第66話・泰山鳴動して鼠一匹とのこと
「あ、おはようございます」
目を覚ましたセイフウ。続けてメイゲツが、自分たちを見ていたオレに頭を下げる。
「おう、おはよう。飯できてるぞ」
その言葉に、双子は眠気眼でくびをかしげる。
他の女性プレイヤーが分担して皆の朝餉を用意していた。
ほとんどがオレが目を覚ましたあたりで起き始めていたのだ。
「腹が減ってはなんとやら、あちらにアクアでためた水があります。そちらで顔を洗われたらどうですかな」
ヌッと顔をのぞかせるコウマさんが、部屋の隅で瓦礫を使って作った水瓶を指さした。
「ひゃうっ?」
突然現れたせいか、双子はコウマさんの顔を見て悲鳴を上げた。
うん、目の前にモンスターよろしくな顔が現れたら悲鳴を上げざるを得まい。
というか、ボースさんといい、自分の体躯を考えてほしいものだ。
「それじゃぁ整理するけど、オレが運ばれた時にはまだ[紫雲の法衣]は皆の前にあったってことでいいんですか?」
オレや双子、コウマさんやマリカたちパーティーを含んだ、部屋にいるプレイヤーたちで朝食をとっていた時だ。
オレは外で撮影したモニュメントのスクショを皆に見せながら、聞きたいことをたずねていた。
「疑っちゃいるだろうが、皆が寝静まる前まではたしかにあったぜ。それにあんたのことはみんな信頼はしていなかったにしても、ちゃんとモニュメントの場所をスクショで教えてくれたんだ。そこは評価する」
一人のプレイヤーがそう説明する。
あの時、誰かに預けておけばよかったと、いまさらながら思う。
もちろん最優先に信頼できるのは双子だな。
「しかし大胆不敵な輩ですな。皆が寝ている時を狙うとは」
「でもその法衣がどれだけすごいものでも、装備の効果を考えるとあまり欲しくはないかなと」
「そうだねぇ、防御力が増加されるのは装備者のLUKが大きく関わってくる。私、そんなに運上げていないし」
「少なくてもSRの装備品だったら20くらいはありますからね」
[紫雲の法衣]の装備はINTとLUKが上がり、VITはその効果で付加される。
つまり、法衣としてのVITは、装備者のLUKで決まるということだ。
例えば元々のLUKが20だとして、[紫雲の法衣]を装備すると+20で40になる。
その30%だとすれば、VITに付加される数値は12しかない。
これくらいなら戦士系や大盾のプレイヤーの装備ではレアアイテムくらいの価値しかないようだ。
また魔法使い系は、主に魔法でVITをあげるので、あまり装備では期待されていないといえよう。
「だからこそ盗んだプレイヤーは売ることが目的ではないでしょうかね」
今のところ、オレが持っているもの以外に目撃証言はないらしいから、売ったら完全に盗品だってバレるだろう。
「まぁ、盗まれたもんは仕方がないやねぇ」
オレは嘆息を
「あきらめるんですか?」
オレの両隣に座っている双子が、怪訝な表情でオレを見ている。
「いや、あきらめたってわけじゃないよ。探そうにも誰が持っていったのかわからないからな。こんだけ多くのプレイヤーがいたんじゃ、散らばった蜘蛛の子を探すようなもんだろ。まぁ盗んだやつのLUKがあまり高くないことを祈るやね」
「たしかに、イベント参加プレイヤーが多い以上、まさにそのようなものでしょうな…………道具が人を選ぶということでしょう」
コウマさんがオレの意義に感付く。
「えっと、どういうことですか?」
「もしかして、盗んだ人じゃ[紫雲の法衣]を使いこなせないってことを言ってる?」
メイゲツとセイフウ、それぞれが首をかしげ、オレとコウマさんを見渡した。
「二人はオレの[玉兎の法衣]を装備していない状態でのLUKがどれくらいか覚えてるか?」
「……っ? えっと、たしか[玉兎の法衣]のLUK上昇が10で、[紫雲の法衣]のLUK上昇は20だから、それで前に装備品の話の時、シャミセンさんは[紫雲の法衣]を装備した状態だと205って言ってましたから――あっ!」
双子が同時に目を点にする。
現在、オレが身体に装備しているのは[玉兎の法衣]だが、それをなくした場合のLUKは合計で185。
[玉龍の髪飾り]の効果はその5%をLUK以外のステータスに振り分けられるため、+9がそれぞれ付加されている。
つまりは、[玉龍の髪飾り]が[水神の首飾り]のハイブリッド版といったところだろう。
「[紫雲の法衣]の弱点はVITが装備したプレイヤーのLUKに依存してるということ。つまりプレイヤー自身のLUKが低かったらそんなに怖くないってことだよ」
「でも、たしかあれって魔法を無効化でき……あぁ、そういうことかぁ」
と、セイフウは落胆の色を見せた。
「っと、どういうこと?」
話を聞いていた他のプレイヤーが、どういうことか、どういうことかと耳を疑っている。
「えっとですね、つまり[紫雲の法衣]の効果である魔法無効化というのは、LUKの合計値30%の確率になるんですよ」
オレの代わりにメイゲツが皆に説明してくれた。
つまりは、それを装備した場合のオレのステータスだとLUKは205。その30%だから61.5%の確率で無効化にできる。
逆にそれより低い、例えば150だとした場合は45%。
100なら30%、50なら15%とどんどん下がっていく。
定められた確率というわけではなく、[紫雲の法衣]の魔法無効化は、プレイヤーのLUKで決まるのだ。
「シャミセンさんみたいにLUKを極振りしていない以上、怖いものでもなし、ましてや使いこなせるというものでもないと」
まぁそういうものです。
「それに慌てたところで戻ってくる可能性もないですしね」
今は出口用のモニュメントにどうやって行こうか。
そっちのほうが大事な気がする。
それになくなったら、それもまた運だろう。
特に頑張って手に入れたって言うわけでもないし。
「その割には顔が引き攣ってますよ」
メイゲツから的確なツッコミを受けた。
うん、本心はかなり悔しいです。
四割は自分に対しての憤り、残りの六割は盗んだプレイヤーに対しての怒りだった。
とりあえず盗んだ奴、遭遇したら半殺し確定。……
「あれ?」
突然、セイフウがおどろいた声を上げたので、そちらに目をやると、彼女は自分のメニューウィンドゥを見ながら目を見開いていた。
「どうかしたの?」
「いや、セイエイさんからチャットが」
慌てた表情で、セイフウはそのチャットに出た。
「…………」
「あ、あの……セイエイさん?」
「んぅ……今……し……る?」
「どうかしたのか?」
オレがそうたずねると、セイフウは怪訝な表情で、
「なんかセイエイさんの声が聞き取りにくいんですよ」
これってグループチャットとかできんのかね?
