第5章 アリエスの章

側近「ジュバ国王!大変です。東の外れより大量の鳥達が、この国に向かって急速接近しております!このままのスピードでこの城を目指されれば到着はおよそ1時間後とのこと!直ちに城門等、全ての扉をお閉めになられますよう、ご命令ください!」

西ではジェミニが暴れて精霊を操り、東で今度は大量の鳥達がこの国へ向かって飛んできている。これまでにない大荒れの天気であることは確かだ。

今、アンタレス国は国家存亡の危機に直面している。

ジュバ国王「ついにこの時が来てしまったか!よりにもよってこんな時に」

恐らく、どんなに優秀な国王だったとしても、取り乱したであろう。

鳥の大群は、他国を飛び回り災いをもたらしながら少しづつアンタレス国に近づいていた。

その頃、猛スピードでアンタレス国の東の一帯を飛び回っていた大群は、緑青色の小さなドラゴンを先頭にハト、タカ、ワシ、カラスと大型の鳥達を引き連れて飛んでいた。

メリク(緑青色の小さなドラゴン)「ファクトよ。北の土地を調べよ。運命の石を見つけたら報告せよ」

ファクト(ハト)「了解!」

メリクの指示に従って、ハトの大群がファクトと呼ばれた少し大きめの白い鳩に連れられ、城より北にある土地に飛んでいった。

メリク「タイル、シャイン。南と西の土地を調べよ。運命の石を見つけたら報告せよ」

タイル(タカ)、シャイン(ワシ)「了解!」

タカやワシの大群もメリクの指示に従って、南と西の土地に飛んでいった。

メリク「アルキバ。ここに残れ!東の土地を調べよ。見落としがあるかもしれない」

アルキバ(カラス)「へいへい」

カラスの大群は東の土地に留まり、その他の鳥の大群はメリクの後を追い、アンタレス城を目指した。アンタレス城は、アンタレス国の中央よりもやや東側にあり、鳥達の城への到着は早かった。

他国を大捜索し終えた鳥達の大群は、アンタレス国中にその勢力を広げ飛び立っていった。

メリク(我の運命の石が、この地の何処かにあるはずだ。アリエスの刻印を刻んだ石よ。待っているがいい。このようなナマクラな石。アクエリアスの刻印など、誰が要りようか!本来の持ち主の顔面目掛けて吐き出してやる!)

その頃、シャウラ王女は珍しくアクベンスの度重なる説得に応じることもなく2人の兄弟の元へと向かっていた。

シャウラ王女とアクベンスがサンガスの元にたどり着いた頃、アンタレス城にメリク達が到着し、城の周りを取り囲んでいた。

メリク「この国に運命の石があると聞いた!それを全て集めてここへ持って来い。さすれば、この国を滅ぼすことはしない。国王よ。聞いているな!」

ジュバ国王「西の地はどうなっておる。隣国はいつ滅びた?」

王座より数段下にいる側近にジュバ国王が尋ねた。

側近は国王に向き直り深々とお辞儀をし、頭を上げずに話し初めた。

側近「隣の国々は滅びてはいないようです。運命の石の噂が世界に広まったようです。最近の王女様のご活躍によるものかと・・・」

目を合わすこともなく話し終えた側近は、またいつもの見張り位置へと向き戻った。

ジュバ国王「シャウラか、仕方がない子だ。シャウラは今何処にいるのか?」

誰に尋ねる事もなく、独り言のようにつぶやく国王に側近達はあたふたと情報をかき集めるべく動き始めた。側近達が玉座の間より数人出ようと扉に手をかけた時、バタン!と扉が開き、ヨウフェーメーとシャウラ王女の侍女アルレシャが玉座の間に入ってきた。

ヨウフェーメーは国王の前で可憐に頭をもたげ、美しい瞳を国王に向けた。

ヨウフェーメー「運命の石なら私が持っております。目当ては私でありましょう。行って話してまいります」

ヨウフェーメーにささやかに魅了されながらも、正気を保ちながら国王はヨウフェーメーを諌めた。

ジュバ国王「話の通じる相手ではあるまい。神の子よ。ドラゴンに身を捧げてはなりませぬ。あなたの力はまだ我々には必要です。どうか、留まりください」

国王にとって、ヨウフェーメーは絶大な力を持つ神の子である。国王よりも身分の上の人間を安々と表に出すようなことがあれば、国の笑いものとなることは明らかで暴君として後世語り継がれかねないのは事実であった。既に世界に噂されるヨウフェーメーの力の源である運命の石を差し出すことは憚れたのだ。

その頃、ヨウフェーメーが目を離している間に、ジュニアが目を覚ました。

目を覚ましたというよりかは、むしろ操られるような足取りでふらふらと動き出したのだ。

自らの意思を持って動いているのとは違い、生きる屍のように地を這うように体が勝手に動いていた。

城に飾られている鎧兜が持つ大槍を無造作にむしり取ると、それをズルズルと引き釣りながら城門から外に出て行った。

ジュニアの行動を通り掛かる近衛兵達が目撃していたが、メリクの襲来によって混乱した城内では、誰も彼を引き止めるものがいなかった。

ジュニアの目線の先に、城壁の塔のてっぺんにいるメリクがいた。

また、メリクも城門から一人出てきたジュニアに目が止まる。

メリクは、ジュニアに生まれて初めての恐れを感じていた。

メリク「こやつ!石を持たぬもの・・・何故生きている!」

メリクの合図で大鳥達がジュニアに襲いかかるが、ジュニアに近づく手前で意識を失い地面へと落下する。死んだのではない。身動きが取れなくなったと言えるだろう。飛び立つことも出来ず、地面を少し這うのが精一杯であった。

玉座の間からもその様子は見えていた。

側近たちに外の様子を見て欲しいと教えられ、国王とヨウフェーメーそれにアルレシャは外をのぞき見た。

ヨウフェーメー「あれは!?」

ジュバ国王「知っておるのか?」

アルレシャ「シャウラ王女が西より見つけた石の持たぬものです。気を失っていつ命が尽きてもおかしくない状態でありました」

ジュバ国王「これはどういうことか?」

ヨウフェーメー「ありえない。自力で生還することもありえないが・・・あの少年何をしている」

玉座の間で困惑した三人にも、当の本人であるジュニアにも今何が起きているのかを知ることは出来ないでいた。

恐れを感じその場を飛び立とうとしたメリクに突然大槍が飛んでくる。ジュニアが投げた大槍はメリクを羽ばたかせるのを阻止しただけでなく、塔の上から引き釣り下ろした。

大槍はメリクの羽根を貫通し、どこかへと飛んでいった。常人の技ではなかった。

地面に落ちたメリクの上にジュニアが覆いかぶさり、喉元を掴みかかる。そのスビードは目にも留まらぬ速さで、玉座の間にいた三人はジュニアもメリクもいつの間にか視界に収まらず、何が起きたのかわからない状態だった。国王は側近に探させるよう指示を出し、玉座の間から下方を注意深く覗き見ていた。

メリクに覆いかぶさったジュニアの手の中に、リブラの刻印が記された石が収まる。メリクが遠方より探しあて手にしていた石で、持ち主が不在だった石だ。

リブラの刻印を手にしたジュニアは、メリクと共に姿を消した。

鳥達は宿主を失い、知性を失い、元の姿へと返り散り散りに飛び去っていった。

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