羅生門かな
@ryuhnosuke
すきすぎてすきすぎて
「羅生門の話はこれまでだ。と言うわけで、読書というのは宇宙を散策することだ。宇宙というのは無限だ。星も数えきれないほどにある。そう、女子と一緒だな。だから時瀬、一人の女に惚れ込みすぎて人生を棒に振らんようにな」
居眠りしていた時瀬を叱りもせずに先生は、気持ちのいい声で笑った。ユーコに片想いをしている時瀬は、冗談と思えなかった。
ーー星の数ほど女子はいる。
先生のその言葉の真意を理解するには時瀬はあまりに年頃の男子すぎた。彼にとってユーコは星ではなく宇宙にひとつしか存在しない太陽だった。
放課後、彼は教室に残り形ばかりの勉強をしながらユーコが帰るのを待っていた。
同じクラスのユーコは放課後、かならず自習をして帰る。斜め前に座る彼女の後頭部を盗み見ながら、時瀬は大学ノートに自作の官能小説をこつこつと書いていた。
時瀬は信じている。ユーコは異性に興味はない。もちろん、恋愛に興味はあるだろう。しかし今は受験生の身だ。彼女は理知的であり理性的なのだから、恋人を作ることはない。
論理の歪んだ確信を胸に抱いて、時瀬は官能小説の連載を続けた。
なんてことない夏の日である。時瀬は下駄箱で友人の安西と取引をしていた。事情通の安西からユーコの生理日を教えてもらい、時瀬はユーコをヒロインにしたエロ小説を書いたノートを渡してやった。
「いやあ、時瀬。お前の文章はうまいとか下手とかはわからないけど、とりあえず俺を勃起させる」
「いやあ、安西。お前の情報のおかげさ。学年中の女子のブラジャーの保有数まで知っているのは学校広しといえ、お前ぐらいだぜ」
時瀬と安西は固く握手を交わし、それぞれのクラスへと向かった。離れ際、安西がこんな情報を時瀬に教えた。
「そういやさ、ユーコ。彼氏できたって。ラグビー部のベッチョーリだってよ」
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