第339話・龍神公主とのこと
「煌にいちゃん、知り合いでギルドに入ってなくて誘えそうな人っていないの?」
「いないわけでもないけど、かと言ってあんまり烏合の衆にもしたくないしなぁ」
ギルドメンバーはできる限り普段から接しているメンバーにしたいとは思っていた。
そもそもギルドを作りたいと思ったのだって、プレイヤーがどこに居るのかをより詳しく見れるように出来ないかと思って考えてのことだったし、そもそも誰でも作れるもんだと思っていたというのが本音だ。
「っていうか、今
「ギルドが乱立すると、他のギルドや元々からあるNPCだけのギルドといざこざがあったりするし、なによりギルドボーナスしか貰わないでゲームに貢献もなにもしないプレイヤーがいるかもしれないって理由で他のMMO系のゲームより作るのが難しくなってる」
綾姫の質問に、セイエイは淡々と答える。「あ、それからサクラも入ってくれるって」
話の流れでいうもんだから、サラッとスルーしそうになったが――、
「いや、簡潔に決め過ぎじゃない?」
オレは思わずツッコミを入れてしまった。
「あっと、元々セイエイも煌にいちゃんのギルドに入る気ではいたんだよ。ビコウさんに遠慮していたところがあったからできなかったけど」
「つまりセイエイのおまけでサクラさんも入ってくれると」
まぁオレからしたら棚ぼたなんでいいんですけどね。
「それとギルドを作ったとしてもみんなが集まれる場所がないと設立も認められない」
セイエイはそう言ってから、「どこか当てはある?」
と首をかしげるようにして訊いた。
「うーん、当てがあるとすれば裏山の隠しダンジョンなんだけど」
「あれ? でもそこって斑鳩が掲示板で場所を教えちゃったからアクアラングを持っている人なら誰でも入れるようになったけど」
「でもあの場所はまだ誰にも知られてないだろ?」
セイエイと綾姫はオレを見てから互いを見やる。
「あぁ、たしかにあそこなら大丈夫かも」
「まぁ行き方が死に急ぐようなものだけどね。助かるってわかってるけどやっぱり落ちるのは躊躇するし」
二人はオレがギルドハウスを儲けようとしている場所を察したようで、納得とも困惑とも取れる表情を浮かべる。
「でもおいそれと転移アイテムって使えないよね?」
「そこは大丈夫。わたしとシャミセンが魔宮庵の部屋をマイホームにしてるのと一緒で、ギルドメンバーは自分のギルドハウスならどこに居ても自由に行き来できるようになってるし、他のギルドでもギルドマスターと副マスターが許可を出していればそのギルドに入れるようになってる」
セイエイがオレを見ながら目をランランと輝かせる。
「それにあそこならモンスターが出るからレベル上げにいい」
しかし正式にはレベル32のボスモンスターで、元々はオレたちが普段バカンスに使っている場所はボス部屋だったらしい。が、先の事件で使えなくなってしまい、いわばオレたちしか入れないようになってしまっている。
まぁ攻略法がわかってからは対処のしかたがあるし、なおかつ防御力が高いこともあってスキルの試し打ちにうってつけだったりする。
しかもこちらが攻撃してこなければ、水の中に居てもあちらからはなにも仕掛けてこないので、実はおとなしい性格なのかもしれない。
「やっぱり許可とかも必要?」
「場所の許可自体は多分大丈夫だと思う。そもそもわたしたちしか使っていないし、今のところ入れるのは滝壺の洞穴だけだから」
アクアラングをもっていないとそもそも中に入れないって設定でもあったからなぁ。
「そういうところはマミマミに感謝ってところか」
「やったことは許してないけどね」
ふくれっ面で言うセイエイ。まぁ彼女からしたら嫌な思い出でしかないだろうが、
「思い出は思い出。気にしなさんな」
というわけで、オレもそろそろフィールドに出ることにしましょう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「どうしてこうなった?」
オレは錫杖の先を毒蛇のお腹に忍ばせ、ポイッと投げ捨てるように払っていく。
朱色に生い茂った草むらを歩いているのだが、特にこれといった目的もないのでぶらぶらと散歩感覚でフィールドを歩いていたのだけど、
