第9話 魔女宅開拓期(魔道具)
さて、魔道具作りだ。
まずは鉄で太さ1センチ、大きさ50センチほどの輪を作くる。
そしてその輪の内側に溝を作って1ヶ所外側に向かって小さい穴を開けた。
溝の中に魔導金属を這わせて穴から魔導金属を針金の様に飛び出させる。
「ミナ、魔結晶をこの輪の内側に収まるように流し込んでくれる?」
「はい、分かりました」
ミナに魔結晶の加工を頼んで、次に木を使って箱を作りその中に人工魔石を簡単に取れないように入れる。
後は金属の輪と魔石を繋げるために魔導金属を電気の線のようにゴムで被ったものを作って繋ぎ合わせた。
「マスター、魔結晶の加工が終了しました」
「うん、ありがとう。じゃあ、魔結晶に水分子だけを通すイメージを刻んでくれるかな?俺は輪と魔石を繋いじゃうから」
「承知しました」
ミナが魔結晶にイメージを刻むと俺も魔導金属を繋ぎ終わった。
「のうマサキ、いったい何を作っておるのじゃ?」
不思議そうに俺が作った魔道具を見つめてアルフィーナが質問してくる。
「ええと、そうですね……水を綺麗にする魔道具ですかね」
「なんと、水を浄化すのか!この魔道具は」
「はい、でも成功するかは使ってみないと分からないですがね」
実験なので上手くいくかは分からない。
「じゃあ、これをもって湖に移動しましょう!」
「うむ」
全員で湖に移動すると実験の開始だ。
「それじゃあ俺が持ってるんで、ミナは湖の水を汲んでこの輪の中に落としてくれる?アルフィーナさんは魔道具の起動を担当して下さい」
「おお、私がやるんじゃな!」
「承知しました。マスター」
待ってましたとばかりに線で繋がった魔石の入った箱を受け取るアルフィーナ
ミナもバケツを使って湖から水を汲んできた。
「さて、輪の下にもバケツを置いて、ミナ汲んできた水の中には微生物はいるかな?」
「はい、生息を確認出来ます」
「よし、アルフィーナさん魔道具を起動して下さい!ミナは魔道具が起動後に水を投入して!」
「分かったのじゃ」
「了解しました」
アルフィーナが魔道具を起動させると輪の中に薄い膜の様なものが展開される。
それを確認したミナが、バケツに入った水を上から下のバケツに向かって一気に流し込んだ。
「アルフィーナさん魔道具を止めても大丈夫です。……どうかな?ミナ」
バケツの上から魔道具をどけるとアルフィーナは魔道具の起動を止めと、魔道具を通過した水を見つめてどのような結果になったかミナに聞いてみた。
「はい、空気中の物質が混入していますが、超純水と同じです」
「おおっ!やった成功した!」
「なんじゃ?上手くいったのかえ」
見た目はただの水なので普通の人間では分からないが、ミナが言うには極端に純度が高い水が出来たようだ。
「ええ、これを使えば色々な物を取ったり一つの物を通過させたり出来ます!」
「なんと、ならこれを使えば銅だけを取り出すことも出来るのじゃな!」
トンネルを掘って金属鉱石類が出土した時、銅なら銅、鉄なら鉄と元素ごとに魔法で抽出した方法を利用してみた。
ただ金属を抽出した時に感じたんだが、消費される魔力量は 気体<液体<個体(粒状<塊状)の順で固体が一番大きく魔力が消費される。
しかし、この実験が成功したので今後は魔結晶に刻むイメージを変えるだけで色々な物に利用できるだろう。
もちろん物質の状態で使用する魔石の質、または量を変化させる必要がある。
けれども魔道具だから魔力量が少ない人、魔法がほとんど使えない人でも“誰にでも利用出来る”はずだ。
「ふむ、のうマサキ、私のいた王国では新たな魔道具を開発した者には、魔道具やその仕組みに名前を付けるのじゃが、この魔道具は何と名前を付けるのじゃ?」
「名前ですか、そうですね……
「魔障壁?」
「はい、この魔道具は、ある物は通すけど他は通さない、反対にある物だけ通さないと妨げる働きがあるので魔障壁という名前にしました」
「なるほど、魔障壁か……良いではないか!」
こうして物質を選び通させる魔道具の名前が魔障壁と付いた。
「さて次は、何を実験しよう。……ねえミナ、ゴムに魔石を砕いて混ぜること出来るかな?」
ゴムで包まれた魔導金属の線を纏めながら、ふと疑問に思った事を口にする。
「はい、可能です」
「よし、じゃあミナ、今度はゴムに魔石を混ぜてくれる?少量で大丈夫だから」
「承知しました」
ゴムは電気を通さないが、魔石を混ぜるとどうなるのか!
どうも今回の成功で俺の実験心に火が点いたみたいだ。
「用意いたしました」
「おお!早いね」
「少量でしたので」
ミナの手の上には握りコブシ大のゴムの塊が乗っていた。
「ありがとう。それじゃ、実験してみるよ」
俺はミナの手の上にあったゴムの塊を受け取り自分の手のひらの上に置いたまま魔力を流す。
――シュッ!
手のひらのゴムは、魔力を流した瞬間、コブシ大がピンポン玉ほどの大きさに縮んだ。
「うおっ!こんな反応するのか!」
「ほーう、こうなるとは思ってもいなかったのじゃ。そもそも高価な魔石を魔道具以外に事には利用しようとは思わんからのう」
「マスターこれをどのように使うのですか?」
「う~ん、そうだね……人工筋肉に利用できるんじゃないかな?」
モーターの変わりになれば体の不自由な人の補助にもなるだろう。
「ただこのままゴムだけだと劣化しやすいし強度も無いな……」
「それなら、シリコン樹脂を混ぜると劣化防止になります。また、強度の方は炭素繊維を利用すれば問題ないでしょう」
間髪いれずに答えを返してくるなんて、さすがミナだ。
「うん、分かった。でもすぐには使わないから今は無限収納に入れておこう」
「はい、マスター」
ゴムを無限収納に移すと、手のひらから消えて目録の欄にゴム(魔石混入)が追加される。
「マスター、そろそろ時間かと思います」
「えっ、もうそんな時間?」
腕時計を確認すると16時の表示が映し出されていた。
この世界はほぼ日本の日没と同じで11月のこの時期、17時ごろには太陽が沈む。
「そうだね今日はこの辺にして家に戻ろうか」
「うむ」
「はい」
「ワンワンッ!」
終わったの?といった感じで真白が駆け寄ってくる。
魔石や魔道具の実験の際には、真白は自分が何もすることが出来なかったので離れてジッと伏せて俺達の実験を見ていた。
「真白、大人しく待っていてくれて、ありがとな」
「クーン、クーン」
大人しく待っていてくれた真白に感謝を込めて首の辺りを撫でてあげると、寂しかったとばかりに甘える様に顔をなめる。
「さあ、帰ろう!」
家に戻ると、早速夕飯作りに取り掛かる。
今日は、朝獲れたナマズを使って天ぷらを作る。
油は香りの良いゴマ油、ナマズの他にもサツマイモや大葉、カボチャにシシトウと野菜なども一緒にあげてみた。
あとは天つゆと大根おろし、塩と
真白はご飯の上に天ぷらを全部のせたて、つゆをかけた天丼にしてあげた。
「じゃあ、食べましょう」
「「「いただきます」」」「ワンッ!」
俺とミナは箸を持ちアルフィーナはフォークを手にとって盛られた天ぷら達に箸をのばす。
「おお、昨日のトンカツとは違うのじゃな!」
「天ぷらと言います。そのまま食べても良いですしつゆに浸けても、つゆに大根おろしを入れて付けても美味しいですよ!塩や柚子胡椒をかけて頂いても美味しいです」
「むむむ、色々な食べ方があるのじゃな……迷うのじゃ」
「まあ、一つ一つ試してみて自分の好みの食べ方を見つけるのも面白いですから」
「うむ、そうじゃな!」
どうやらアルフィーナは一口ずつ色々な物をつけて楽しむみたいだ。
俺もナマズの天ぷらに箸をのばして天つゆに付けて食べる。
「うん、臭みも無いから淡白で凄く美味しい」
サクッとした衣に白身魚のような味わいのナマズの身、脂分が少ないので天ぷらとの相性が抜群だ!
