鎖
和紀河
【その1ーーー娘】
わたしには自由がない。
両足を腕を身体全体を覆い尽くすように冷たく硬い感情のない鎖が絡みついている。
感情のない鎖は日ごと私を締め上げて苦しめている。
抑圧と渇望と。翼を煌めかせて飛ぶ鳥のように、自由になりたい。
わたしを押さえつけるものはすべて壊して。
鎖はわたし。自由を奪うもわたし自身。
じゃあ、わたしを壊せばいい。
記憶すると云うことと忘れるということ。
どちらも苦しいことでどうしたらいいのか判らないときがある。
思考を止めればいい。何も考えなければつらくない。
でも人間は考えるように創られた生き物だから、辞められない。
否、身体は自由でいて精神が自由でない。
窮屈なことを疎みつつも、また歓喜すらしてしまう自分が哀しくも感じる。
人は生まれたときより死ぬという逃れられぬ運命=呪いに取り憑かれる。
どうせいつかは人は死ぬ運命にある。
早かれ遅かれ。
ならば今ここで命を絶つのも、死ぬのがちょっと人より早いだけ。
そう思えばなんてことはないこと。今ここで永遠に続くかもしれない苦楽。
冷たい茨の道。
死という名の感情すら入り込める余地のない深い深い漆黒の闇と、本当はどちらが優しいのだろう?
少女の身体は刹那、空に舞う。
射ば珠の闇の中に、白く浮かび上がる鳥。
安らぎと自由を求め飛び立つ、真っ白な小鳥のように。
砂地の地面が潰れたような、そして重く鈍い音を立てる。
そして次の瞬間にはもう、夜の静寂があたりに戻っていた、何事もなかったように。
冷たい冷たい夜の出来事。
ある中学校にて。
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