魔法少女の帰還

さいとし

第1話 都市伝説魔法少女 セイントメリー

 もう、何年前になるだろうか。わたしは渋谷駅のコインロッカーに「それ」を捨てた。一番隅のロッカーに押し込み、鍵はトイレに流した。


 ごめんなさい、ごめんなさい、と心の中で謝りながら。でも、他にどうしようもなかったのだ。わたしは子供だった。明日からも、変わらず幼なじみの男の子と過ごしたかったし、親に頼らなければ行きていけなかったし、負わなければいけない責任を煩わしい邪魔ものだとしか考えていなかった。


 だから捨てた。そして何年もの間、渋谷駅には近づかなかった。


 やがてわたしは成人し、結婚し、家庭を持った。結婚したのは、大学時代に知り合った喫茶店の店長だった。「それ」を捨てた時の幼なじみとは、高校卒業まで付き合ったのち、別れた。地方でホストをやっていると、風の噂で聞いた事がある。


 ある日、わたしは娘のバイオリン発表会のため、渋谷に行くことになった。あまり気は進まなかったが、しかたない。できるだけ早く駅を抜けようとしたが、出た改札は、「あれ」を捨てたロッカーのすぐそばだった。


 ロッカーは新しいパスワード式のものに変わっていた。十年以上も経っているのだから、考えてみれば当たり前だ。わたしは不謹慎ながら、すっきりした気分になった。来てよかったのかも、とさえ思った。


 そのとき、娘がわたしの袖を引っ張った。


「ねえ」


「?どうしたの」


「今度は捨てないでね」


 娘の手には、十数年前わたしがコインロッカーに捨てた、変身ステッキが握られていた。

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