第23話『探さないでください』
ある日、“意味”が 家出した。
『探スナヨ、絶対ニダ。 ~イミ~』
地球の真ん中にそんな立て札が掲げてあった。
それからというもの、あらゆる言葉の意味たちは意味を持たなくなった。
人々は最初、それほど難儀には感じていなかった。
いや、むしろ喜ぶ者さえいた。
持って生まれた習性と呼ぶべきか、人々は意味のないものにも意味を見出し、情報を与えられるがままむさぼるように解釈し続けてきた。
その結果、さながら世界は意味の洪水といったありさまで、意味に対して誰もが疲弊しきっていたのだ。
さんざん弄ばれた意味たちがその人々の態度に業を煮やし、見限ってしまうのも致し方なかったのかもしれない。
人々は意味の留守の間に、意味のない世界を謳歌した。
不穏な三角コーナーを曲がった有閑マダムと
しっぽりとちくわを咥えあったり、青い空の輪郭と白い雲の輪郭をホッチキスでふんじばったり、黄緑色の月を900個夜空に浮かべ
ショッキングピンクのお経で宇宙のお葬式をしたり。
――そこに突然、君が現れて、今、こうしてこの言葉の群れを読んで意味を探し始めたから大変!
意味をなしてなかったはずのモノクロな言葉たちは一周回って急速に意味を帯びだし、色鮮やかな意味をまといはじめた。
もう誰も止められなかった。
君が意味を探すことをやめないせいで、ありとあらゆる無限の解釈のぶんだけ、雨後のタケノコのように意味のビルが萌えだし、またたく間に世界は意味の海にのみ込まれていった。
人々は意味のないはずの意味に溺れ、意味もなく消えてしまった。
「意味殺し」の罪を背負った君をもはや断罪する意味もない。
――と、
意味の海をスーッと横切っていく船があった。
意味だ。
意味が帰ってきたんだ!!
その箱舟らしい船の船内には50音の言葉やらアルファベットやら、見たこともない文字たちがひしめきあっていた。
「け、おちおち、家出もできねえじゃねえか」
意味は言った。
「これから畑に向かう」
「え?」
「意味の畑だ。こんな世界にした罰だ。どうせ、言葉を一から育てたこともねえんだろ。
付き合え」
そうして、君は意味と一緒に意味の畑に向かった。
地球の真ん中に新しい立て札を掲げて。
「 意味ノ畑ニ居リマス ~イミ~」
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