「モンスター認識されないモンスターってなんだよっ?」
また一匹姿を見せるが、
それならそれで別にかまわないし、いちいち川辺で魚がモンスターになってたらポップがいっぱい出てきて鬱陶しささえ覚えてくる。
「ぎゃぁーっ! 蛇ぃいい?」
「なんだこいつっ! いつのまに――ぬわぁーッ!」
「こんにゃろ、逃げるな……って飛びかかってくるなぁ」
――等々。周りからは阿鼻叫喚が聞こえてきていた。
しかも毒スキルもちだからなのか、ダメージが入ると必然的に毒のダメージも入るようで、
「くそぉかまれたかぁって毒食らってるぅ?」
「くそなんでこんなときに毒回復のスキル持ってないってオレも噛まれたぁ?」
ほんと阿鼻叫喚だなぁ。などと思いながらオレはオレで錫杖で毒蛇を払い除けていた。
だってMOBとしてのデータがポップされないってことはモンスターじゃないからね。
モンスターじゃないなら経験値なんてもらえるわけがない。
ちなみにこの茂みに入った時にガブッと一度噛まれました。
それなのになぜ平気かというと、装備している[月姫の法衣]のお陰で、常時最大HPの5%回復にくわえて、状態異常が自動回復だからである。
「ほんとシュエットさんっていうか装備品を作ってくれた三歌仙には感謝しかないわ」
よくよく考えたらほんと恵まれてるなオレ。
などと考えていると、足元から毒蛇が飛びかかってきたのだが、
「ホイッ」
ガシッと蛇の首根っこを捕まえる。蛇に弱点があるとすれば口が開かないようにすればいい。大きいやつなら締め付けてくるが、
「おらぁっ!」
それより早くに遠くに放り投げる。極力戦わないにこしたことはない。
「そもそもなんでオレに対して攻撃してくるんだ?」
[月姫の法衣]は敵に見つかりにくいって設定のはずなんだけど。
「
声が聞こえ、そちらに目をやる。「
よくよく見てみると、そこには一人の少女っぽいプレイヤーが立っており、わなわなと体を震わせながらオレをにらみつけるようにして指さしていた。
膝までの
といったところ。顔つきはキリッとしていて、眼鏡はかけていないがどちらかというとクラスに一人はいると思う厳し目の学級委員長といった感じだ。
「
さてまったくなにを話しているのかわからないが、とりあえず怒っているってことだけはわかる。
「っていうか、相手は日本人なんだから自動翻訳機能使いなさいって……マコウ」
あきれたような声が聞こえそちらに目をやると、
「あれ? ビコウとケンレン?」
そこには
「
「
マコウと呼ばれた少女のところへとビコウは歩み寄り、設定のやり方を教える。
「……ビコウって中国語使えたんだな」
すごい流暢に使っているんだけど。
「――あの子、いちおう台湾で暮らしてたからね? あっちの公用語って基本中国語よ?」
そんなオレを見て、ケンレンがあきれ顔でツッコんできた。
そういえば母親が日本人で、日本のアニメやゲームを翻訳してもらっていたって言っていたっけ。
その流れか自然と日本語が使えるようになったのは言うまでもなく彼女自身の努力だけども。
「で、設定は終わったの?」
ケンレンがそうたずねると、ビコウはサムズアップする。
「あ、あの先ほどはすみませんでした」
先ほどとは打って変わってしおらしいマコウの態度。
「ビコウ、なんかしたか?」
「した……というよりマコウ自体がシャミセンさんに興味があるというかなんというか」
なんとも要領を得ないビコウの態度。
「まぁ言ってしまえばマコウはシャミセンの――」
「わぁあああああっ!」
ケンレンの言葉を掻き消すようにマコウはポカポカとぐるぐるパンチ。
「なんなんだ? いったい……」
そんなマコウに困惑していると、
「要するにマコウはシャミセンさんのファンだということです」
ビコウが笑顔で言い放った。
「――ファン? ファンってあれか、扇風機についている」
「それは
「どうしようか悩んでいて先に進めない」
「それは
「今日は大好きなゲームができて嬉しいなぁ」
「それは
「トンガリロ山に源流を持つニュージーランド第三の川」
「それはファンガヌイ――」
