第39話「スペラVSヴーエウルフ群」
外に出ると、私兵団とヴーエウルフを中心にしたヴォーウルフの群れと交戦中だった。
辺りにオークがうろついているが、オークはモンスター同士で共闘することはなく単体で行動している。
しかし、敵の敵は味方という事もなくつぶしあうようなこともしない。
あくまでもモンスターのターゲットは人間という根本は崩れることはないのだろう。
それなら、むしろ何も考えずに優先順位を付ける必要もなくただ殲滅すればいい。
もともと深く考えるよりも直感型のスペラにとってはその方が都合が良い。
刹那の思考からすぐに行動を起こす。
私兵団を巧みに躱し、モンスターの群れに飛び込むと両手に握ったナイフを次々に、モンスターへと突き刺しては電撃を浴びせていく。
電光石火の一撃を受けたヴォーウルフは抵抗を許さず焼け落ちていく。
正確には近づいた時にはスペラの放つ稲妻の余波に当てられ、レベルの低いモンスターはその時点で既に失神している。
そこに無抵抗に止めを刺していくのだ。
「こんな雑魚共と遊んでいる程、お前たちは暇なのかにゃ!! 遊んでいる暇があるならさっさと仕留めて町の人たちの救助にでも行くにゃ!!」
私兵団のあまりの不甲斐なさに憤りを覚える。
そして、今までの自分の能力の事を鑑みてもモンスターのレベルが高すぎることに疑問に感じていた。
スペラ自身のレベルも跳ね上がり、パーティの契約による恩恵が凄まじいものだとしても敵の能力位は計ることは出来る。
そこから人間側が弱いわけではないのも理解している。
おそらくいままで遭遇した近隣のモンスターであれば、私兵団の能力であれば一人で一匹は無理なく処理できる。
だが、今は5人で一匹を倒し切れていない。
詳しいレベルまで、見極める能力は持ち合わせていなくても段違いであることは明白。
それならば、人間を鼓舞し続けていかなければいけない。
勇者はいるだけで希望を与えるのを知った。即ち自分が中心になって希望の象徴になるのが手っ取り早いのだ。
「行くにゃりおー!!」
オークは鎧を身に着けているがその分電撃は良く通る。
近寄る必要もなく電撃を放てば自然に引き寄せられるように、オークを消し炭に変えていく。
味方を誤って攻撃しないように細心の注意を払っているが辺りには電撃がバチバチと音を立て、味方のはずの私兵団の面子も顔が引きつっている。
「なんだ、あの娘は!! 恐ろしい程強いぞ!!」
「俺達が一匹を倒すのに苦労してるのに、あの子は単独で糸も容易く倒しちまうなんて反則だろ!!」
「ダタラはとんでもねえのを連れてきたな!!」
次から次へと切り裂き焼き払っていくスペラへ歓声が響き渡り、士気の向上へと繋がっていく。
劣勢に陥っていた私兵団は一匹になったヴォーウルフとオークの数を減らし続け徐々に巻き返していくことに成功する。
「俺達も負けてられない! 普段通りの力を出せばやれない相手じゃない、確実に勝てる相手だ!!」
「その通りだ。今までは町ん中だったから油断してただけだ。これからが本番だ巻き返していくぞ!!」
私兵団の総数は20人余りに対して6人は怪我が酷く戦える状態ではなくなっているが、それ以外の団員は辛うじて前線で戦える程度の状態を保っていた。
それでも命を落としたものがいなかったのは、指揮官がいなくても連携が取れていたからだろう。
「ジャン、団長はどこに行ったんだ?」
「それが、怪しい奴を見つけたからここは任せるって言い残してレベッカとボルターを連れて行っちったよ。団長がいたころはこんなにモンスターもいなかったんだよ。何がどうなってるのか」
ジャンと呼ばれたバーコードのような髪型の男が答える。
歳は三十路に届いていないだろうに苦労が絶えないのか、動くたびに髪が切なく靡く。
この男が臨機応変にモンスターを誘導して一極集中を防ぎ、程よくヘイトを集めているのだった。
「おめーらはその怪しい奴を見たのか?」
一同は口々に見ていないと言っている。
団長はこの私兵団を組織した初代団長であり、町長の親友でもあるが肉体派ではなく、知的な人物である。
