第300話・豪雨とのこと
自分が通っている大学に、まさか職場体験学習とはいえ、従妹の香憐と、そのクラスメイトである恋華がきていたことにおどろいた日の深夜――晩の十一時四五分のことである。
「それじゃぁ、結局***が聞きたかったことをビコウさんに聞けなかったんだ」
NODにログインし、マイルームから外にでようと準備をしているあいだ、大学でビコウに気になることを聞けなかったことをジンリンに説明していた。
「なんかビコウもビコウで、星天遊戯のほうが忙しいみたいでな」
フレンドリストを見ると、ビコウがログインしていないことが一目でわかった。
「ケツバさんとかに聞いてみたら? 直接スタッフに聞いてみるのもいいかもしれないし」
「かと言って、その二人もログインしていないし」
オレが登録している、ケツバと麗華といったNODのスタッフは、本来NPCに扮してゲームの中で不正がないか管理している。
もちろんプレイヤーがいつケツバの館にやってくるかわからないので、基本的にはNPCはNPCとしてテンプレートな反応しか見せないようだ。――つまり、二人がログインしているときは、ゲーム以外のことも聞けるということになる。
「ケツバたちに聞こうとは思っているけども、はたして昨日の実験が本当に魔女がしていたことなのか」
「確実……って、わけじゃないものね。実際魔法を使ったキミしか実感がないわけだし」
【
「そうなんだよなぁ。というか
「あれかなぁ、
どういう意味? と、妖精を一瞥する。
「キミもそうだし、ボクも生きていたころにVRを経験しているから言えることだけどさ、FPS……つまり一人称視点でのシューティングゲームって、実は結構危険なんだよ」
「危険って、それをなくすように企業は開発を
「あぁっと、キミは元々ゲームはゲームっていう概念というか、***が云っていた、魔女がボクに憧れを持っていたことに対して、なんとも思っていなかったみたいにさ、たとえにライフルで人を撃つみたいなFPSをやっても、それはちっとも変わらないみたいだけど」
ジンリンはこのとき、指を三本立てて話をしていた。
二人できめたことなのだが、NGワードが出てくると判断した場合、ザンリのときは三本、ニネミアの時は二本、オレのときは四本指を立てるようにと取り決めをしていた。
こうすれば、何をいっているのかが一目瞭然となる。
「でもゲームなんだから、実際に人を殺したってわけじゃないだろ?」
けげんな顔を浮かべながら、そうたずねる。
「それはそうなんだけどね。今も昔も暴力的な作品を嗜好にしていると犯罪率が高くなるって心理学の研究で謳われているんだよ」
ジンリンの話から察するに、自分があたかもその場にいるという臨場感を与えることができるでデバイスを介したVRは、その思考の助長にもなりうるってことか。
「有名なFPSゲームをプレイしていた青年が、ノルウェーのある島で銃を乱射して大量殺人を起こしたっていう事件が起きているし、ガンコンを使ってプレイしているから、銃の精密度も高かったみたいだよ」
そういう事件って、ゲームが理由云々よりも、銃が身近にある海外ならではの事件って感じがする。
「自衛隊も研究題材としてVRを使っているっていうしね。更にいえばセーフティー・ロングのVRギアは大脳を使って痛感とかもあるから更に臨場感を与えてしまっている」
危険性も考えれば、そういうシステムは作っていないはずだし、検閲も受けているはずだからこそ、システムの裏があるということか。
「それで、今日はどうする? 今のところ魔女に関してはなにも情報を得てないでしょ?」
ジンリンが肩をすくめるように聞いてきた。
「オレと一緒にいたテンポウがログインしていれば、あのときのことを話しあえるんだが」
「例に漏れず、テンポウさんもログインしてないんだよね」
そんなことを話していると、
◇ナツカからメッセージが届きました。
というインフォメーションがポップされた。
「――ナツカから?」
結構めずらしいことなので、オレは首をかしげた。
◇送り主:ナツカ
◇件 名:無題
・さっきまで星天遊戯にログインしていたら、ビコウからシャミセンが自分に話をしたいことがあるって言っていたけど、時間が取れそうにないから代わりに聞いてくれないってお願いされた。
・私にも話せることだったら、カラヴィンカの食事処で待っているから、ログアウトする前に来て。
内容から察するに、ビコウ自身がログインできないくらいに忙しいようだ。
「本当に忙中関なしなんだなぁ」
まぁ、そもそも星天遊戯はビコウが企画したゲームだから、ある意味最高責任者ってことにもなるんだろうけど、
「それにくわえて大学とかアルバイトもあるんでしょ? もしかするとこのまま引退なんてこともありえるんじゃ」
リアルが忙しいと、ゲームどころではなくなり、そのまま引退するなんてプレイヤーはごまんといる。
「考えられなくはないけど」
あまり、そういうことは考えたくないな。
さて、ナツカに言われたとおりカラヴィンカの食事処へとやってきた。
「ナツカは……っと」
食事処といえば、テラスがあるところだったよな?
