第15話 北の玄武洞(ⅩⅡ)
ゴブリンから伝わってくる明らかな敵意・・忍び寄る死の恐怖・・これが本当に自分自身に起きている現実なのかとユナは混乱した。
ゴブリンは狂気に満ちた大きな目を一層見開き、ユナに狙いを定めるかのように右手に持った棍棒を大きく振り上げた。
ユナは戦うことも・・逃げることさえもできず、ゴブリンの攻撃に頭を抱えキツく目を閉じた。
ゴブリンがユナに近付き、棍棒を降り下ろそうとしたまさにその時だった。
ダンジョンの奥から、物凄い雷鳴と大気を震わすような地響きが鳴り渡り、辺り一帯の大地を激しく揺らした。
《・・!?》
ゴブリンは大きく体勢を崩し、転がるようにその場に倒れ込んだ。
ゆっくりと目を開くユナの眼前には、倒れこみ、驚き辺りの状況を必死に窺うゴブリンの姿が映る。
ユナは一瞬何が起きたのか理解出来なかったが、直ぐに想像がついた。
〈暗黒騎士さんと、刹那さんが戦ってるんだ・・勝てるかどうかも分からないドラゴンとの戦いなのに・・逃げたり諦めたりするどころか、真っ正面から立ち向かっていってる。それなのに・・それなのに私は・・〉
皆は最悪とも言えるこの状況を何とかしようと必死で戦っているのに、自分は恐怖で諦めようとしていたこと、絶体絶命だと・・もう無理だと勝手に思い込んで逃げ出そうとしていたことをユナは心から悔やんだ。
『私だって・・』
恐怖で震える心と体を必死に抑え込むように立ち上がり、再びゴブリンと対峙した。
慌てふためき、キョロキョロと辺りを見回すゴブリンを見つめるユナの瞳は、先程とは打って代わり希望の光に満ち溢れていた。自分の心を深く覆っていた諦めという濃い霧が晴れていくのを感じた。
《何だったんだ?》
倒れ込んでいた二体のゴブリンは顔を見合わせながら立ち上がり、戸惑いながらも再びユナへ狙いを定めるように、棍棒を持ち直した。
〈今の私にどれだけの事が出来るかは分からないけど、もう逃げない!諦めない!〉
ユナは自分に敵意を剥き出しにするゴブリンを睨んだ。
再び心に訪れそうな恐怖を振り払うかのように手に持ったロッドでゴブリンに闇雲に殴りかかった。
ゴブリンは正面から殴りかかってくるユナの攻撃をヒラリと軽くかわした。
《いいぞー、せいぜい頑張って抗え小娘!》
ニヤニヤと嘲笑するような不気味な笑みでユナを見つめ、いたぶるようにゆっくりと近付いてくる。
〈このまままともにやりあっても戦士職じゃない私では打撃戦じゃ勝ち目なんてない・・〉
ゴブリンはジワジワと距離を詰めてくる。先程の前向きな気持ちとは裏腹に、全く変わらない危機的状況からかユナは自分でも気付かない内に少しずつ後退りしていた。
しかし、意を決したように再びゴブリンをキッと睨み、体の前で腕を伸ばし持っていたロッドをゆっくりと回し始めた。
ゴブリン達はユナが何をしようとしてるのか分からず、顔を見合わせ首を傾げる。
〈今の私に残された力じゃどうなるか分からないけど・・賭けてみるしかない・・〉
更にロッドを回しながらユナは祈るように空を見上げ呟いた。
〈お願い!助けて!〉
ユナは呪文を唱えるように言葉を発した。
《この世が闇に覆われし時、光と闇の狭間より現れ、この世を光へと導きたまえ聖精霊》
回転するロッドは七色に光り輝き、ユナの僅か前方に魔方陣のような六芒星が浮き上がる。その魔方陣は神秘的な眩い白色に発光し、辺りを神々しい光で包んだ。
眼前の魔方陣の中央で、背中の透き通った羽根をパタパタとさせながら翔んでいる小さい妖精のような後ろ姿を、今にも意識を失いかけそうなユナの視線の先に朧気に映って見えた。
刹那達が中央広場で不気味な声を聞く30分前である。
V・W・G ~†リアルへの帰還†~ 聖那 @setuna-ku
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