─7─

「今はとにかく南下すれば良いんだよね??」

「ああ、予定通り。先ずはとにかく南下し、次々と拠点を奪取。

その内、ワイズヘイル側に動きがあれば、泰然たいぜんさんか猫パンチさんからこちらへ連絡があるから。それに応じて、オレ達は動けばいい!」

「──おい、足手まとい!」

「……」


 わたしはアルトさんに、念のため確認していた、んだけど……急に大きな声でそう言われた。

 カテリナさんだ。

 わたしは、また何を言われるのかと思い、困り顔を浮かべ身構えた。

 が、

「……今回もよろしく頼むな」


 ……え? しかも凄い笑顔!??


「あ、はい!!」

「……そうこう言ってる間に、もう見えて来たわね?」


 へ?!

 天龍姫てんりゅうひさんの言う通り、もう一つ目の拠点が見えて来た。


 実は移動速度を上げる為、召還術魔法である《ゴッデス・ウィング》を使っていた。行動速度全体が180%も上がっているので、とにかく早い!


 ただ……そんな訳で、もうから《カムカの実》をモグモグ食べながらの移動なんだけどね?

 でも、今回は道具屋のボルテさんから魔聖水を特別に安く分けて貰っているので、ちょっとだけ安心。本当は一つ500リフィルもする高価な魔聖水だけど、50リフィルにまけてもらった。


 それで25個も購入!


 どうしてかって?

 それはもちろん、わたしの裸を覗き見ようとした罰ですから、当然で。もうこれに懲りて、そういうのは辞めて貰うつもり。

 早い話が、一石二鳥?

 ライアスさんについては、いつもお世話になっているというのもあって……ただ怒った態度を見せただけで、今回は特に咎めたりはしなかったけどね?

 でもあの様子からいって、もうライアスさんはそういことはしないと思うし、信じたい。

 大体さ、本当に悪いのはきっとボルテさんに決まっているもの! そもそもライアスさんみたいな優しい良い人を、ボルテさんときたら……。


 わたしはそこまで考えていて、途中でその前の日にライアスさんがわたしの装備品の匂いを嗅いでいたのを急に思い出し、思わずカクリと肩を落とす。


 いやなことは、もう忘れることにしよう……。


 そうこう考え耽ってる間にも、拠点に到着。直ぐさまアルトさんたちと共に、中へと侵入し拠点を攻略した。


 僅か2分足らずで完了!


「よし、この調子で次々と行こう!!」

「はいっ!」


 その後も、数ヶ所の拠点を次々と攻略! かなりのハイペースだ。

 攻め取った拠点は、北西アストリア領マークと青い旗が烙印される。拡大・縮小可能なレーダーマップ画面で、その様子が確認出来る。


 わたしはそこで再び《ゴッデス・ウィング》を発動。それから、また南下するために走り出す!



「……やはり、アリスさんとパーティーを組んで正解でしたね」

「え?」

「『え?』じゃないですよ、アリス様! これは凄いです!! だって他のパーティーが今どこに居るか、レーダーマップで一度確認してみてください。

圧倒的に、私達だけがかなり先行してますから!」


 言われてみると確かに、凄い差が既に開いていた。

 南へ快進撃するわたし達から本体はかなり遅れ、少しずつわたし達が取り零した拠点を攻め取りながら下がって来ている様子が窺えるんだけど。それにしても結構な距離の開きがある。

 攻略した拠点の数も、現時点でランキング入りするほどに、わたし達だけやけに多い。


 そんな中、走り続けながらも思案気に俯いていた天龍姫さんが口を開いた。


「アルトさんに、ここで一つ提案しますね?」

「え? あ、はい。どうぞ」


「我々はこのまま南下すると見せ掛け、新道冬馬しんどう とうまが居ると思われる拠点、南東ワイズヘイルへ攻め込む!

……というのは如何でしょう?」

「ああ、なるほどっ! あの人って、本人も認めるかなりの地雷らしいですから。自分自身は本拠から動かないで、ジッとそこに居るんでしょうからね?