「のうマサキ」
「はい、どうしました?」
アルフィーナは難しい顔をしている。
何か気になる事でもあったのだろうか?
「この赤い物は……なんじゃ?」
アルフィーナがフォークに刺して衣を被った赤いものを見せる。
「ああ、それは紅しょうがを天ぷらにしたものですよ」
「ベニショウガ?」
「はい、口直し・付け合わせに食べられる漬物です」
「ほう、漬物を油で揚げたのか」
「ええ、そのまま頂いてみて下さい。しょうがの塩気が衣に染みて美味しいですよ」
「うむ」
俺に言われるがままアルフィーナは紅しょうが天に齧り付く。
「……うむ、柔らかな塩気と酸っぱさ、そしてほろ苦さあってコレは面白いな」
「ええ、向こうの世界のかんさ……一部の場所で食べられているんですよ!柚子胡椒もそうですね」
「ほう、場所によって食べ方が異なるのじゃな」
「ええ、私はどこの食べ方も好きなんです」
会社で色々な場所に出張に行かされた時にご当地の料理を食べるのが楽しみだった。
紅しょうが天なんかは、関東でなかなかお目にかかることはない。
みんな天ぷら全種残す事無く食べきった。
おいしい食事っていいよね!
「マスター残念なお知らせがあります」
「なんだいミナ?」
食後のお茶の時間にミナから唐突なお知らせがあった。
「糠漬けなどにお塩を使ったので在庫が残り
「ああ、やっぱりなあ」
塩は異世界に来る前に近所の人に貰った1キログラム入りの袋、一袋だけだった。
4人の食事を賄うにコレだけでは全く足りない。
「ん~……んっ!じゃあ、明日は塩を取りに海に行くしかないか」
「マスター、魔法を使えば塩を合成できますが」
魔法でナトリウムと塩素を合成すればたしかに塩にはなる。
「いや、それは美味しくないからやっぱり海に取りに行くよ」
そうただの塩の成分だと旨味もない辛い塩になってしまう。
それでは、料理を引き立てる美味しさがない。
やっぱり美味しさを求めるならやっぱり天然塩だ!
「承知しました。でしたらマスター、あの方に頂いた耳に付けるものをお持ちですか?」
「?耳に付けるもの………………ああっ!あの銀色の!」
ミナが何を言っているのか最初は分からなかったが、ようやく思い出すことが出来た。
そういえば店員さんに銀色の耳輪に付けるイヤホン?を貰っていたんだ!
「うん持っているよ、でも、アレをどうするの?」
「お持ち頂いてもよろしいですか?」
「ああ、今持ってくるよ!」
ミナに言われたとおり自分の部屋に入って、キャリアケースから銀色の1センチほどの大きさでU字に曲げられた5つ筒が入った箱を持ってくる。
「これをどうするの?」
「はい、左右どちらでも構わないので1つ耳輪に付けて見て下さい。マスターだけではなくアルフィーナ様、真白様もどうぞ」
「ぬ!私もか!?」
「ワフーン!?」
何があるのか分からないが、アルフィーナと真白も付けろとミナは言う。
仕方が無いのでアルフィーナに一つ渡して、真白には俺が耳に付けてあげた。
俺自身も耳の上の少し後ろの耳輪に付けてみる。
「……で?どうするの?」
「はい、では接続を開始します」
そう言うとミナの体全体が淡く光りだす。
「個人識別確認、生体情報確認、接続問題なし、アップロードを開始します」
「おおいマサキいったい何が起こるのじゃ!?」
「私に聞かれましても……」
「フゥーン……」
これから起こることに固唾を呑んで見守る。
「作業終了、皆様の接続が確認できました」
「いったい何がどうしたの?」
接続が確認とか意味が分からない。
「はい、皆様頭の中で“何かを展開”するように想像して下さい」
「何かを展開?」
「はい、想像するだけで大丈夫です」
ミナに言われるがまま展開と想像する。
――ブワンッ!
