第115話・真砂とのこと



 ステータスの文字がまったく読めない。


「プレイヤーにはこのアイテムをプレゼントするよう、GMから頼まれていましたので、差し上げます」


 そう言って、ジンリンがオレに渡したのはまるい石盤だった。

 触ってみると、グルグルと中心が回転する。

 中心のダイアルにはAからZまでのアルファペットが、円を作るかたちで順番に彫られており、円盤の縁に一つだけ[▼]が付けられている。

 順番に刻まれているアルファペットの上の段には、ランダムにアルファペットが刻まれていた。

 ただし全部が彫られているというわけではない。


「もしかして、あのステータスの訳の分からない文字って、これのヒントだったりする?」


 そうたずねると、ジンリンは小さくうなずく。



 [A]の上には[Y]。[D]の上には[M]といった形で、以下のとおりに石盤には刻まれていた。



◇【使用可能魔法文字一覧】

 [A/Y][B/ ][C/ ][D/M]

 [E/F][F/ ][G/K][H/H]

 [I/N][J/ ][K/E][L/X]

 [M/J][N/Q][O/ ][P/T]

 [Q/ ][R/V][S/C][T/W]

 [U/D][V/B][W/ ][X/U]

 [Y/ ][Z/ ]



 といった形で当てはめられているが、空白もいくつかある。


「わからないのは[B]、[C]、[F]、[J]、[O]、[Q]、[W]、[Y]、[Z]の九文字か」


 さて、これがどういう意味になるんだろうか。


「これを使って魔法を発動させるとか?」


「ためしに利き手の手のひらをかざして、逆の手でダイヤルを回して、石盤の[H]をポイントに合わせてみてください」


 ジンリンに言われた通り、ダイアルの[H]を[▼]に合わせてみると、



【H】



 という文字が目の前に展開された。


「次にダイアルを[E]に合わせてください」


 指示通りにやってみるや、



【HF】


という文字が展開される。


「それでは次に[A]をダイアルに合わせてください」


「……ってことは、最後は[T]になるんだな」


 ダイアルを合わせていくと



【HFYW】



 と表示され、オレの眼の前にあった紙に小さな火がついた。


「[HEAT]か。つまりこの石盤は魔法を発動するために必要なもので、アルファペットに刻まれていない文字を使った魔法は使えないってことだな」


 HEATでものが燃えるってのはどうなんだろうか?

 もちろん物質が厚かったりすれば、熱では燃えなくなるだろう。

 ということはFIREじゃないと点けられないってところだろうな。

 もうすこし強いものなら[爆炎BURNING]になるが、石盤を見ると、あいにくと、[F]や[B]に当てはまる文字がなかった。

 文字盤を埋めても、レベル相応の魔法しか使えないだろうし、すべてのアルファペットを推理していくこともゲーム攻略の鍵ってことになるわけだな。


「そういうことになります。ちなみに町の看板にもヒントがありますが、どこになんの文字が当てはまるのかを当てないとだめになります」


「もしかして、それを見つけても一回こっきりで、そこではもう手に入れられないってこと?」


 うわぁ、情報を公開しないプレイヤーとかいそう。


「そうですね。ただしフレンド間での情報交換は可能ですので、どんどん仲間を増やして、すべての魔法文字マジックワードがつかえるよう頑張ってください」


「英語が苦手な人はどうしたらいいの?」


 さっきは簡単な単語だったから良かったけど。


「たとえば花火の英語は[Fireflower]じゃなくて、[Firework]が正しいんだよな」


「それは大丈夫です。魔法を使うさい、最初の一文字から予測変換されて、シャミセンさまが現在使用可能となる石盤の文字が表示されますから」


 ちなみに決闘の時、自分が展開している文字が相手にも見えるそうなので、設定で隠せるようになるとのこと。

 試しに石盤のダイヤルを[H]に合わせてみると、最初の一文字に[H]が表示され、次に[F]の文字が薄く表示される。

 えっと、[F]は[E]だっけ?

 それにダイヤルを合わせると、[H][F]と表示され、次に[Y]が薄く表示される。それ以外に薄く表示されている文字がない。

 ということはこの段階だと[Y]=[A]以外に使える文字がないってことか。

 ダイヤルを[A]に合わせると、文字は[H][F][Y]と表示され、さっきの[W]以外に、[X]の文字が薄く表示されていた。


「[X]……」


 なんの文字だったっけ? と思い出していると、カウントが[2]・[1]・[0]となくなっていき、展開していた文字が一瞬で消えた。


「時間制限ありかよ?」


 JT……面倒くさいからMPのままでいいか。そのパラメーターの減少はなかった。魔法が成功しないと減らないあたり親切設定だな。


「バトルシステムは[星天遊戯]と同様[アクティブタイムバトル]になっていますので、魔法盤に記されている文字を早く繰り出さないと、モンスターや、他のプレイヤーに攻撃されてしまいます」


