第11話 閑話 かつて何処かで

 白い、白い雲とも霧とも違う……白い何かが辺りを覆っている。


 そこが空なのか、地面の上なのか、上なのか下なのか、そこが何処なのか……、はたして人間に理解できるのか


 何も無いような真っ白な空間、何も無いはずの空間に二つの何かが存在している。

 そう、何も無いはずなのに、そこにはしっかりと何かが存在していた。


 「お久しぶりですね。あなたが来るなんて」


 二つの片方が、もう片方に問いかける。

 語り口調は温和で優しく慈愛に満ちていているかのようだ。


 「お久びりとは……私達には時間の概念が無いでしょうに」


 あまり感情の起伏が無いような声をして、もう片方が応える。


 「ふふふ、宜しいではないですか♪それで?どうされたのですか」

 「以前にも話した私の分霊わけみたまが移る祠、そちらを守ってきた一族の事です」

 「ああ!あの方々ですか」

 「ええ、その一族が、ちかぢか最後の一人と……なるのです……」


 二つの存在に沈黙の静けさが空間に満ちていった。


 「このままだと、最後の一人は幸な最後を迎えられないようなのです……」


 感情を微塵も感じられないが、悲しみを表すかのように片方の存在が揺れる。


 「なるほど、それで彼の者をどうするのですか?」

 「……最後のその者の願いどおり、笑顔でいられる場所に送りたいのです。ですから、あなたの力を貸して頂けませんか」


 感情の起伏が無い存在に何かが見えているのだろうか?分からないが揺れは止まり、もう一つの存在に助力を願う。


 「私の力?あなただけでも大丈夫かと思いますが?」

 「ええ……たしかに私だけでも大丈夫なのですが……」


 どうやら片方の存在のみでも、その者が願う場所へいける力はあるみたいだ。

しかし、もう片方の存在の言葉が嫌に歯切れが悪かった。


 「あなたに……私の片割れも送って欲しいのです」

 「あら♪どういった風の吹き回しかしら、ふふふ、そんなにあの子が気に入ったのかしら?」


 無感情な存在とは異なり、もう片方の存在は楽しげに笑う。


 「いえ、そういう訳ではありません」

 「では、どういった訳なのかしら♪」


 楽しげに笑う存在は、もう片方をからかう様な口調で聞きかえす。


 「気に入ったとか、そういった事では絶対にないのです。私はあの子の母と祖父母の方々から“あの子の事をよろしくお願いします”と託されているんです」


 「………………それは、あの子が幸せになれる世界に送って貰うのに、お願いしたのではないのかしら?」

 「違います。“お願い”されました」


 感情の起伏が無い存在は、頑なに譲れない線があるみたいに強調する。


 「そう……まあいいわ♪それで、私が手伝えばいいのね」

 「その通りです。よろしくお願いします」


 長い沈黙の後、どうやら二つの存在は、協力し合うことになったようだ。


 「でも、このままだと、あの子には見えないわね♪」

 「そうですね。人の姿に変わらないといけませんね」

 「ん~でも、あなたが直接は不味いわね。ここは私に任せてくれないかしら?」

 「あなたに……分かりましたお願いします」


 片方の存在は、もう片方の存在に思うところがあるのか、少し考える。

 しかし自分に良い考えがある訳でもなかったので、もう片方の存在に任せる事にした。


 「じゃあ、まずは人の姿に変えるとこからね♪」


 楽しげな存在が、そう言ったとたん辺り一面に凄まじい閃光が走る。

 しかし、人あらざるこの二人には、眩しいという感覚は無いので微動だにしない。

やがて光が収束していき元の白い空間まで戻ると、そこには2つの人型の何かが、向かい合わさる様に立っていた。


 「うん、こんな感じでいいわね♪」


――どたぷーんっ!   〔↑UP ↑UP ↑↑↑UPー♪〕


 「……ですが、これは……」


――ストンッ     〔↓ Oh~ Cutting board〕


 「悪ふざけ……としか思えないのですが」

 「あら~♪女性は見た目じゃないのよ!それにあの子なら気に入る《かもしれない》わ♪」

 「むう、そうでしょうか」

 「そうよ♪女性は見た目じゃないのよ!」


 大事な事だから……。


 「そうですが……まあいいです。あとは、どのように向こうに送るかですが……」

 「それなら大丈夫!最近って、人の繋がりが驚くほど発達しているのよ!でこの間、良い物見つけたの、小説家になるよ! て言うところに書いてあった内容で♪」

 「それは……大丈夫なのでしょうか」

 「大丈夫じゃないかしら?超人気と書いてあったわ♪」

 「それは、その作者が自分で書いたのでは、ないでしょうか……」


 そんなやり取りが、どこかであった。……のかもしれない。

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