第10章 ヴァーゴの章 パートⅡ
ヨウフェーメー一行は、シャウラ王女と別れた地点に辿り着く。
青龍とジュニアとの戦いで荒れた山林の奥深くにシャウラ王女は、ジュニアを抱き寄せて泣いていた。
ジュニアの手の中で、リブラの刻印が刻まれた石が真っ二つに割れていた。
ヨウフェーメー「シャウラ王女。彼を私にお預けください」
ゆっくりとシャウラ王女を驚かせないよう近づきながら、そっと耳元で囁いた。何度目の言葉だっただろう。シャウラ王女は、ハッと驚いた顔を私に向けた。
シャウラ王女「ヨーメー!ヨーメーか!城はどうした!何でここにいる!こいつを……。こいつを蘇らせろ!!」
どれだけ長い間、泣いていたのだろう。
目を充血させて泣きながら、男の子を抱えていたのだろう。
この割れたリブラの刻印がこの男の子の運命の石だったのだろうか?
でも、この石を元に戻せれば、この男の子は蘇るかもしれない。
やるだけのことはやってみよう。
ヨウフェーメー「シャウラ王女。お任せください。精霊っ」
力強くもなく囁くように優しく風のような声で、目を瞑り手をそっと男の子にかざした。
優しい光がリブラの刻印が刻まれている石を包み、男の子を包み始める。
暫くすると、石は元の形に戻りはしたものの、男の子は目覚める様子がない。
このリブラの刻印の石がこの子の運命の石ではないのか?
そもそも、この子は私の力で目覚めたのではなく、自らの意志で目覚め、自らの意思で青龍と戦い始めたのだ。
私が初めて会った時と同じ状態に、今この子はなっている。死んでいるわけではない。意識不明というわけでもない。この子を動かす動機が無くなってしまったかのような、機械的には充電切れのようなニュアンスに近い。精霊の力を充電しているようなイメージだ。
そうか、ならば、この辺りにいる木の精霊、水の精霊、火の精霊、風の精霊、彼らの力でこの子は目覚めるのかもしれない。
私の精霊の石に、周辺精霊の力を集めよう。
そして、この子に。
ヨウフェーメー「さあ、精霊達よ。力を貸してください」
ヨウフェーメーの運命の石の力に精霊の力が交じり合い、七色の輝きをあたり一面に輝かせていた。
これまでに見たこともない精霊の力が、一つになって男の子の体に入り込むと体の中に入っていた運命の石が輝きだした。
ヨウフェーメー「なんていうことだ。この子は……そうだったのか……」
シャウラ王女に抱えられていた男の子は、目を覚まして起き上がった。
自分が何者であるのかをこの時初めて、城下で助けてくれたシャウラ王女に伝えた。
シャウラ王女「お前の名前はジュニアというのか」
アクベンス「では、あの精霊の反乱は……」
ジュニア「恐らく僕のお父さんが」
アクベンス「一人でやったのか……サンガス・ギルタブ陛下に伝えなければ!」
アルレシャが飛び出して行きそうなアクベンスを静止させた。
アルレシャ「そちらは私が!アクベンス殿は、ラムを青龍をお願いします」
ヨウフェーメー「シャウラ王女は私と城へ。国王陛下が心配なさります」
シャウラ王女「いや、まだ戻れぬ。ジュニアの父上の事も気がかりだし、ラムと青龍をこのままにはしておけぬ。一刻を争う急ごう。アルレシャ、まずはラム殿と青龍からだ。その後、ジュニアの父上を探す。連れて行ってくれ」
シャウラ王女はアルレシャに手を伸ばし、馬に乗せるよう指示した。
アルキバ「おお、いたいた」
大烏がヨウフェーメーに襲いかかる。
アクベンス「青龍の使い鳥か!こんな時に邪魔しに来やがって」
アクベンスは、剣を抜いて切っ先をアルキバに向ける。
アルキバ「ちっ!ミスったか。これはまずったな。話し合おうじゃないか」
アルキバは、アクベンスをちら見すると交渉を要求し始めた。
アルキバ「俺は戦いに来たんじゃない。もう青龍メリク様とは関係がねえ。あんたの持っている運命の石が必要なんだよ。それはあんたの運命の石じゃないだろう」
アルキバはヨウフェーメーに向き合うと、地面に着地した。
アルキバ「俺はお前の運命の石を持っている」
そういうとスピカより受け取った運命の石を地面に吐き出した。
まばゆい金色の光を放ち、ヨウフェーメーに引き寄せられる。アルキバは足で掴んで地面に踏みつける。
アルキバ「一石二鳥とはこの事か。一石二人か。まあいい。そこの男。お前の母子がお前のことを探しまわってるぞ。まあ、そのうち引き寄せられるか。運命の石の力によってさ」
アルキバはジュニアを見つめた。
ヨウフェーメー「それが私の本当の運命の石とはどういうことだ。私の運命の石はこの生の石だ」
アルキバ「違う違う。それはスピカってやつのものだ。お前さんはヴァーゴだよ。サジテリアスはスピカだよ」
アクベンス「スピカ殿も運命の石の持ち主だったのか!」
シャウラ王女「スピアか。あながち間違いでもないか」
ヨウフェーメー「なぜ、お前がその石を持っていた。スピカ殿をどうした!」
アルキバは殺気立つ一行から距離を置くために翼を広げて空中でホバリングを始める。
アルキバ「おいおい。誤解しないでくれ。俺はスピカに頼まれてきたんだ。あと、その旅の一行にそこの男の子を見つけてくれってさ。ここに集まる皆と真逆の運命の石を持った一行だったよ。そこのオジサンの石も合ったぜ」
アクベンス「レグリーか……」
アルキバ「とにかく、自分の石を持ってみろよ」
アルキバは無造作に足に持っていた運命の石をヨウフェーメーに投げた。
ヨウフェーメーは、金の運命の石を手に持つと、リブラの刻印が光を放ち呼応した。
ヨウフェーメー「大烏よ。生の石をスピカへお渡しください。そして、直ぐにこちらへと連れて来てください」
ヨウフェーメーが地面に降りたアルキバに生の石を渡している時に、アクベンスがアルキバの羽根を踏みつけ剣先を向けた。
アルキバ「なんだよ。まだ疑ってるのかよ」
アクベンス「おい!大烏。俺の運命の石を持って来い!」
アルキバ「俺にも一応名前ってのがあるんだよ。アルキバって呼んでくれ。だがな。そいつは俺の契約に含まれちゃいねえんだ。諦めな!」
アクベンス「生の石をスピカに返しに行くのだろう?その時にレグリーという女に伝えるだけでいい。運命の石を返して欲しがっているって、それで分かるはずだ」
シャウラ王女がアクベンスの肩を叩く。
シャウラ王女「アクベンス!お前の精霊は、あの炎に包まれたレオじゃないのか。危険だ!」
アクベンス「青龍が復活したなら、あれぐらいのやつが居なければ」
アルレシャ「まだよ。まだ復活してない!ラムが居るわ!私だって!アルキバを放しなさい!アクベンス!」
今度はアルレシャがアクベンスに剣先を向ける。
アクベンスはそっと踏みつけていたアルキバの羽根を開放した。
ヨウフェーメー「リブラの天秤が揺れている。一処に留まることを拒んでいるかのようだ。力が溢れ出している」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます