第58話・粛としてとのこと
「……っ!」
ボス部屋を出たオレと双子が最初に遭遇したのは、クレマシオンとは違う別のプレイヤーだった。
[ラプシン 弓師 レベル22]
フレンド以外にもステータスが見えるようで、レベルはオレたちと大差なかった。
そのラプシンという弓師は、おどろいた目でオレたちを見据えるや、弓矢を構え、鏃をオレたちに向ける。
「ちょ、ちょっと待ってください」
メイゲツがそうラプシンに詰め寄る。
「動くなっ!」
至極もっともな対応。
「お前たち、その部屋でなにをしていた」
「なにをって……ボス倒してきた」
オレは質問には素直に対して答えた。
「ボス……? やはりそこはボス部屋だったか」
「あぁ、ただソロでやってるなら想到の覚悟は必要だと思うぞ」
オレは、オレたちが戦った状況を説明する。
ただし、どうやって倒したのかというのは伏せる。
「攻略をあえて言わないか。いや逆だな、どうやって倒したのかを言えないといったところか」
「どう倒すかは自分で考えてくれ」
オレの説明を聞き終えるや、ラプシンはちいさくうなずく。
どうやらわかってくれたようだ。
「レッド・ネームではないんですね」
セイフウがラプシンを警戒するようにたずねる。
「いやはやすまない。気配を感じたら矢を向ける習性ができてしまっているからな」
「なんかわかる気がします」
と、同じように弓師であるセイフウが納得した表情を見せた。
「おっ? もしかしてキミも弓師か? いやしかしステータスが見えないな」
「あぁ、オレたちフレンド以外には見えないように設定してるんです」
それを聞くや、ラプシンは「どうやるの? それ」とたずねてきた。
オレは聞かれたとおり、そのやり方を説明する。
反応は、以前出間に教えた時と似たような反応だった。
「しかし困ったな。話を聞くかぎりソロでは厳しいか」
「私たちはパーティーとして挑みましたから、たぶんソロはソロでまた難易度が違ってくるんじゃないでしょうか?」
メイゲツの言葉に、オレは「そうかもしれないな」と付け加えた。
たしかにゴウコウの攻撃や途中出てきた光の線によるフィールドトラップを考えると、ソロというよりはパーティーの動きを封じていたようなものだった。
それがあの時感じた妙な違和感の正体だ。
さて扉の方を見ると、ふたたび固く閉ざされていた。
「もしかしてあのモニュメントと関係しているのか?」
「ボスに挑戦するならお話しますけど?」
セイフウがラプシンにたずねる。
「いやしばらくはレベル上げをするよ。それにあまりメダルには興味が無いんだ」
あら、意外な反応だった。
イベントに参加してるから、てっきりメダルのかけらを手に入れた時の恩恵目的だと思ったのだが。
「参加するだけでもステータスポイントが5もらえるからね」
「もしかしてはじめてあまり経っていないんじゃ?」
「実はサービス開始のころからやっているんだが、会社勤めなものでね、ログインするひまがなかったんだ」
メイゲツの言葉にラプシンは笑って答えた。
「私たちが所属しているギルドのリーダーが言ってましたけど、職業によって成長スピードも違うらしいです」
うん、なんとなく思っていた予想が当たってた。
「成長スピードは近接タイプ・中距離タイプ・遠距離タイプでわかれるみたいです。最初レベル10まではみんな経験値に差はないそうですが、それ以降は成長スピードが変わるみたいですよ」
そういえば、成長が遅いなと思い始めたのもそれくらいの時だった。
「シャミセンさんの場合は、それ以外のことがありえそうですけどね」
セイフウがつぶやくように言う。
オレはあえて聞かないふりをした。
さて、ラプシンはこれからどうしたものかと考えこんでいる。
「ボスを倒すにしてもレベル的に……」
「んっ?」
オレはすこしばかり違和感を覚える。
なんとなく、ラプシンの見た目からして成人男性なのだろうけど、声が妙にハスキーだなと思ったのだ。
あまりアニメを見る機会が昔に比べて少なくなってしまっていたのだが、それでもなんとなく、ラプシンの声が特徴的な声色に感じていた。
「どうかしたのかね?」
「いや、中性的な声だなと思って」
「あぁよく言われるよ。たまに女性だって言われるが、れっきとした男だよ僕は」
男性にしては妙に声が高い気がするけど。
オレはアイテム欄から[金の蛇皮]を取り出し、それを空に放り投げた。
「……っ? いったいなにを?」
ラプシンは頭上を仰ぐ。
放り投げられた[金の蛇皮]が、とくに狙ったわけでもないのにラプシンの顔に落ちた。
「な、なんだ?」
それをラプシンは手に取った瞬間だった。
「きゃああああああああっ?」
ラプシンが甲高い悲鳴を上げる。
というか、うん、予想どおりだった。
いや、想像以上の悲鳴だったといえよう。