 オレはジンリンからそう説明されながら、若干一名、魔法展開させるのが面倒とか言って、通常攻撃を仕掛けてきそうな輩を思い浮かべていた。

 頭の中で使う魔法のスペルを整理しておかないといけないってことか。



「それではチュートリアルはこれにて終了です」


 ジンリンがそう云う。


「え? 他にもあるんじゃないの? っていうかまずこの部屋ってなに?」


「この部屋はシャミセンさまの個室となります」


 宿屋で雑魚寝じゃないのか。ちなみにフレンドどうしで、テレポートを使えるようになったら、お互いの個室やフィールドを自由に行き来できるらしい。


「テレポートはスペルだと[TELEPORT]になるから……」


 あ、[O]がまだ埋まってない。


「ちなみにテイムモンスターを召喚するためには[SUMMON]としなければいけません」


 ジンリンが、オレが思ったことに答えてくれた。


「うーむ、最初に[O]の文字を探してみるか」


 最初の目的が決まった。町に出て[O]の文字を探す。



「そういえば、ほうきを手に入れれば空を飛べるの?」


「そうですね。ただし自由に飛べるというわけではありません。ほうきを使いこなせなければいけませんし、最悪地上に叩きつけられて死んでしまいます」


「運転技術が必要だった」


 ジンリンの話では、ほうきを手に入れるには、レベル10からじゃないといけないのと、魔女組合の長から与えられるクエストにクリアすることが最低条件となるらしい。

 それからほうきを手に入れても、うまく使いこなせるかどうかはプレイヤー次第ってことだろうな。


「ところでジンリン、なんでバトル内容とかも説明しなかったの?」


「さきほどもいいましたが、バトルシステムは[星天遊戯]とさほど変わりませんし……いちいち最初から説明しないといけませんか?」


 ナビゲーターがしかめっ面を向けないの。

 まぁコンバートしているプレイヤーは戦闘にはなれているわけだから、そのゲームと同じ戦闘システムなら、それを説明をするほど億劫なことってないやね。

 あ、だからコンバート可能のレベルが30以上に設定されていたのか。



「初期装備は?」


「こちらになります」


 そう言ってジンリンはテーブルの上に出したのは、五十センチほどのスタッフと黒の法衣だった。それから指環。


「本来はスタッフと法衣のみなのですが、シャミセンさまはテイムモンスターを所有されていますから、その証として指環が授与されます」


 説明を聞きながら、さてさっそく鑑定してみましょう。



 ◇ライト・スタッフ/武器/ランクN/C+2N+2

  ・誰にでも使用可能となる杖。それ相応の威力しかない。



 ◇ライト・コート/法具/ランクN/B+2N+1

  ・見習い魔法使いが着ている新品の法衣。特になんの役にも立たない。


 ◇サモン・リング/装飾品/ランクSR/N+12X+14

  ・召喚を許可されたプレイヤーにのみ使うことを許された証。

  *召喚するには石盤で[SUMMON]の文字が出せなければいけない。



 さすがにSRともなればステータス上昇が半端じゃない。

 それらを装備すると、こういう形になった。



 【シャミセン】/見習い魔法使い/0K

  ◇Xb:1/次のXbまで0/10【経験値0】

  ◇HT:8/8 ◇JT:31/31

   ・【CWV/5+2】

   ・【BNW/6+2】

   ・【MFU/8】

   ・【YKN/5】

   ・【NQW/16+15】

   ・【XDE/60+14】


  ◇装備

   ・【頭 部】

   ・【身 体】ライト・コート (B+2 N+1)

   ・【右 手】

   ・【左 手】ライト・スタッフ(C+2 N+2)

   ・【装飾品】サモン・リング(N+12 X+14)



 というステータス画面。

 以前、星藍が言っていた通り、次のレベルまでの数値がわかるのはいいね。



「あ、説明し忘れていましたが、次のレベルまでが[100]だとしても、百回戦闘をしたからといってレベルが上がるというわけではありません」


「もしかして経験値がもらえないとかもあるってこと?」


 それはRPGとしてどうなんだろうか。


「いえ、100=経験値は最低でも[1]もらえるから、百回やればレベルが上がると思われるプレイヤーもいらっしゃいますので、いちおう説明しようかと」


 ジンリンはメガネをかけ、女教師風に姿を変えた。


「だいたい次のレベルは[10]×現レベルと考えてください。ちなみにレベルマックスは50です」


 ステータス画面で、Xb上昇に必要な数値のよこにあった[0]は累計ってことか。

 ジンリンの話を考えると、経験値は最終的に[12,250]になる。


「経験値に関してお聞きしたい事はありますか?」


「さっき百回戦えばレベルが上がるわけじゃないって言ってたじゃない? どういうこと?」


 オレもてっきり経験値が[100]必要なら、戦闘を百回すれば上がるものだと思ったのだけど。


「まずモンスターにもレベルが表示されます。自分よりも弱い場合、その比率しか経験値がもらえません。例えばプレイヤーのレベルが1とした場合、モンスターのレベルが1なら経験値は[1]となります。モンスターのレベルが3となっている場合、経験値が[3]もらえるというわけです。逆にプレイヤーのレベルが2とした場合、モンスターのレベルが1だと「0.5」しか増えません」


「つまり自分と同じレベルなら1しかもらえない。レベルが高いモンスターだとそれに比例した数値が経験値としてもらえる。逆に弱いとそれを割った数値しかもらえないってことか」


 レベル3がレベル1のモンスターを倒しても、もらえる経験値は「0.3」しかないってことね。


「あれ? それって結構きつくない?」


 レベル30ともなれば、経験値がモンスターのレベルが31なら、もらえる経験値は[2]だけど、29だと低いから[0.9]しかもらえない。もちろんそれも経験値として蓄積されるから、十回戦闘すれば経験値は[9]になるわけだけど、やはり効率が悪すぎる。

 もしかしたら[星天遊戯]の経験値システムよりキツいかもしれない。


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