そこで待っていると言っていたので、その辺を中心に周りを見渡していると、
「あぁ、あれじゃないかな?」
一緒に探していたジンリンが、アッと声をあげるように、ナツカが座っているテーブルを指差した。
赤と黒のグラデーションを施したマントを羽織り、ハーフフレームのメガネをかけた女性が、コーヒーを飲みながら、本を読んでいる。
殺伐とした町だというのに、まったくそんなことを感じさせないというか、そこだけ別世界と思わせるほどの雰囲気。
何度かオフ会とかであったことがあるから知っているのだけども、どうやらナツカのほうは視力の問題でメガネをかけているようだ。
「しぃねぇやぁっ!」
感慨にふけていると、人混みの中から飛び出してきたひとりの男性が、魔法盤を取り出し、女性にワイズを向けてきた。
魔法盤を使うってことはプレイヤーか?
【LNVFCWZJF】
激しく炎が竜巻のように吹き荒れ、本を読んでいた女性に放たれるのだが、
【MZAQTZDV】
魔法文字が展開されると、その魔法の効果なのか、突然周囲を覆うかのような豪雨に見舞われた。
当然のことながら、オレや周りのプレイヤーはびしょ濡れであり、更に言えば炎の渦は無常にも消火された。
「なぁっ?」
なにが起きたのか把握できていない無法者は、唖然とした顔で女性を見据える。
「ちょっと、今いいところだったんだけどなぁ」
イスからスッと立ち上がった女性は、不敵な笑みを浮かべ、無法者を見据えている。
「終わったな」
「あぁ終わった終わった」
「どうする? これって乾くの結構時間かかるべ」
「というか、マントしててよかったわ」
「服が濡れて、下に着ているのが透けて見えてるんだけど」
「ほんと、リアル思考というか、マジでさみぃわぁ」
豪雨の被害に遭ったプレイヤーが、もはや興味なさけに、各々自由に動き始めている。
もう結果が見えているみたいな空気だ。
「てめぇ、犯し殺したるぅ!」
そんな空気を感じないというか、目の前の女性を舐めているのか、無法者が舐められたと思っているのか、カッと目を吊り上げ、咆哮をあげた。
「魔法盤展開ッ」
静かに女性は魔法盤を取り出し、ワイズの石突を無法者に向けた。
【LNVF】
「んっ?」
展開した魔法文字はただの【
「はっ? もしかしてJT不足かぁ? そんなもんこいつで消えるに決まってらぁ」
【YSDY】
笑うように無法者が展開させたのは【
まぁ属性的に考えれば、有利なのは無法者のほうなんだろうけど――。
「あのさぁ***、前に属性によっては関係なくなるって話をしたことがあるよね?」
ジンリンも、なんとなく結果が見えてきているようで、嘆息をつくように言う。
その時、約束事だからか、四本の指を立てて話をしている。オレの名前を言ったということだ。
「見たところ、ナツカさんにちょっかい出しているプレイヤーって、水属性魔法使いだから、水に対しての属性付加がかかっているんだけどね――場合によっては弱点ですらなくなるのよ」
妖精の言葉どおり、無法者が放った【
――ゴォツゥ!
という、火と表現するのもおこがましいほどに激しい炎が水を蒸発させ、無法者もろとも飲み込んだ。
「うぎゃぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
激しく燃え盛る火柱の中に、焼け焦げていく人の影が見える。というか肉が焼ける臭いがリアルすぎる。その近くにいたせいか、熱風がこちらにも来てるんですが、VR末おそろしや……。
「はぁ、ここであなたを待っているあいだに、もうかれこれ十五人くらい襲ってきたんだけど」
オレが来ていることに気付いたのか、女性――ナツカは
そんなに相手をしておいて、平然とした笑みを浮かべないでくれませんかね?
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