ダメ人間日記

犬人

第1話 1993年冬

 昔の日記を読み返してみたら、意外と面白かったのでUPしてみる。その前に当時の自分がどんな人なのか、まずは自己紹介。南の島に住んでる商業科の高校二年生。家は3世代同居で大家族。農家の息子で長男なので、いつかは農業を継ぐような感じに自他共に思ってる。バイトは新聞配達。弓道部の幽霊部員。身長170cmくらい体重50kgくらい。イケメンかどうかと問われれば、人によってイケメン認定してくれる程度の顔面。身体的特徴は極度の内股と猫背。勉強スポーツ全くダメ。賢いふりをしている馬鹿。意識高い気取りのナルシストなダメ人間そんな感じ。


この話の登場人物はすべて仮名です。何故か最初のページはポエムから始まる。



 日記


今はこんなに鮮明な記憶でも

時が経てば色あせてしまう

何があったか分からなくなる

だからぼくは記録する

現在(いま)を…



1993/12/2

 今日、この日記をみつけた。最初の数ページが破り取られてる以外は新品だ。たぶん姉ちゃんが使っていた物だろう。今日から日記を書くことにした。一日の楽しかった事、悲しかったこと、心に残った事などを書き残していこうと思う。

 今日はお母さんがとてもウルサかった。将来がどーたらこーたらとゴチャゴチャうるさい。でも、本当に僕は将来どこでどんな人になるのだろうか?


1993/12/3

 今日は昼休みにサッカーをした。普通科対商業科でやった。けっこう運がよく良いプレーができて気分がよかった。でもカミシマの「犬人なんかに(ボール)とられてんじゃねーよ」の一言で一気にイヤな気分になってしまい、いつもながら自分は皆に侮られているなぁと思った。誰にも侮られない人になりたい。


1993/12/6

 今日はテストがあった。はっきり言って英語は自信アリ!50点以上は確実。12時に学校が終わったが飛行機の都合で新聞が届いてなかったので一度家に帰った。その後3時に行ったがまだ届いてなくて、結局4時半にやっと新聞が届いた。3回も見に行ったので「めんどくせーなーもー」と思った。夕飯のさんまと大根おろしがとても美味しいと感じた。


1993/12/7

クラスの皆がナメた態度なので担任の先生が怒って宣言した。

「先生をナメちょっとかぁっ?!!俺は今日から暴力教師になるぞ!!」

みんなは「いや、それは前からじゃん?」と全然動じていなかった。


1993/12/8

東「先生酒臭いんじゃん」

先生「何言うちょっとか!」

松田「本当に酒臭いぞ!?」

先生は怒って愛用の竹の小枝で二人をピシッ!ピシッ!と叩いた。

松田「痛ッ!ボーリョク反対!」

先生「何が暴力か!こりゃ愛のムチやっ!!…別に愛してないけどなっ!」


ここからポエム


「バカ女」

前の席の女が今日もけたたましい声でゲラゲラ笑う このバカ女が!

キツイ香水とタバコのにおいで胸がムカつく このバカ女が!

授業中に大声でしゃべりまくる このバカ女が!

面と向かっていえない僕に言う資格は無いかも知れないが

それでも人気の無い場所で僕は今日もサケブ

このバカ女が!!


「夢」

あとどのくらい歩けば夢に近づく?

もうどのくらい歩いただろう?

本当に近づいているのかな?

答えはわからない

でも僕は歩くことしか出来ない

たとえその向こうに何も無くても

歩いていれば いつかきっとたどり着くはず

だからどこまでも歩く

いつかたどり着くその日まで



1993/12/13

 分からないなぁ?何が分からないかって?宇宙の外には何があるのかなぁ?人は何でケンカして殺しあうのかなぁ?何で今僕はここにいるんだろう?一体何のために存在しているのだろう。わかんないなぁ?全然わかんないなぁ。愛って何だ?真実って何だ?人生って何だ?ワカラナイ。


1993/12/16

 日記を書くと心に決めたのに毎日書けていない。やっぱり三日坊主だな。少し反省。テストの赤点が4つあるから父兄召喚になるが、まだお母さんに言っていない…怖くてとても言えない。ひょっとしたら留年とゆー可能性も出てきた。

 先生の口癖「三月には大掃除をしてクラスを建て直すから覚悟せぇよ!」の一言が今日ほど心に重くのしかかった事は無い。不安だ……。


1993/12/17

 期末テストの結果が返された。昨日はあんなに赤点の事を気にしていたが、平常点+一学期のテストの預金で何とかチャラにできた。もう何も悩みが無くなってとてもウレシイ。でも部活をサボってしまった事が気になる。女子、超コワイからな~……。


1993/12/18

 今日は色々と思い出す一日だった。昨年の今日、夜11時ごろみんなで牛小屋の夜の見回りした帰りにお父さんがトラック運転中に脳の病気で倒れ、助手席に乗ってたお母さんと荷台に乗ってた姉ちゃんもろとも畑に落ちて横転した。僕は何がおきてるのかは分からなかったけどトラックの挙動がおかしくて道路の下の畑に落ちるのを予感したので、姉ちゃんに「飛べ!!」と叫んで自分は先に飛び降りた。みんなの無事を確かめるより先に助けを呼ぶべきだと判断して、すぐに近くの親戚の家に走って救急車を呼んでもらった。お母さんと姉ちゃんは奇跡的に無傷だったけどお父さんは救急車に運ばれていった。医者に「半身不随になるかも」と言われたけど、片足に麻痺が残っただけで済んだ。あれから一年か…今年は色々あったなぁ。人生明日の事すらわからないから慎重にいこうと思う。


1993/12/19

 今日はおじいちゃんとおばあちゃんが旅行でいないし雨もふっていたので、家族みんなで昼まで寝ていた。午後からは弓道部の射会があった。練習サボってばかりなので、あまり当たらなかった。


1993/12/26

 今日の午前10時ごろお父さんが倒れた。病気の再発かと心配したが低血圧のせいだったので点滴だけで済んだ。お父さんが倒れた時、去年も今日も妙に冷静な自分と弟が何だか怖かった。人間としての基本的な勘定が無いのかも知れないと不安になる。もっと人らしくなりたい。


1993/12/27

 今日は昼からお父さんの手伝いをした。「トラクターの調整するからエンジンかけといて」と言われてエンジンかけたら、いつもより音がうるさく、煙もたくさん出てきた。お父さんが駆けつけて、エンジンを止めようとしたけど止まらなかったので燃料をわざと切らせた。火が噴き出してきて「もう手遅れか?!」と思った時、やっと止まった。お父さんが「爆発するかと思った」と言った。僕もそう思った。


1993/12/30

畑で空を見ていた。とても美しい色だった。写真や文章では伝わらない感動。周りのみんなは見向きもしないので勿体無いなと思う。昼の青い空と水平線、夕方の真っ赤な太陽、無限の星が浮かぶ夜空、海に映った月の光。いつもこれらを見たびに目に映る全てを目に見たまま完璧に残せればいいのにと思う。



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