というか、『お前、地雷だからここで指揮だけやっていろ!』とか言われてるに違いないですよ!」 


 天龍姫さんの提案に、ミレネさんも納得顔でそんなことを言っていた。


「つか。でも居るとすれば、ワイズヘイル城内なんでしょ? 大決戦での本城防御力は、桁違いって聞くから。下手に手を出さない方が、よくないかな?」

「ええ、僕もマーナに同意です。単にフェイクを仕掛ける意味で、少し手を出す程度ならまだいいのですが。本格的にやりあうとなると、こちらもそれなりの被害を覚悟しないといけません。

それに、ワイズヘイル城までの移動ともなると、戦略的にも南下し過ぎていますので、Gパーティーとしての役割を果たせなくなりますからね」


 眞那夏マーナの慎重な意見に、柊一ランズは賛成みたい。わたしもそれを聞いて、なるほど納得。実際、凄く読みが深いよね!

 と言っても、両方の意見に思わず納得しちゃってたんだけどさぁ~。

 そんな自分に呆れ苦笑っていると、アルトさんがわたしの方を急に見つめ口を開いてきた。


「……アリスはこの件について、どう思う?」

「え?? と、言われましても……」


 天龍姫さんの提案も面白いと思うし、マーナとランズの意見も、もっともだと思う訳で……わたしには正直なところ、どちらが良いのかなんて判断つかないし、分からないよ。


「あの、えと……ハハ♪ アルトさんに全て、お任せします」


 結局は、こうなる。頼りなくてごめんなさい。


「じゃあ……そうですね。意見が別れているようなので、『現状維持』ということで。天龍姫殿、それでよろしいですか?」

「……ええ、分かりました。ちょっと残念ですが、仕方ありませんね」

「アリス様! 攻める方が絶対楽しいんですから、賛同して下さいよ、もぅ!」 

「ご、ごめん! 

だけどマーナとランズの意見も、尤もだと思ったもので……」


 わたしは困り顔に苦笑い、ミレネさんに謝りながらそう言って返す。


 そうこうやっていると、前方の拠点に敵兵の姿が見え始めた。

 しかも、メインパーティーを含むデッキパーティー編成みたい。つまり、軍編成。南西シャインティアの主力部隊の一つだと思われる。

 まだ拠点は攻略されてないみたいだけど、間に合うかどうか微妙なタイミング。仮に攻略されると、相手側に防御特典が付くので、少々厄介になる。


「……さて、間に合うかな?」

「悩む必要などありません。多少強引にでも、間に合わせましょう!」

「天龍姫様の言う通りですよ! 先ずは、この私が先発しますので、お任せあれ!!」

「私も行く!!」


 わたし達は、天龍姫さんとミレネさん、そしてカテリナさんの勢いに乗り、意見同じく頷くと、一気にその拠点へ向けそのまま走り向かった。


 拠点が赤い朱色に染まり、炎を上げ落城寸前の所で、わたし達は到着し。先ずは、大弓のミレネさんが得意とする超・長距離スキルで相手パーティー陣を次々と襲い。続いて、天龍姫さんが相手32名ものデッキパーティー群の懐へと、いち早く1人飛び込むなり、素早く一閃し。二本の片手槍を8の字を描くが如く高速回転させながら、まるで舞うかのように見事な連続スキル発動で次々と倒し進む。


 もちろん、わたしは召還術魔法を唱え、みんなの能力底上げを勤めた上でね?


 ランカーマークである赤い色のネーミングの人が居ないか確認したけど。どうやら1人も、このデッキパーティーには居ないみたい。

 ということは《ステルス・ホールド》は今回、必要ないっていうことで……。


 わたしがそうこう考えていると、拠点は落城し。相手側に、防御特典が入る。

 が、既に。この時点で半数近くも倒していたので、難なく城内へと進み、更に強引にこのまま押し倒すことに決めた。

 城内には、強過ぎる天龍姫さんの手から泡くって逃れた18名がまだ居る。

 ならば……!


 城内中央前方で大挙し、防衛戦の覚悟を見せる相手へ向け、アルトさん達が構え直し走り向かうのを見送り。わたしは空かさず、上級白魔法〈レジェヌドール〉と上級黒魔法〈ファイアスピリッツ〉の2つ魔法を発動。

 そして、〈フェルフォルセ〉を唱えシェイキングし、召還魔法を発動させた!