「へ、蛇? ヘビィ? ヘビ」
あたふたとラプシンは手に持った蛇の抜け殻を振り回してる。
「落ち着いてください。ただの皮ですから」
双子がラプシンをなだめる。
「ほ、ホントだ……」
ラプシンはホッとした顔を浮かべた。
「もう、シャミセンさん? どうしてこんな子供みたいなイタズラを」
スンッとセイフウがラプシンの服を見下ろした時だった。
「なんで胸に谷間が?」
「ようするにあれだな。ラプシンさんって女性だろ?」
オレがそう指摘する。
「…………」
「妙に声色は高いし、男性っぽく話をしていたけど、男性にしては喉仏の位置が高かったからな」
「それを一瞬で見極めるって、もしかしてあなた、こういう推理が得意だったりするの?」
ラプシンのおどろいた表情とは対照的に、
「いや、この人の場合はそんな複雑な推理なんてしてないと思いますよ」
と双子がツッコミを入れた。
双子の想像どおり、完全に運任せです。
「ステータスに性別がないとなるといろいろと面倒だな」
もしかすると男の娘なんてのもいるだろうし。
「っく、どうせ私が女性だったら対応も違うんでしょ?」
最初と違って態度というか、声色が女性っぽくなっていた。
というかあまり違和感がなくなっていて、こっちは聞いてて気持ちが良い。
「ムリして性別を
「そうですよ。それにさっきの悲鳴、可愛かったですよ」
メイゲツよ。自分はフォローのつもりで言ったんだろうけど、トドメさしてます。
「うぅ、中学生に可愛いって言われた。可愛いって言われた」
トドメどころか、なんか悶絶したような顔を浮かべてる。
色々と残念そうな人だな。
「あ、あの勘違いしてるみたいですけど、私たち小学六年生ですよ」
双子が唖然とした表情でツッコミを入れた。
「あ、そうだわ。あなたたちちょっと私とパーティー組んでくれない」
「あっ、オレたち、先を急ぐんで」
オレはぶっきらぼうな態度でラプシンの誘いを断るや、双子に「行くぞ」と耳打ちをし、その場を去った。
「…………」
シャミセンたちが通路の角を曲がってからしばらくのことだった。
ラプシンは一度、シャミセンたちが曲がっていったほうへと窺って見ると、すでにシャミセンたちの姿はない。
「もう行ったみたいね」
そうつぶやきながらも、ラプシンは口角を上げる。
そしてメニューウィンドゥからチャット機能を使い、あるところへと連絡を入れはじめた。
「もしもし……」
「とりあえずボス部屋みたいなところは見つけたわ。パーティーがひとつクリアしたみたいよ」
「ほぅ、レベルはどうだった?」
「それがフレンド以外には見えないようにしていてわからないわ。ただ初心者っぽいからそんなに強くないと思うわよ」
ラプシンはシャミセンたちの特徴を説明する。
「クククッ……まったく諦めもしないでまだやってるってことか。もう少しいたぶればよかったな」
「やめておきなさい。あんた趣味が悪いわよ。小学生相手になに本気になってるのよ」
「プレイヤーに年齢なんて関係ないさ。関係有るのは強いかどうかだ……オレは弱い奴が嫌いなだけだ」
「そうだったわね。あんたはそんな人間だったわ……
ラプシンはカカカと笑いながら、その場を後にした。
「行ったな」
何もない場所からシャミセンの声がする。
「みたいですね」
メイゲツとセイフウは互いに周りを見渡す。
そこにはすでにラプシンの姿はなかった。
虚空から二組のつぶらな瞳が浮かび上がるというわけではない。
[影狼の毛皮]はそれをかぶっていれば全身が消えたようにエフェクトが掛けられているため、顔をのぞかせていてもそれが他のプレイヤーから見えるというわけではなかった。
「まぁ渡る世間に鬼はなしとはいかないか」
シャミセンたちは使用していた[影狼の毛皮]を脱ぎ、姿を現した。
あの時、角をまがった瞬間に[影狼の毛皮]を羽織り、逆にラプシンを監視していたのである。
「クレマシオンとつながっていたってことは、あの人も気をつけないといけないってことですね」
「まるで
油断させたところをうしろからってところか。
「でもシャミセンさん、これってかなり危なくないですか? [影狼の毛皮]を持っていなかったら、こんなスレスレの場所で盗み聴きなんてできませんよ」
セイフウがあきれた表情を見せる。
「そこはあれだ。作戦を執行するための実験も兼ねてだからな」
オレは双子を見やる。
毛皮の説明文読んでた? 使用者のLUKで発見される確率違うから、簡単に見つかるとは思ってない。
「とにかく、今は出口用のモニュメントを見つけることが先決だな」
「正直、戦うのがめんどうなだけじゃ?」
メイゲツから人が気にしていることを言われたが、オレは言い返さなかった。
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