2章:国民の8割から不支持の自公が6割の衆院議席獲得~民意を裏切る日本の選挙法

   【2014年末・安倍自民解散総選挙/比例代表にこそ現れる民意】


 2014年12月、安倍晋三が首相を務める与党・自民党が解散総選挙を行った。

 朝日新聞の朝刊(12月16日号)に日本全国での各政党の総合得票数と得票率が掲載されていた。最たるポイントは、自民党の全獲得票数の割合だ。結果、小選挙区選挙では全体の48%、比例代表選挙で全体の33%だった―得票数は前者が全投票数約5千3百万票のうち約2千5百万票、後者は約5千3百万票のうち約1千7百万票だった。

        日本の現行の衆院選挙制度では、注目すべきは常に

              

 なぜなら小選挙区よりも比例の方が政治に対する民意をより反映するものだからだ。


 小選挙区というのは各地域、各選挙区ごとで個人を選ぶものであり、比例とは日本全体という大きな視点から政党を選ぶものである。そして、地域の政治家個人の政策理念よりも、政党という政治家集団のそれの方が遥かに世に知られている。各地域の政治家が自らの政治観をアピールできるのは基本、総選挙の期間、2週間ほどに限られる。


  そのため、小選挙区の選挙戦では個性やインパクトが最たる選択基準になり、結果、中身のよく分からないタレント議員や美女議員が当選する事になる。何よりも親の名前によって知名度がある議員に有利であり、政界にあふれるほど二世・三世議員がいるのも小選挙区という温床があるからだ。

 今回、あれほどメチャクチャな政治資金の乱用をして閣僚辞任した小渕優子が、それから間もなく行われた今回の総選挙でやすやすと再当選した。そのバカげた出来事もまた、彼女が親の七光りと美貌の両方を兼ね備えている事を考えれば当然のことと言える。小選挙区とは第一にタレント性やコネが生きる場であり、AKBの総選挙とも本質的にはそう変わらないのである。


    一方、政党は、その動向を伝えるニュースが毎日のように報じられている。

     そのため、世間の多くの人にとって、地元の政治家についてよりも

      各政党の立場や考えかたに対する理解度の方が遥かに大きい。

        したがって、比例代表選挙の方が政治に対する

          民意をより大きく反映するものになる。


 今回の総選挙で自民党の比例の結果は、全体の33%。つまり7割近くから不支持を受けている。なおかつ、これはほぼ5割の投票率という狭い中での事であり、仮に残る5割の投票に行かなかった人たちの半分が反自民であれば、自民党の支持率は20%にまで落ちる。要するに、自民党は国民の8割から反対された政党になる。この数字は計算上の推測になるが、決して今の日本国民の気持ちと大きく矛盾するものではないだろう。

       今回の総選挙の結果、国民の8割から反対された自民党が

    政界のセンター、衆院議席で6割以上の勢力、パワーを持つ事になった。

       これは民主主義国家において、ありえない事態である。



       【比例代表制が、なぜオマケのようになってるのか?】


 国政選挙が民意を反映しない根本的な原因は、小選挙区重視の“小選挙区比例代表並立制”という現行の日本の選挙制度にある。前述したよう、政策理念が世の中に広く浸透した政党を選ぶ比例代表選挙こそ、政治に対する民意は強く反映される。


 『比例代表制』に関するWIKIPEDIAを見れば分かるが、世界の大半の民主主義国は国政選挙で比例に重点を置いた選挙システムを取っている。一方で日本と同じ並立制を取る国々は、韓国やメキシコ以外はアジア、アフリカ、東欧などの途上諸国ばかりだ。

 比例代表制とは、国民が政党を選挙で選び、その獲得パーセンテージに応じて各政党が議員を自らの党に割り当てるというシステムである。

 例えば、アメリカでも大統領選挙の候補者を決める民主党の予備選挙では、比例代表制が取られている。各州に代議員を複数人わりあて、候補者の獲得票数のパーセンテージに応じて代議員を得て、最終的にその代議員の総数で勝敗を決める。

 例えば、その州に10人の代議員がいて、A対Bの選挙が6:4で終われば、負けたBの候補にもちゃんと4人がつくのである。一方、小選挙区選挙のような勝者総取り方式では、勝ったAの候補が10人すべてを取る事になり、4割の民意が消えることになる。代議員がいる限り間接的な比例代表制とも言えるが、日本の並立制などよりは民意が遥かに大きく反映されるものである。


      だが単純に、完全・比例代表制にすればいいというワケでもない。

     比例代表には大きなワナが潜み、それだけでは、全く不十分なのだ。

 

 政治とは理念や政策と共に政治家個人の力量もまた重要なポイントとなるものである。しかし完全比例代表制になれば、その個の力がほとんど無視され、理念・政策という点だけで政治が動いてしまう事になる。つまり、立派な考えを持った政党でも、立派な政治家を抱えているとは限らず、もしその点でギャップのある政党が選挙で大勝すれば、数多くの無能な政治家が世に出てしまう事になるのだ。


