第161話・慧星とのこと


 テンポウの居場所はさてどこなのやら、フレンドリストを見るかぎり、ログインしているとしか情報がないからテレポートで飛んで行くということができない。


「かといって、歩き回ったらそれこそ時間の無駄だしなぁ」

[テンポウさまからメッセージが届きました。]


 などと考えていたらテンポウからメッセージが来た。


【前方シャミセンさん発見】


 というタイトル。


「んっ? 前方……」


 急に目の前が真っ暗になった。


「だぁれだ……」


「あのね、そういうのは内緒でやらない?」


 というかメッセージで教えて来といてなんなんだろうか。

 双眸を塞いでいた少女の手の感触がなくなる。

 一、二度まばたきをして、うしろを振り向くと、


「乗りが悪いですね」


 やっぱりテンポウだった。というか膨れっ面になるな。


「でも気配を感じなかったんだけど?」


「あぁ、今さっきまで【陰行shadow】という魔法を使っていたんですよ。町までモンスターと戦いたくなかったので」


 えっと、名前からして姿を消すとかそういうやつ?


「隠れ蓑みたいな?」


「たぶんそんな感じだと思っていいと思いますよ。といってもプレイヤーの幸運値に左右されるみたいですけど」


 オレが星天の時に装備していた[月姫の法衣]とおなじ装備内容ってことか。


「それより今日はどうします?」


「そうだな、ちょっと気になることがあるんだけど、北の魔女のところまで行こうかなとは思ってる」


「北の魔女ですか? べつに構いませんけど、シャミセンさん大丈夫ですか?」


 大丈夫って、なにが?


「そこ、出てくるモンスターのほとんどがXb8以上でしかも魔法ダメージが半減されるって話ですよ」


「うそ?」


「嘘じゃないですよ。ビコウさんから教えてもらったことですからまず間違いないと思います。このゲームのメッセージだとクエストのくわしい情報はNGコードに引っかかるみたいですから、メールで教えてもらったんです」


 フレンドには包み隠さずに情報を提供しているのがビコウのいいところだな。


「ってことは、そのモンスターの弱点属性を狙わないとまずキツいってことになるんだな」


 といっても、結局はXbの差によるものが多い気がするけど。



 さて、北の魔女がいるとされる場所は、[エメラルド・シティ]から向かって北の森を抜けた沼地にあるんだとか。


「あ、ちなみに北の魔女は別名[沼地の魔女]と言われていて、その魔女には三人の近衛兵がいるって話ですよ」


「近衛兵かぁ。そいつらを倒さないと沼地の魔女に会うこともできないってことね」


「これもビコウさんから聞いた話ですけどね。まずその三人のXbが10±αと思っていいらしいです」


「んなぁ? ±αってなにそれ?」


「これがどうもプレイヤーとの実力の差によるものらしいです」


 わけわからん。モンスターのXbがプレイヤーとの差を縮めたり空けたりするんだろうか?


「とにかく沼地に行ければ、ダンジョン判定がはいると思うし、テレポートで拠点に戻ることはできるからいいけど」


「便利ですね。ダンジョンがブックマークできるっていうのは」


 それに関してはほんとそう思う。

 っていうか、[陰行shadow]を使ってる時点で、テンポウも[O]の魔法文字使えるよね?



「あ、そういえば昨夜、[線]でハウルと話したんですけど」


「んっ? ハウルなんか言ってた?」


 ハウルごと、オレの従妹である花愛は、テンポウもとい里桜ちゃんと同じクラスだから、ゲーム外でも結構話してるとは当人たちから聞いてはいたけど。


「いや、この前シャミセンさんが参加していなかったレイドボスの討伐報酬で自分の好きなステータスを1ポイント増やすアイテムを貰ったんですけどね、正直ふたりとも今はNODが主になっているので、宝の持ち腐れといいますか」


 コンバートする前だったらとにかく、今更ステータスを増やしてもってことか。


「というか1なんて、お互いレベル30以上だからさほど嬉しくない報酬なんですよね」


 まぁ、セイエイやビコウから聞いた話だと、レベル30以上のプレイヤーには放ったらかしにしていてもクリスタルが無償でもらえるし、あまりに溜まり過ぎてると捨てたくてしようがないらしい。

 当の本人たちはそもそもあまりレベル上げや武器の熟練値、鍛冶での強化以外でステータスを上げたくないみたいで、他のプレイヤーにわたしたりしているそうだ。

 それを考えると、オレもほとんど星天遊戯にログインしなくなっているから溜まりに溜まってる。

 それを考えると、うーむ、参加しなくてよかったかもしれない。

 後でセイエイから聞いた話だけど、今テンポウが言ったことはあくまでレイドボス討伐に参加したプレイヤー全員に送られるもので、とどめを刺したプレイヤーには討伐恩恵として二万Nとクリスタル一式がもらえたそうだ。ちなみにセイエイはとどめを刺せなかったようで、


