第22話『染み』

白くて大きな壁に

小さな黒いシミがひとつ。


シミは恥ずかしかった。

みんなと違って自分だけが黒い。

どんなに頑張っても、けして白くはなれない。


白い壁は「おまえさえいなければ」という。

「めざわりだ」ともいう。


シミは、自分をごしごしとこすったり、

つばをつけてみたり、真っ黒な色を

必死になってごまかそうとした。

しかし、どうしてもみんなと同じ白にはなれない。


自分ひとりだけが取り残されたようで、

いてもたってもいられない気持ちになる。


――と、壁の前に老人が一人やってきた。

シミは慌てて隠れようとした。

しかし、どこにも逃げ場がなかった。


老人は目を細めて言った。

「ほう、黒い壁に実に大きな白いシミがあるのう」


黒いシミははっとした。

白い壁は怒りのあまり口がきけなかった。


「みんなと違うことを恐れちゃいけないよ」

老人は笑顔でそう言うと、

壁沿いの道を鼻歌を歌いながら去っていった。


黒いシミは、

老人の背中が見えなくなるまで見送った。


シミがじんわりとにじんだ。

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