「《合成召還:炎の隷ファルモル!》」


「「「──!!」」」

 唱えた途端、わたしの目の前に大きな炎の塊が現れ、やはりどこか可愛らしい猫耳?らしきものを付けた愛嬌のある顔立ち。

 そのファルモルに対し、わたしはスキル発動と共に自動オープンされた《ターゲットスコープ》を城内前方視界域に合わせ、こう指示を出す!


「ファルにゃん! あの者たちを、なぎはらえ!!」


 ファルモルは、『うにゃ、うにゃ♪』と可愛らしくコクリコクリと頷き。驚くほどの素早さで、相手陣営の人たちをグルリと一周し、紅蓮の炎で焼き尽くし、消滅させていた。


 まさに、一瞬の出来事……。


「……今の、ヤバくないですか?」

「……ファルモルたん、やけに強いな? 一撃とか…」

「くそっ! 足手まといのクセに…」

「……強過ぎ、だよね?」

「……参りました。やはりアリスさんには、流石の私も敵いそうにありません…」


「いや! いやいや!!」

 みんな大袈裟だよ。だけど本当に、強くなってない??

 まさかこの邪龍神の杖とかのお陰で、能力が色々と強化されたから、なのかな?


 しかも驚くことに、撃破数ランキングにわたしの名前が載った。大決戦でランキング入りとか、思わずスクショ取りたくなるなぁあー!!


 でもそんな暇なくそれから早速、拠点を強奪し、次の拠点を目指し進む。

 その道中、わたしはもう浮かれに浮かれ、ウキウキ気分で走っていた。


「……アリス、嬉しいのは分かるけど。油断だけは、するなよ?」

「あ、ごめん……あ、いえ! ごめんなさい、アルトさん!! 気をつけますので!」

「つか、大丈夫! 危険を察知したら私が、アリスに直ぐ知らせるから、安心して!」

「……どうやらその危険が、早速現れたみたいですよ?」

「「「──!!」」」


 前方を見ると、デッキパーティー編成が2軍も並んでこちらへ向かって来ていた。

 つまり、総勢64名。

 更に西側からも、同じくデッキパーティー2軍が見えた。って、ことは……総勢128名!?


 これは流に分が悪いかも?



「仕方無いですね、《戦略的撤退》と参りますか?」

「ああ、ここは後続の応援が来てから相手するのが賢明だろうな。

さっき攻略した城辺りまで、一気に下がろう!」

「……私なら、あの程度の数、大丈夫ですよ?」


 ランズとアルトさんがそう判断し、撤退を決めたけど。間もなく天龍姫さんが、そんな思ってもみないことを涼しい顔で言う。


「私も、天龍姫様が大丈夫というのなら、それに付き合いますっ!」

「私も異存ない!!」


 ミレネさんとカテリナさんまでもが、そんなことを言い始めた。

 だけど、本当に大丈夫なの?? だってさ、相手の数ハンパないよ?


「待って! ここは流石に無理はしない方が……アリスもそう思うでしょ?」

「ん、ぅん……あの数相手だと、こちらも相当な被害が出ちゃうと思うので…」


「まあ……アリス様がそういうのであれば、このミレネ、それに黙って従いますが……」

「……ミレネ? この私を裏切るつもり??」


「──!! そ、そんなつもりでは……!?」

 そうこう言い合っている間にも、相手は詰め寄って来ていた。弓矢が数発足元へ着弾したことで、みんなハッとする。


「つべこべ言わず、とりあえずここは撤退だ! 今すぐ走って、後退!! ほらほら、急いで!」

「天龍姫さんも申し訳ありませんが、どうかここは従って下さい」

「……そうですか、分かりました。仕方ありませんね」

 わたし達はそんな訳で撤退を開始した、が……撤退予定の拠点が驚くことに、南東ワイズヘイルのデッキパーティーに攻撃を受けていた。しかも今回は、ランカーマークが複数名も確認出来る。


 間違いなく、強敵だ!


「くそ! 前と後ろ、合わせてデッキパーティー5軍か」


 アルトさんは舌打ちする。

 一方、天龍姫さんはこの状況を冷静に見つめ、口を開いた。


「これは参りましたが、前方の南東ワイズヘイル勢を排除するのが得策でしょうね? 

それにしても、随分と足の速い……なぜ?」

「待って! なんか東側にもデッキ2軍、居るみたいだよ!!」

「ちょっと、ヤバくない?!」

「クソ……苦しいところだが、ここは無理やりにでも突っ切るしかないか」


「ん……これは、まさか!!」

「え?」

 此処に来て、いつもどこか余裕な雰囲気のある天龍姫さんの表情が曇っていた……。

 そのあと直ぐに何かを調べ始め、次に困り顔を浮かべている。


「アルトさん……失礼を承知の上で、進言させて頂きますね?」

「え? あ、はい。どうぞ」


「口惜しいですが。この場を即時、放棄し、今すぐに北へ向かい。味方との合流を急ぐことをオススメします」

「「「──!?」」」


 つい先ほどまで好戦的だった天龍姫さんから、そんな思ってもみない言葉を受け、わたしを含めみんな驚いた表情を見せていた。




 そして同時刻、北西アストリア城内にて──。

「……これは、まさかとは思うにゃりが…」

「どうかされましたか、ねこパンチ殿?」


「突出している、アルト軍のデッキパーティー周辺の拠点周りに、突如として南東ワイズヘイル勢が多く入り込んでおるのが確認出来るようになったにゃのでにゃ……」


 各勢力の本拠地となる4城には、大規模や戦略をリアルタイムに可能とする5メートル四方もある大きな石盤が置かれてあった。

 アリス達が今どの辺りまで進撃しているのか等も、世界チャットから流れてくる情報などを参考にして、ある程度までその位置を特定することが可能となる。


 現在の配置図を見ると、アルト軍が南西シャインティア奥深くまで侵入していることが伺い知れた。


 そして今、恐らくアリス達が居ると思われる拠点周囲を含む北側と東側一帯が突如として、南東ワイズヘイル陣営の色に赤く染まり始めていたのだ。


「これは……拙い。直ぐに、指示を出しましょう!」

「頼むにゃ……しかし、迂闊であった…すまぬ、アリス…」




 ……そして更に、南東ワイズヘイル城内にて──。

「おーい、とまやん! どうやら作戦は、成功のようだ。

『ネズミは籠の中に入った!』、って報告だ」

「おお! ハハ、それは運がいい~。まともに相手にはしたくない2人が、あのデッキパーティーには居ましたからね?」


「運ってなぁ……結構、緻密な作戦だったろ?

わざわざ北東の情勢を、ああやって南西シャインティア側へ向かわるよう心理的に仕向け。しかも、当然突出してくると読んでの、この強固な配置だ。

更に、途中にある中央平原の拠点には一切、手をつけず。南西シャインティア領北部から侵入し包囲、という徹底振り。これには頭が下がるほどだよ」

「そりゃあ、だって……途中途中の拠点なんか取っていたら、こちらの狙いが相手にまる分かりだし。しかも移動速度まで、その分遅くなっちゃうからね? 

流石に、そんな緩い戦略も戦術もしないよ。

なので、向かわせた正規軍には前もって、『完璧に囲い込むまでは、周辺の拠点には一切手を出さないで』と伝えてあります」


「……君は、本当に怖い人だな?

この完璧な戦略と配置図を見たあとでは、色々と納得してしまうことばかりなんだが……とても俺なんかには、初めから考え切れるもんじゃない。つくづく、とまやん……いや、新道冬馬しんどう とうまが敵じゃなくて、本当に良かったと思えるよ」

「はは♪ それはお互い様でしょ? フェイルモードさん。

さ~て……こちらの正規連盟体デッキパーティー3軍と他3軍。そして、南西シャインティアからの西と南からの挟み込みに対し。彼らがどう交わし切るのか、実に楽しみですね? 

ハハ♪」


 南東ワイズヘイル城内でそうした会話がされているなど、わたし達は当然知る筈もなく。大決戦の大舞台で描かれ続けている戦略図は、今まさに、これから起こるであろう大激戦の予感を十分に漂わせるものであった。



─────────────────

 第五章 《Gパーティー結成!! いざ、大決戦へ!》 おしまい。

 そして、大決戦の舞台は第六章まで続きます。乞うご期待?


 本作品をお読みになり、感じたことなどをお寄せ頂けたら助かります。また、☆評価やコメントなどお待ちしております。

 今後の作品制作に生かしたいと思いますので、どうぞお気楽によろしくお願い致します。




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