「セイエイちゃん結構悔しがってましたよ」


 らしい。

 別に報酬がもらえなかったというよりは、獲物を横取りされたことにだろうな。

 昨日だって、流れ弾でセイエイが倒そうとしていたモンスターをオレが倒したのを、すごい剣幕で睨んでたし。



「あれ?」


 ちょっと疑問に感じたことがあるのだけど。


「今テンポウが話したことって、このフィールドのクエスト情報だから、普通にNGが入っても可笑しくない気がするんだが?」


 そう問いかけながら、オレはジンリンを見据えた。


「あ、おそらく[陰行]の効果があったからだと思います。あれも[暗号]と同じ効果がありますし、そもそもおふたりともフレンドとしてお互いに登録していますから」


 つまりフレンド同士ならNGコードには引っかからないってことか。


「ただ、シャミセンさまがビコウさまからもらったメッセージにNGコードが入ったのは、[暗号]の魔法文字が適用されていなかったのが原因だと思います」


「その[暗号]って魔法文字を使えばNGコードに引っかからないで相手にメッセージを送れるってこと?」


 テンポウの問いかけに、「そういうことです」とジンリンは応えた。



 さて、今のXbで沼地の魔女に挑戦するというのはいかんせん無謀だと思う。

 というかまぁ、NODでの幸運値に期待できないっていうのが本音だけど。


「そういえばシャミセンさんのステータスってレベルの割に高くないですか?」


「やれそれと、また唐突に聞くね」


「あはは、この前のお返しです」


 テンポウが苦笑を見せながら言い返してきた。


「まぁエメラルド・シティにステータスアップの施設があるみたいで、そこをビコウから教えてもらったんだよ」


「あぁ、あそこですか」


 んっ? その反応は行ったことがあるってことね。


「でも運がなかったのかほとんど成長しませんでした」


 まぁある意味ズルしてるようなものだったからなぁ。

 オレからしてみればテンポウのほうがステータス高いんだが、それは喉元で抑えておこう。


「は、いいとしてパーティーを組む前に、町まで同行お願いできません?」


「別に構わないけど……」


 妙に切羽詰まってるなと、テンポウに理由を聞こうとした瞬間、

『ぐぅぎゅるるるるる……』


 とお腹が鳴る音が聞こえた。


「うん。時間が時間だしね。そろそろお腹が空いてもおかしくないよね」


「あわわわわ」


 うん。お腹の虫が鳴いてるのを他人に聞かれたら、顔が上げられないってくらい恥ずかしいってのはわかった。



 ※



「プレイヤーズランキング?」


 テレポートでエメラルド・シティに戻ったオレとテンポウ、そしてジンリンは、町唯一の食事処へとやってきてはすこし遅めの夕食を取っていた。

 そのさい、ジンリンからNODがサービス開始してからおおむね二週間くらいをているからなのか、結構先に行っているプレイヤーもいるわけで、トッププレイヤーをランキングすれば他のプレイヤーが躍起になるって寸法らしい。


「ちなみにメニューで見れますよ」


「興味ない」「私もないですね」


 ジンリンの笑みが、オレとテンポウの一言で翳りを見せた。


「あ、あれぇ? おふたりとも今現在プレイヤーがどこまで行っているのか気になりません?」


「特に興味がないとしか言えないんだけど」


「私も、右に同じ……もとい手前に同じです」


 言い直したのは、ちょうどテンポウがオレの対面にいたからだろう。



「でもまだゲームが開始されて二週間しか経っていませんよね? それでどこまで行っているのかっていうのは気になるけど」


「単純計算で、Xb20くらいなら第四までは行ってそうだけどな」


 オレがそうつぶやくや、テンポウが首をかしげる。

 というか視線からして興味があるってことか。


「えっと、たしか第一フィールドのモンスターが最高でXb5。第二はXb10という話だったから、だいたい5の倍数って考えればいいってことでしょうか?」


「ただ、そうなると経験値はどれくらいかかると思う?」


 オレがそうたずねるや、テンポウとジンリンな目を点にした。


「えっと、1900くらい?」


「その経験値を数値の基準として、一匹倒すのに軽く見積もって三分とする。経験値は1固定だ」


「5700分ですか? 時数にして95時間」


「それを一日五時間として戦闘に費やした場合、どれくらいの日数がかかると思う?」


「95時間に5を割ればいいわけですから……あっ!」


 テンポウとジンリンが唖然とした声を上げる。オレの先導に気付いたようだ。


「単純計算で見繕っても十九日間かかってる?」


 NODがサービスを開始して、まだ二週間くらいしか経っていない。となればいくら廃人でもゲームの中にずっといるということはないだろう。というか長時間のプレイは健康的に危ういし、疲れが脳波に出てるからゲームがログアウトして睡眠や休憩を促す仕組みらしい。

 そう考えると、まず現段階でXb20以上に達しているプレイヤーの数は片手と言うのはちょっとムリがあるが、そう思ってもまぁ間違ってはいないだろう。


「奥に行けば行くほど詠唱が早くなっていたり、特殊スキルを持っているモンスターが出て来てもおかしくない。現にこのフィールドだけでもスキルとはいかずとも、モンスター特性で苦戦した経験があるからな」


 というのは建前で、このゲームの経験値システムを考慮すると、同レベル以下は小数点になるからこれでもかなり早いほうだと思う。


「まぁ、後はプレイヤースキルでどうにかするしかないか……」


 等々、ランキングのことを肴に会食をして、フィールドに出ますかね。


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