第59話・風の音とのこと
ステージボスを倒したところで、出口用のモニュメントまでの道中、モンスターが出ないというわけがなかった。
オレたちの目の前にはシアンシュアとフェオンシュアが二匹ずつ、地面をカサカサと這いまわっており、攻撃を仕掛けるタイミングを見計らっていた。
ちょうどモンスターとの間合いはグリーンに入っている。
「先手必勝っ!」
セイフウが放った一本の矢が一匹のシアンシュアに命中した。クリティカルの判定はなし。身体に命中したところで意味は無いようだ。
蛇の急所は頭部以外はないらしい。
「[ライトニング]」
オレも弓を引く構えでライトニングを唱えた。
狙うはもう一匹のシアンシュア。
「ギュアァ」
頭部に命中した。
HPが一気に一割まで切る。
「やっぱりチートだ」
一撃で仕留められずとも、大ダメージを与えられなかったセイフウが不貞腐れたような声を上げる。
「セイフウ、当たったところが急所かどうかだったんだからチートはないでしょ?」
メイゲツがあきれたように言う。
セイフウ自身もそれはわかっていたようなのだけど、やっぱり納得のいかない表情でオレを見ていた。
「シャミセンさん、DEXどれくらいでしたっけ?」
セイフウにそう聞かれ、オレは自分のステータスを確認した。
……19だった。
LUK以外ほとんど装備の効果でしか上がらないから、DEXなんて見てない。
「私、DEXのステータス、30は振ってるのに」
頬をふくらませるセイフウ。なんか装備品でもステータス上げているようだ。
いや、オレの場合はLUKによるものもあるから。
「っ! [チャージ]ッ! [フィジカルベイレ]ッ!」
何かに気付いたのか、メイゲツが慌てた表情で全員のVITを増加させた。
シアンシュアの周りにチラチラと雪のような白いものが現れていた。
「な、なんだ?」
「ちょっ? なんか目に入ったっ!」
セイフウが両目を手で覆う。
「えっ? HP減ってる?」
突然のダメージに、セイフウがキョドっている。
なんか攻撃判定入ってるっぽい?
「二人とも気をつけてっ! これ雪じゃないっ!」
雪じゃないなら……
あれは氷を削ったようなものだから、当たると痛いし、それよりも大きい
それを確認しようと、シアンシュアとの間合いをグリーンからイエローへと持っていく。
「ギュギュギュ」
その途端、フェオンシュアの咆哮が轟いた。
さっきより風が余計に強くなって……。
「いて? いてててててっ!」
なんかチクチクどころか、コツコツとしたものが風に乗っているのか、身体に当たって痛い。
HPは[玉兎の法衣]で常時回復してるし、フィジカルベイレでVITが上がってるから、余程の大ダメージを受けない以上は心配ないのだけど、例えるなら凸凹した石の上に身体を寝転がしている感じだ。
「くそっ!」
オレは思わず錫杖の先をシアンシュアに向けて放おった。
その先が、シアンシュアの身体を穿つ。
しかもなんか燃えてらっしゃる。
あ、槍投げでも魔法効果は発揮されるんだね。
「あ、やんで……なかったっ! いたたたたたぁっ?」
もう一匹のシアンシュアも似たような事やってた。
「シャミセンさん、戻ってくださいっ! フェオンシュアが特性で周りに冷たい風を吹いているみたいです」
メイゲツからの助言。
ようするにあれですか? 自然の摂理?
霙みたいなのがその冷たい風に当たっているから、それが固まって雹になっているということ?
もしそれが本当だとしたら、結構頭いいぞこのAI。
オレは慌てて、錫杖を拾い取ると、モンスターとの間合いをグリーンまで離した。
「たぶん常時アップデートされてるんじゃないでしょうか」
なにそれ? 怖い。
クエストイベント中くらいはバグの管理で済ませてくれ。
でも対策方法がわかった。
「まずは残りのシアンシュアを仕留める」
「[
セイフウが三本の矢をシアンシュアとフェオンシュアに向けて放つ。
「もう一回っ! [
間髪入れずに連続攻撃。
命中したシアンシュアのHPは全壊。
フェオンシュアの方にも矢が当たり、それぞれ半分くらいまで削れている。
それはそうと、セイフウのAGI高いな。
連続で攻撃できるとは思わなかった。
フェオンシュアがカサカサとセイフウに向かって突撃しだした。
そうは問屋がなんとやら。
背後からフェオンシュアを捕まえ、空に放り投げた。
空を飛べる以外の動物が、空中で身動きは取れるとは思えん。
それはどうやらセイフウもわかっていたようで、一本の矢で仕留め切る覚悟で弓を引き……放った。
鏃がフェオンシュアの頭部を一閃する。
クリティカルの判定。
しかも間合いがグリーンではなく、レッドに入っていたようだ。
それによるダメージ補正。
一撃で倒せた。
残りの一匹は……錫杖の先で仕留めておいた。
[セイフウのレベルが上昇しました]
[セイフウがスキル[一撃必中]を取得しました]
[レアアイテム[風鈴]を手に入れました]
というアナウンス。
「やったレベル上がった」
ぴょんぴょんと、まるでウサギのように心を跳ねさせるセイフウ。
思いの外、次のレベルに上がるまでの間隔が短かったこともあってだろう。
それはそうと、なんかスキル覚えてない?