「っていつまで
ケンレンがオレとビコウの会話に割ってはいるかたちでツッコミを入れてきたからそろそろやめよう。
「っていうか、ホント誰のファンだって?」
「だからシャミセンのファンだっての」
あきれ顔を通り越して唖然としているケンレン。ビコウはビコウで苦笑を浮かべている。
「その先程はすみませんでした。シャミセンさんとはつゆ知らず」
「いやそこは、人がいるの確認しないで毒蛇ぶん投げたオレが悪いわけだしね」
しかし妙に気になることがあった。
「そういえば日本と中国でサーバーが違うんじゃなかったの?」
「あぁ、そこは大丈夫ですよ。マコウが今使っているのは中国サーバーじゃなくて日本サーバーですから」
質問に答えるビコウに対して、オレは怪訝そうに視線を向ける。
「接続している国が日本だってこと」
「いやそこはわかるんだけど」
「基本的にVRギアを通じてサーバーの識別をしていますから、日本のネット回線なら当然日本のサーバーを通して世界と共有しますよ」
その例えだとマコウは今日本にいると仮定していいわけか。
「……で、オレのファンだという理由は何なんだろうか?」
一番の謎はそこなんですけど。
「ビコウから色々と教えてもらっていて、すごく楽しそうに話すものだからどんな人なのかって興味を持ちまして――」
「で、なにかないかなと思ってちょうどイベントで双子を助けた時の映像を――」
「んっ? ちょっと待て」
オレはビコウの頭に左手を副えた。「あっ?」
オレがなにをしようとしたのか察したのか、ビコウはダラダラと脂汗を吹き出す。
「あ、あのですね? ちょっと言い訳させてもらえませんか? わたしあの時助けたくても助けられる立場じゃなかったの知ってますよね? っていう力をゆっくり込めるのやめてくれません?」
「そこはまぁわかってるよ。あのイベントはクエスト系のイベントだったからビコウが運営として不正をしていないか管理するためにいたってことくらいはな?」
オレは静かに笑みを浮かべる。
「オレが聞きたいのは、オレがピンチになっているってのにその時のことを呑気に映像を残してるってことだよ」
問答無用でアイアンクロー。
「なぁああああああああああああっ!」
ジタバタと頭から手を離そうとするビコウだったが、
「あれ? なんかスキル使ってません? なんでわたしの
「あぁ、昨日レベルが上ったから」
あっけらかんと言うや、ビコウは青ざめた表情を浮かべながら、
「つかぬことをお聞きしますけどシャミセンさん? 今ステータスってどれくらいなんですか」
とたずねてきた。「[火眼金睛]で覗き見れるんじゃないの?」
「あれはあくまで基礎ステータスまでしか見えませんから、スキルとか装備品による付加価値まではわからないんですよ」
それより放してほしいらしいのでスッとビコウの頭から手を放す。
【シャミセン】/【職業:風術師】
◇Lv:36
◇HP:873/873 ◇MP:1701/1701
・【STR:14+35(9+26)】
・【VIT:9+73(47+26)】
・【DEX:19+35(9+26)】
・【AGI:13+82(56+26)】
・【INT:10+114(88+26)】
・【LUK:255(245+56)】
◇装 備
・【頭 部】
・【身 体】月姫の法衣+α5(∨+29 A+16 I+13 L+9)
・【右 手】
・【左 手】赤光の錫杖+5(S+9 I+28 L+10)
・【装飾品】
玉龍の髪飾り(I+30 L+20)
ほとんど見る機会がないからあれだけど、カンストしている
「
ふてくされた声で聞くな。オレが一番聞きたい。
「あの、シャミセンさんにお願いがあるのですが」
マコウが、それこそビコウを追い払うようにしてオレに声をかける。
「お願い?」
「はい……ここでシャミセンさんと勝負させてください」
「まだログインするつもりでいるからデスペナなしで」
「それでも構いません。負けた方は所持金半分で」
それなら負けてもデスペナの心配もないから良しとしよう。
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