青い天使

まぶた

第1話あおいろとねずみ

 青い天使は孤独だった。いつもひとりでさまよっていた。瞳の色は深緑色で、体のいろは白かった。髪の毛は青くて、着ている服も青かった。青い天使はいつもひとりぼっちだった。どこにも友達がいなかった。

 青い天使はアスファルトがすきだった。とけたばかりのアスファルトの独特な人工的な匂いが、なぜかとてもすきで、よく工事現場に散歩した。黄色いヘルメットの工事現場の職人たちは、青い天使を終始無視していた。だってなんかへんなんだもの、平日の真っ昼間から、天使の仕事もろくにせずに、ただただとけたアスファルトの匂いを嗅ぎにくる青い天使なんて。

 孤独は寂しい色だった。青い天使はどことなく楽しくて、どことなく寂しかった。特に大きな出来事はいらない。特に大きな不幸とか、幸福とか、そういうものは望んでいない。ただ、話をする誰かが欲しかった。

 ある日、青い天使は野鼠にあった。野鼠はコンビニの裏で巣を作って暮らしていた。出会いは単純で、青い天使が数日ぶりの仕事帰りに立ち寄ったコンビニのゴミ箱の前で、フランクフルトを落としたときだった。

「ねぇ」

 と、野鼠の方から声をかけてきた。

「そのフランクフルト、落としちゃったらもう食べないだろ。あんた別にホームレスって風にも見えないし、俺にくれよ」

 野鼠が言った、ひげをふがふがさせながら、篭ったような声だった。

「別にいいけれど」

 青い天使は答えた。

「その代わり、これからはちょくちょく話をさせてもらってもいいかい」

「話って、何を話すのさ。俺とお前の間で、話すことなんてこれっぽっちもないだろう」

「でも僕、今友達募集中でさ。毎日ひまなんだ。いや、仕事はあるっちゃあるけど、天使の仕事って地味なもんでさ、誰かとたまにでいい、話したいんだ」

「ふーん、まぁ俺も暇なことは暇だな。野鼠なんて仕事する必要のない職だからさ」

 野鼠はひげをふがふがさせると、しっぽをくるりとまるめた。

「そうだな、お前、せっかく天使なんて立派な職なんだし、仕事の内容でも話してくれよ」


 そうして、青い天使は野鼠に、仕事帰りにその日の仕事内容を話すようになったのだ。

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