 最も分かりやすい例をあげれば、やはりになる。共産党は常に反自民の急先鋒に立っており、特に今のように自民が保守化する時代では、その反動現象として急進的な共産党の理念が広く国民に支持される。

 しかし、だからといって単純に共産党の議員が国会で多数派勢力となっていいワケではない。共産党内には国民に支持される有力な政治家の数が少ないため、個の力という点で民意を裏切ってしまう事になるからだ。国会は理念だけが動き回る場ではないのだ。



           【ドイツの“併用性”という突破口】

 

 単純・比例代表制の問題点を解決する方法として、ドイツが取る小選挙区比例代表“併用性”があげられる。

 カンタンにいえば、それは比例代表の結果を最優先事項にし、その政党獲得パーセンテージを元にして、小選挙区で勝った議員をそこに当てはめてゆくという選挙法だ。これこそ、真の民主主義国家が取るべき、最良の選挙法であるハズである。

 古い人たちは未だに過去の“中選挙区制”に戻すべきだといっているが、それは明らかにアイマイで分かりづらい。それに較べ、“併用性”はよりシンプルで公平なものだ。


 だが実際、日本では未だに“並立制”。小選挙区と比例は完全に分断されている。

 さらに衆議院選挙では比例の議席の方が遥かに少ない

今回の総選挙では、衆院総数475議席のうち、比例は180議席―全体のたった37%である。何度も書くが、比例こそ国政に対する民意のよりどころであり、この数字は明らかに政治家が自分たちよりも国民を小さく見ている事の表れである。仮に小選挙区の割り当ての方が37%であれば、今回の総選挙で自民の圧勝にはならず、与野党の連立政権が組まれていただろう。

 

 そもそも、“小選挙区”、“比例代表”という呼び方がヒドく分かりづらく、比例が選挙の“オマケ”であるかのように響く。その実質から見れば、


            “”と“


とでも言い換えられるものである。こうすれば有権者の意識も変わり、後者こそ選挙でより重要なものだと把握できるハズである。



        【政治的な多様性こそが、民主国家のベースにある】


 小選挙区重視の選挙法の弊害として、政治が独裁化しやすくなる点もある。政治家が政党の単なるコマとなり、政策決定のための数字に過ぎないようになってしまうのだ。

 特に、今のような保守の時代では、自民党の中でも保守的な層ばかりが選挙で勝ち、彼らが国会で多数派になる。その結果、保守一色になり、どんな政策決定においても、1つの反対もなく全員一致で通るという異常事態が起こる。そんな、今の日本では日々、平然と行われているのだ。

 その元には、勝者総取り方式という選挙における小選挙区制度があり、それによって主流とは異なる多様な政治家が切り捨てられていっているのだ。


      一国の非民主化とは、政治家が多様性を欠いた時に起こる。


 その結果、顔のない政治家、1党首の独善的な政策に賛成する数でしかない政治家が国会にあふれる事になる。このような小選挙区の弊害は、元衆院議員、田中眞紀子が繰り返し訴えている事でもある。彼女は小選挙区がある限り、自民独裁は終わらないと考えている。


   今後、日本で国政選挙のシステムが抜本的に変わる見通しは立っていない。


 昨今、一票の格差問題で最高裁が総選挙の無効判決を下した事などで、その気配は感じられるようになった。

 だが、小選挙区重視の“並立制”自体、選挙の根本的なやり方自体への批判はほとんど聞かれない。大体、選挙システムを決めるのは政治家であり、既存の選挙法で国会議員になった人たちが、それを積極的に変えようとするワケがない。それは国会議員が自らもふくむ公務員の数や給与の削減を決められないのと同じ事だ。

 だが、希望はある。今回の総選挙の大敗を受け、野党各党は自公に対抗できるよう結集する意志をようやく固めたようだ。小選挙区重視、勝者総取り方式の国政選挙である以上、それは野合ではなく現実的な必勝法なのだ。


 与党が変わらない限り、とりあえずは現行の欠陥だらけの選挙法に従って、現実的に勝利する道を探らねばならない。そうして勝った上でそのトップが勇気を持って、民意を裏切る選挙結果にならないよう、選挙制度の抜本的な改正をやればいいのだ。

 

     引いてみれば、この小選挙区から比例重視に向かう国政選挙改正は

     政治資金の全廃や議会制から直接民主主義への移行と並ぶような

         日本政治における最もコアな改革の1つだろう。


 そこが変われば民主主義は大きく飛躍する。そして、これらのことは、まちがいなく20年とか30年とか、そんな遥か先の未来まで待つ必要はないものである。<2014/12/16>■

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