第12章 ジェミニの章 パートⅠ

アンガスとギルタブが城下にジェミニを連れて戻ってきたのは、青龍メリクとキッドとジュニアの集団が一箇所に集合し始めた頃だった。

その頃にはヨウフェーメーは医務室に戻っており、リブラの石を持つヨウフェーメーの元へと担架に寝たままの状態のジェミニが運ばれようとしていた。

問題の災害が起きた中心にはジェミニのみが死に絶えていた。

アンガスとギルタブは災害の騒動を引き起こした最重要人物または、今回の主犯格と位置づけ、その罪を問うべくジェミニを城下へと連れ帰ることにした。

死者をも蘇らせる力があるヨウフェーメーに頼めば、息を吹き返した犯罪者を処罰できる。

騒動の責任を誰かに取らせるのは社会のルールとして当然である。

死者であれ蘇れば罰を負わせることが出来る。

それがこの世界の習わしであった。

災害であっても戦争であっても誰ひとりとして無駄に死ぬことはない。

運命の石を蘇らすことさえ出来れば、死に瀕した体であれ健常者として復活することができる。

しかし、今ヨウフェーメーは「生」の石を手にしていない。彼女の手には「金」の石、リブラの石の二つである。

蘇らせる力は今は持っていなかった。

幸いジェミニは、城下へ搬送されている途上で死の川を渡らずに蘇っていた。

アンガスとギルタブにはその理由はわからなかったが、疲弊している体を酷使してまで罪を問うことはせず、養生するようにとヨウフェーメーの元へと送っていた。

ジュバ国王「今回の任務ご苦労であった。隣国には使者を派遣し状況の確認と報告を済ませている。心配には及ばない。例の男は回復次第、罪状を言い渡す。それよりもシャウラが心配だ。城下に現れたドラゴンがまだ何処かで暴れているらしい。戻って来たばかりですまないが、シャウラを頼む」

アンガスとギルタブはジュバ国王に敬礼し、休むこと無く城下を後にした。

ヨウフェーメーの元にジェミニが連れてこられると、リブラの石と「金」の石が呼応するかのように光りだす。その光はジェミニの体を治癒し始めた。

ジェミニの運命の石は、このリブラの石だった。

ヨウフェーメーが割れたリブラの石を「生」の石で治癒したことによってジェミニは息を吹き返していた。

そして、今は自分自身の運命の石を手にすることで、ジェミニは元通りの体に戻ることが出来た。

ヨウフェーメーは、ジェミニにリブラの石を手渡した。

ヨウフェーメー「あなたが起こした災害は、町を一つ破壊しました。罪を償うべく、私とともに国王の元へ行って頂けますか?」

正気を取り戻したジェミニにヨウフェーメーが問う。

ジェミニ「私が死していた間の事を教えて欲しい。私が起こした災害とはどんなものだったのか」

ジェミニの記憶は断片的に消失しているのかと、ヨウフェーメーは診断した。普段であれば「生」の石を使って診断していた事だったが、今はその力を利用することが出来ないため、今までの経験で診断した。

ヨウフェーメーは全て国王の元でお話するのでと言いながら、一緒に来るようにとジェミニに自らの肩を貸す。

ジェミニは、ゆっくりと体を起こし自らの足で地面に立った。

ジェミニは、山に居た頃の体力を取り戻していた。

ヨウフェーメーの後を付いて行き、王座のある謁見室へと向かう。

ジェミニの後ろには3人の近衛兵が逃亡しないようにと槍を突き出していた。

ヨウフェーメー「連れてまいりました。彼も運命の石を持つ者です。彼の持つ石はリブラの石」

ジェミニは跪き、両手のひらに乗せたリブラの石を見せる。

ジュバ国王「ありがとう。神の子よ」

ジュバ国王はヨウフェーメーに対し、軽い会釈をするとジェミニを見つめ、声の出ない唸り声を洩らす。

ジェミニは国王の顔を見つめ、これまでの経緯を説明した。

何故死ぬことになったのかは分からない。修行中の息子を探していたという事を説明し終えた後、ヨウフェーメーがジェミニが亡くなる少し前から今までに起きたことを話し始める。

城下で救出した少年がジェミニの探している息子であろうと推測しながら、ジュニアが城へ攻撃してきた青龍メリクと戦っていたこと、そのジュニアがリブラの石を持っていたこと、その時はリブラの石が割れており、恐らくジェミニが亡くなった理由はその争いにあるなどが明るみになってくる。

そして、今は「生」の石をヨウフェーメーは持っていない事を、ジュバ国王にこの時初めて説明した。

青龍メリクは「生」の石を追っている。その持ち主が今は危険であるということが紐解かれる。

災害を引き起こしたのは、逃亡したジェミニの息子ジュニアだったのか?

息子ジュニアは何時リブラの石を手にしたのか。何故、その石が割れていたのか。

青龍メリクは今も息子ジュニアと争っているのか。

ジュバ国王の元に知らされる新しい事実の膨大な数、その説明全てに対してジュバ国王は唸ることしか出来なかった。

ただ、何から手を付けるべきかは明白だった。

今回の騒動の発端は、息子ジュニアと青龍メリクとの関係にありそうだと言うことは確かだろう。

国王は二人に外出の許可を与え、ヨウフェーメーには「生」の石を再び持ち帰るよう新たな努めを与えた。

アンガスとギルタブの兵団が移動する方角に、二人も後を追う形で城下から旅立つ。

一方、休息を終えた運命の石の一行は、お互いの強すぎる力を抑制するために互いの石を交換する。

近くに居ても精霊の力を抑制するにはお互い持ち替える方が良いとのラムの指摘からだ。

シャウラ「スピア、お前に生の石は不釣り合いだ。ヨーメーに返せ」

スピカ「ああ、俺も金の石がいい。人生にはお金が必要だ」

お互いの石を交換するため、スピカ共々城へ向かうことにした。

一行がアンガスとギルタブの兵団と交わるのにそれほどの時間を要しなかった。

この移動中にもジュニアは疲労の為か目をさますことがなく、アクベンスやシャウラ王女の馬に繋がれた精霊で作った木の馬車に揺られていた。

アクベンスが馬車の騎手となり、シャウラ王女他はお互いの立場を説明し合う。

シャウラ王女は城下で見つけた少年ジュニアについての説明を控えた。

カシミールとキッドが探している父親と息子は、まだ見つかっていない。ジェミニの石も何処にあるのかは不明だ。

ジュニアの意識が回復することで、少年がカシミール一行が探している息子なのか、そうでないのかは分かるだろう。

もし息子となれば、精霊の反乱を生み出した父親は罪人となる。

シャウラ王女はこの事をどのように説明するべきか悩みながら口にはしなかった。まだ、息子であるという確証がなかったからだ。

アンガスとギルタブの兵団と合流したシャウラ王女一行は、青龍メリクを警戒しながら城下への帰路に経つ。

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