「おおうっ!」
「のわっ!」
「ワフッ!」
ミナ以外みんな驚いた表情になる。
それもそのはずで目の前には無限収納で浮かんだようなゲームのメニューウィンドウが展開された。
しかも、メニューの中には通信の蘭がありその中には、アルフィーナと真白の名前がある。
『このように言葉に出さなくても思うだけで通信が出来ます』
「おわっ!」
「のっ!」
「フッ!」
今度はメニューとは別でミナの上半身アイコンが表示されて話し出す。
もちろん目の前のミナの口元は動いていない。
『また、登録されているグループで話すことも出来ます』
『あ、あー、こんな感じかな?』
「にょほ、言葉を発していないのにマサキの声が聞こえるのじゃ!」
「ワンワンッ!」
俺が口元を動かさないで喋っているのにアルフィーナも真白も驚いている。
そら驚くわな、こんな技術日本にも無いぞ!
『アルフィーナ様も真白様も思い浮かべるだけで大丈夫ですよ』
「なんじゃと!そうか……では」『聞こえているかマサキ』
『ええ、聞こえますよ』
『おお!本当なのじゃ!』
ミナのアイコンの横にアルフィーナと真白のアイコンが追加されてアルフィーナのアイコンの口元が動き、また感情に合わせてアイコンも動く。
『あ、あー、聞こえてますか?主様あるじさま』
「「?」」
俺もアルフィーナも聞いた事のない女性の声に目を丸くして驚く。
『こちらは真白様の声を私が解読して付けてみました。このままだと真白様だけ喋れませんから』
「なんと!」
「おお……真白の声だったのか」
むかし犬の吠える声で感情や今やりたいことなどを表示する機械があったが、これはその比ではないな。
『変ですか?』
「いや、変じゃないよ真白!そっかーこれがあれば真白と会話が出来るんだな!」
「ワンワンッ!」
真白が嬉しそうに尻尾を振って駆け寄ってきた。
「でも真白、主様じゃなくて俺の名前でもすきに呼んでいいんだよ?」
先ほどの通信で真白が俺のことを主様と呼んでいたので他で呼んでもいいと言うと、真白は悲しい顔をしてイヤイヤと首を左右に振る。
「まあ、真白が呼びたいように呼んでくれて構わないよ」
「ワンワンッ!」
俺の答えに真白は花が咲いたように嬉しそうな表情で立ち上がって胸に飛び込んで顔をなめてくる。
『このように真白様との会話も可能です。メニューの通信相手を選ぶと相手側では呼び出し音が鳴り通話に出られ、通信を切れば通話は終了します。』
ミナのアイコンから3、4頭身サイズのミナが飛び出して、指示棒を持って解説を始める。
何でも出来るなこの子は。
『他に私の持つ情報を皆さんにお見せする機能もございます』
『おお!凄いな』
『こんな事も出来るのじゃな』
ウィンドウには、上空から見たこの家周辺の地図が立体に表示されたり色々な画像が次々と展開表示されたりした。
『この機能を使えば海に行くのも楽になると思います』
『なるほどね~』
『以上、通信を終了します』
ミナの終了の声とともにウィンドウに映し出されていた各自のアイコンが画面上から一気に消える。
うん、ミナがなぜコレを付けろと言ったのかやっと分かった。
確かに地図や通信機能があればこの世界で過ごしていく上で格段に便利なものだ。
俺はそう思いながら耳に付いているソレに手を伸ばして触る。
「………………あれ?付けたのが無いぞ???」
耳に付けたはずの銀色の物体が跡形も無く消えていた。
「はい、こちらは皆様の体の中に溶け込んでいます。外そうと想像すれば取り外せますので、ご心配ありません」
「何という便利機能……でも、人体の方には?」
「害はありません」
まあ、この機能があればお風呂とかで無くなる心配はなさそうだ。
「じゃあ、明日は海に向かって進んで行こう!」
「私も行くぞ!」
「ワンッ!」
「ご同行致します」
こうして明日は海に向かうことになった。
食事も済んだのでみんなでお風呂に入って就寝となる。そう、みんなでお風呂……成り行き上そうなったんだ。クスンッ
就寝だけは各自の部屋でするよう念を押し、真白と一緒に自分の部屋の布団に入る。
「真白おやすみ」
「ワフッ」
明日は海に行くんだガンバ……ろ……う……。
夜のとばりが下り寝息だけが聞こえてくる。
そんな静かな夜だった。
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