と思ったら、チャット参加できた。
ちなみにお互いにフレンド登録している場合のみだそう。
要するに、オレがどちらともフレンド登録していれば可能だが、どちらか一人でもしていなかったらできないってところですかな?
「おーい、セイエイ? どっした?」
オレがそう声をかけると、
「シャミセン? いま、どこにいる?」
と、まるで眠そうな口調でセイエイが応えてくれた。
「あぁっと、お恥ずかしい話、まだ東海ステージ」
「私も今そこにいる」
「東海ステージに? もしかして、もう二つ目クリアしたってのか?」
「ううん、ここで最後。でももう一日目終わってる。それなのに、なんでシャミセンとセイフウたちまだそこ? もしかしてクエストボス倒せなかった?」
淡々としながらも、心配してくれているのだろう。
「いや、ボスは倒した。今は出口用のモニュメントを探してるんだよ」
オレがそう言うや、
「フィールドマップで光ってるところない? 自分がいる場所以外で、ピカピカッて光ってると思う」
セイエイがそう説明してくれた。
急いでフィールドマップを確認してみたが、そういったものはなかった。
「ないけど?」
「でもボス倒したって言った。シャミセンが嘘をつくとは思えない」
あの、どんだけオレのこと信頼してるの?
オレだって、たまに嘘をつきますよ。
「あっと、つまりはセイエイの場合はボスを倒したらそれがあったと?」
「とりあえず、シャミセン今いる場所教えて。渡したいものもあるから」
渡したいもの?
「それってなに?」
「なんかたまたま遭遇した人から、シャミセンが持ってるかもしれないアイテムを持ってる気がしたから、ためしに倒した」
持ってるつもりって、確認もしないで倒したところからして、深くは考えてないな。
そもそも、オレのじゃなかったらどうするつもりだったの?
と、ツッコミを入れようと思ったけどやめた。
この子普段はボーッとしてるけど、バトキチになると否応なしに相手を攻撃するんだよ。
まぁ、セイエイレベルのプレイヤーだと、そんな簡単に負けるようなことはないか。
「あぁっとわかった。とりあえずこっちは自力で探し当てた出口用のモニュメントにどうやって行こうか、検討してるから」
オレはそう言うと、セイエイとセイフウを交えたグループチャットから抜けた。
さて、どうやってモニュメントまで行くか。
作戦としては、縄梯子を作って登る。
誰か縄持ってますかね? だいたい十メートル。
と思ったけど、そんなに都合のいいものはないようだ。
また昨夜みたいにいらない布を使う?
いや、それ以前にどうしてあんな訳のわからないところにあったのか、それが気になる。
設定ミス……だったらほんとう運営ぶっ飛ばしたい。
そういえば、これってビコウがチェックしてたはずだよな?
はじめてリアルでナツカたちに会った時、セイエイに案内された病院で、ビコウから聞いた話を思い出してみた。
『レイドボスの効率的な倒し方とか、ちょっとした[謎解きの答え]とかわかっているし』
謎解き……。
出口用のモニュメントに行くためのも、もしかして謎解きが必要だというのだろうか。
「あっ……」
オレはいまだにどうしたものだろうかと悩んでいるマリカのパーティーを一瞥する。
「どうかしたんですか? シャミセンさん」
その視線に気付いたのか、マリカが怪訝な表情でオレを見つめ返す。
「あのさ、穴に落ちた時、足を引っ張られたって言ってたよね? それって底なし沼みたいに動いたら身体が引っ張られるみたいな?」
そうたずねると、マリカはうーんと思い出すような仕草を見せた。
「どうなんでしょうか、わたし底なし沼にハマッたことないですし、でも砂山で足が取られるみたいな感じでしたよ」
あ、ソッチのほうがなんとなくわかる気がする。
あれって、滑りだすと足元が覚束なくなって、うまく登れなくなるんだよ。
「で、気がついたら
マリカの言葉に、オレは唖然とした。
「ダメージを食らってって、それを確認できたのか?」
「あ、はい。地面にたたきつけられた時、HPのメーターが――あっ!」
マリカも、オレが疑問に思ったことがわかったらしい。
もし、その罠にハマったさいに死亡したのなら、なにも叩きつけらるような演出なんて七面倒なことをしなくてもいい。
高いところから地面に叩きつけられ、HPが全壊し、死亡した。
つまりは…………――――
「それって、……地下があるってことじゃ?」
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