ」
口々に賞賛の言葉を述べる町民たち。
恐怖と苦痛からの解放は、人々に至福と幸福な感情を呼び起こす。
例えそれが一時の物だとしても、人が生きる為に必要なことなのだから。
町のこの区画一帯は歓声に沸き、沈んで朦朧としている者へ生きる活力を与える。
雰囲気に呑まれるというが、それはなにも悪いことばかりではない。
周囲が復興に燃えているのならばその空気は伝播する者なのだ。
だが、モンスターを数百体と切り伏せ、死傷者の嘆きを聞き続けてきたばかりの俺は場に流されることもなかった。
ここにいる者達は目の前で行われた惨劇とそれが静まったことしか知らないから、これだけ能天気に騒いで入れるのだとさえ思ってしまう。
今も探知できる範囲外では殺戮が続いていると思う。
(本当にそうか?)
いつも疑問に思えば何かしら事態がおこっていた。
それはどれも良くないことばかりだった。
アビリティにも有効範囲があるのは理解しているが正確に線引きされたものではない。
電波のように曖昧なもので、誤差といえない程の差異は生じているのは自分自身が一番分かっている。
周囲の歓声など気にする余裕もなくふらつく足で北西の二人の反応の先、役所へと向かうが一向にモンスターの反応が見られない。
ユイナとスペラの両名はゆっくりとした足取りで北に進路を取っている。
1時間ほど前はあれほど動き回っていたというのに今は至極落ち着いている。
それは二人の勝利を意味し、確かに生き残ったという事だ。
偶然か必然化オークキングと双頭のヴーエウルフがモンスターを町に呼び込んでいた。
それを二人が討伐したことで、町にモンスターがなだれ込むのが止まった。
そして、アマトがいた場所にモンスターが集中したのは巨大ロボットが辺りの建物を破壊したことで町の中心の大通りにモンスターと町民が集められてしまったのだった。
そのことは、アマト、ユイナ、スペラの誰も知らない。
知っているのはこの事態を招いた者と、傍観者のみ。
どちらもアマトの味方ではないのは確かだった。
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