オレがそう指摘すると、
「あっと、そうだった。確認しますね」
セイフウは自分の体現スキルの図鑑を開いた。
オレとメイゲツも、セイフウの背後からその図鑑を覗いてみる。
[一撃必中]
相手に与えるクリティカルダメージを120%にできる。
攻撃時のタイムラグは通常より1秒遅いが、その分命中率が上がる。
「つまり狙いを定めて攻撃するってことか」
「なんか今までと対して変わらない気が」
たしかに弓師や狙撃手は、基本的に相手を狙って攻撃するからなぁ。
「これはアレじゃないか? モンスターとの間合いがイエローかレッドじゃないと取れなかったとか」
狙撃タイプの職業は、基本的にグリーンの間合いが広い。
さらには武器による命中率増加もあるためだろう。
白水さんみたいな狙撃手だと、スコープとかありそうだし。
遠距離タイプの職業は間合いがイエローの場合は、どうやらオレやメイゲツみたいな中距離タイプの職業におけるグリーンあたりになるようだ。
そうなると、セイフウやビコウ、テンポウみたいな近距離タイプの職業は、レッドゾーンが中距離のイエローになるのだろうか?
「レベルアップのステータスポイントはどうする?」
「あ、それはイベントが終わってから振ろうかなって」
オレはもはやLUK以外は上げる気がないから、レベルアップしたらすぐに振ってるわけですが。
やっぱり普通は計画的に振り分けるものですな。
「ドロップしたのはレアアイテムでしたけど、[風鈴]ってなんでしょうかね?」
風鈴っていう割には、普通の鈴にしか見えない。
早速探偵……じゃない鑑定してみる。
[風鈴] アイテム ランクR
風に乗って漂ってくるモンスターや攻撃体勢のプレイヤーの気配を感知し、涼し気な音で所持プレイヤーに知らせる。
範囲は約二間。
所持している時点で効果は発揮される。
説明を見るかぎり、
「えっと、それはわかりましたけど……約
双子がキョトンとした顔でオレにたずねる。
「正しくは
あれ? それだと対して探知の意味がないんじゃ?
半径五メートルくらいだったら目視できるだろうし。
「これはアレじゃないですか? 地中にいるモンスターとか、影狼みたいに姿を消せるモンスターもいますから」
あぁ、それなら納得。
そういうのって、こっちが構える前に攻撃してきたりするから、かなり厄介になる。
そういえば、説明文に攻撃体勢のプレイヤーの気配も察知するとか書いてあったな。
「ちょっと実験。一回パーティーを解散させるぞ。ついでに二人とフレンドを解消させる」
パーティーやフレンドは申請をすれば、何度でも組めるんだと。
ただし相手がブラックリストとかしてたらできない。
双子は、オレがなにをしようとしてるのかがわかったみたいで、パーティー解散とフレンド解消をしてくれた。
「ついでにメイゲツ、[影狼の毛皮]を貸してくれ」
そうお願いすると、メイゲツがアイテム欄から[影狼の毛皮]を取り出し、オレに手渡してくれた。
これはどうやらフレンド以外でもできるようだ。
そういえば[玉兎の法衣]を受け取る時、シュエットさんとはまだフレンド登録していなかったっけ。
そのお返しとして、[風鈴]をメイゲツに渡す。
「それじゃふたりともだいたい二十秒くらい目を
そう言われ、素直に目を瞑る双子。
さて、周りを見渡して見ると、何人かのプレイヤーがいたけど、みんなモンスターとの戦闘で気が気じゃないようだ。
その中にクレマシオンやラプシンの姿はなかった。
……二十秒後。
双子は目を開けるや、
「っ? シャミセンさん?」
おどろいた表情で周りを見渡した。
オレと双子との間合いはだいたい五メートルくらいは離れている。
[影狼の毛皮]を羽織っているから、双子にはオレの姿が見えていない。
さて、攻撃態勢。
錫杖を握りしめ、一歩ずつゆっくり近寄ってみる。
「セイフウ、ジッとしていて。これは[風鈴]の効果を確かめる実験だから」
そうメイゲツがセイフウを落ち浮かせる。
さて、どうやらフレンド解消したプレイヤー同士の場合、攻撃対象になるとHPが表示されるようだ。
双子との間合いが四メートルくらいになったところで、軽めのファイアを放とうとしかけるや、双子が一斉にパッと動いた。
どうやら[風鈴]の効果で、オレの場所がわかったようだ。
「実験成功……ですかね?」
オレのいる方に目を向けながら、セイフウが言う。
どうやらそのようだ。
オレは[影狼の毛皮]を脱ぎ、姿を表した。
ついでにフレンドを再申請する。
双子はそのまま素直に受諾してくれた。
ただ、フレンドリストの場所が斑鳩の後になっていた。
パーティーも再結成させる。
「でもこれってちょっと危なくないですか? 提示されている距離まで近寄って攻撃してくるプレイヤーやモンスターにはいいんだろうけど、それを察知する前に攻撃されたり、私みたいな遠距離攻撃が主なプレイヤーやモンスターには効果が無いんじゃ?」
セイフウが首をかしげる。
「そこはあれじゃないか? 油断させて攻撃してくるプレイヤーがいるからとか」
オレの説明に、双子は納得したようなしていないような複雑な表情を浮かべる。
オレだってあまり納得していない苦しい説明だと思った。
でも、そもそもなんでややこしい距離にしてるんだ?
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