暴走探偵と妄想助手
十三田
第1話 事件と序章
暗闇が明けた舞台上。
そこには衣装を着飾って倒れる男の人が一人と金だらいが一つありました。何ともシュールな場面から入るのだなと感心していると、「城之内先輩!」と口々に叫ぶ人たちが舞台袖から出てくるではありませんか。
どうやら事件発生のようです。次にどんな展開が待っているのかとわくわくしていると「早く手当てしろ!」と指示する人、心配そうに見つめる人、大丈夫かと倒れた男の人に声をかける人、迫真の演技とは正にこのことでしょう。
舞台を飛び降りて会場入り口に向かう人がいたりなんかして、大勢のお客さんがいれば辺り騒然、興奮の渦に巻き込まれること間違いなしです。
何とはなしに観劇に来てしまった私でしたが、こんなに臨場感あふれるお芝居を見るのは初めてのことです。
小学生の時、文化学習と称してどこかの劇団の方々が学校の体育館で劇を披露してくださいました。それが演劇というものを初めて見た経験です。
その時は劇を見ての感想文を提出しなければならないということで、何か書くことはないかないかとそればっかりに目を向けていたのです。全く劇を楽しむような余裕などありませんでした。
「やはり事件が僕を呼んでいる。宿命とは困ったもんだ」
胸のドキドキを抑えられない私の背後でふとそんな声が聞こえてきました。後ろを振り返ると長身の男の人がすぐ後ろに立っていました。真っ白なズボンに紺色のカットソー、その上に黒のジャケットを羽織っています。
見上げて顔を確認すると、中指で太めの黒ぶちメガネを押し上げるその仕草はなかなか様になっていました。もしやこの方も演者さんなのでしょうか。
舞台だけではなく客席をも縦横無尽に使った演出、あっぱれです。セリフからすると、物語序盤にして早くも真打登場といったところでしょうか。
彼は壇上へあがると、倒れている男の人や集まっている演劇部員の方たちとなんやかやと話しています。
私はその様子を席に座っておとなしく見つめていました。そしてやっと気付きます。
やり取りの雰囲気から察するにどうやらこれは演出ではなく、なんらかのトラブルが発生したのだと。
すると先ほどの彼と目が合います。
「ちょっと話を聞かせてもらえるかな」
おそらくその時の私はぽかんとした表情を浮かべていたことでしょう。何と答えたものかと逡巡したのです。
そして、そんな私に微笑みかける彼こそがこの大学でも有名な『迷』探偵、中野渡先輩だったのです。
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