頭脳派として優れているが戦闘は苦手だと知っている為、単独行動をしていることに不安が付きまとう。
「団長はどこに向かったのかはわかるか!?」
「向うに行ったな」
幾人かが指さす方は町の主要中心部で役所や憲兵の詰所などが集中している方角だ。
恐らくそのどこかだろうが、不審人物が近寄るにはおかしなところだとも思っていた。
何分怪しいから追いかけていったのだから、憲兵にでも見つかれば捕まりかねないのだから。
「団長が心配だぜ……ここが片付いたら俺も団長を追いかける」
「そうしてくれ! あの子が頑張ってくれたおかげでなんとかなりそうだからな。情けないが俺達じゃ追いかけたところで何かできるとも思えねえ。あの子と行ってくえっれば願ったり叶ったりだ」
皆、心配しているようだが目の前のモンスターのせいで足止めされ窮地に陥ることで追うことは断念していた。
少し離れた位置でそのやり取りを聞いていたスペラは、自分のいないところで勝手に話を進めている輩に対するいら立ちを目の前のオークへとぶつけていた。
奇しくも町長を送り届けるのも役所であることで、スペラは否応なく団長が向かった先へ行かなくてはならないとわかっている為なおさら、不快感が湧いてくる。
余計なことには出来れば関わりたくないが、この事件に関わっている可能性がある以上捨て置くわけにもいかない。
それは合流が遅れることを意味する。
「勝手なことばかり抜かしてるにゃ!!」
「そういうなよスペラ嬢。旦那たちも恐らく向かう先は役所だ。それに勇者ってのは平和の使者だろ? 株を売るにはこれ以上ない功績だぜ。スペラ嬢も旦那に褒められたいだろ?」
「せいぜい息巻いてればいいにゃ」
否定はしなかった。うまく乗せられたからではなく、無から有を生み出す手段として恩を売っておくのも悪くはないと思ったからだ。
もうここはテリトリーと呼べるほど地形を活かした戦闘にも慣れてきた。
私兵団の詰所は大通りから一つ脇に逸れた通りに面している。こちらは大通りの半分程の幅しかないので馬車であれば2台がすれ違うことはできないだろう。
馬車そのものが貴重な移動手段に分類されるこの世界では路上整備は、それほど進んではいなかった。
町の中は基本的に踏み固められた地面で、コンクリートでも煉瓦でも石造りですらない。
大通り程ではなくとも小柄なスペラには十分すぎるほど、動き回れるスペースは確保されている。
「一網打尽にゃ!!」
体中から漏れ出た稲妻が青い閃光となって、スペラを覆い尽くし雷に耐性のないヴォーウルフも迂闊に近づけず、闇雲に突っ込んでくるオークは鎧が電気を呼び寄せてしまい自滅していく。
あっという間に300体近いモンスターの数を50体まで減らす。
その時間は10分とかからなかった。
一人の猫耳少女の出現は確実にこの場にいた人々の命を救った。
それでも、達成感も優越感も得られず満たされることはない。
目的はあくまでも、身内の救援であってここで慈善事業に時間を費やすことではないのだから。
母が病に伏せたときには平気で盗賊を身代りにしたように、身内を最優先するあまりそれ以外はどうなろうと知ったことではないと思っている。
今、こうして目の前の兵士をモンスターから守っているのもアマトの事を尊重しての事。
最善足るはあくまで味方の利益であることは決して曲げることはない。
ある程度、防衛可能な戦力さえ確保できたと判断したら離脱するつもりであった。
だがそれはまだ許してはくれないようだ。
今まで見たこともない程巨大な双頭のヴーエウルフが建物の上を伝ってあとわずかで殲滅できるというところで、乱入してきたからだ。
首が二つというのも見たこともなく通常のヴーエウルフの3倍近い巨体は、小柄なスペラから見れば猫と像のようなものであろう。
それでも恐れることはなかった。
今のスペラには勇者の従者としての誇りがる。
それを確かなものにする為に双頭巨狼へと雷迅する。
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