第50話・最適化とのこと



「はい。イベントクエストの参加受付をうけたまわりました」


 ギルド会館のクエスト受付で、オレは[四龍討伐]のクエスト参加の申請を出し、無事に許可が下りた。


「今回のイベントは、プレイヤーを倒してもプレイヤーキラーにはなりませんので安心してください」


 いや、普通にレイドボス倒しますから。


「シャミセンさんのレベルとステータスでは、最悪レイドボスを一匹倒せるかどうかですね。無理せずメダルのかけらを手に入れたプレイヤーから罠を仕掛けるなり、かどわかすなりして奪取することをオススメいたします」


 なに笑顔で末恐ろしいこと言ってるんだ、この人は。……



「とりあえずこれでいいんだな」


 イベント参加を申請したプレイヤーは、町にいようが、戦闘中だろうが、イベント開始時間になったら、強制的にイベント専用サーバーに飛ばされるとのこと。


「とりあえずMP回復ポーションと、用心のためにHP回復も用意しておくか」


 アイテムストレージで不足していたら、町で買い物をすることにしておこう。

 ついでにステータスの確認もしておく。



 【シャミセン】/【職業:法術士】/5000N

  ◇Lv:22

  ◇HP:30/30 ◇:MP20/20

   ・【STR:14】

   ・【VIT:9】

   ・【DEX:19】

   ・【AGI:13】

   ・【INT:10】

   ・【LUK:140】


  ◇装 備

   ・【頭 部】

   ・【身 体】玉兎の法衣+5(I+20 V+30 L+10)

   ・【右 手】

   ・【左 手】緋炎の錫杖(S+10 I+20)

   ・【装飾品】女王蜂のイヤリング(L+10)

         水神の首飾り(L+20(+8))

         土毒蛾の指環+α2(A+40 L+10)


 ◇体現スキル

  ・忍び足

  ・蜂の王

  ・武闘術者

  ・刹那の見切り


 ◇魔法スキル

  ◇取得済魔法スキル

   *回復補助系魔法スキル

    ・ヒール

    ・キュア

   *戦闘補助系魔法スキル

    ・チャージ

    ・テンプテーション

    ・アクアラング


   *攻撃補助系魔法スキル

    ・ファイア

    ・フレア

    ・ライトニング


 ◇魔法スキルストック

 [ヒール][チャージ][キュア]

 [アクアラング][ライトニング][フレア]



 テンプテーションは自分よりレベルが低いプレイヤーにしか通じない。

 なのでイベントクエストで役に立つとは思えないので、今回は入れないでおく。


「[毒蜘蛛の糸]は持っていったほうがいいな」


 なんかの役に立ちそうだし。


「HPって増えないものかね?」


 オレがそうセイエイにたずねた。


「HPとかはVITやINTで変化する。新しくアップロードされたから最初と変わっているけど、今は合計数値×レベル÷2だったはず」


 ……ということは、すこし計算してみる。


「ちょっとステータス見せて」


 そう言われ、オレはセイエイにメッセージで現在のステータスを晒した。



「HPは429。MPは550だね」


 毎度のことながら計算が早いこと。

 ただそれが本当だとしたら、オレのHPとMPのマックス値は半分もないんですが?


「……シャミセン、一回ゲームの最適化しなおしたら? バックアップ取っておけばまたログインできる」


 セイエイが疑問に満ちた目でオレを見る。

 HPとMPはセイエイにも見えているので、オレの数字が可笑しいと思ったのだろう。


「オワタ式設定にしてる?」


 そんなドMプレイしません。

 ってか、そういうのって本当にデータ改編しないとできないでしょ?



 イベントまでまだ三時間以上はあるから、一度ログアウトして、再インストールし直すか。


「最適化パッチとかは公式にあるのか?」


 データを再インストールするより、そっちのほうがいい気がする。


「公式って、……中国語だけどね」


 あぁそうでした。まったく読めません。


「というか、なんで初期の段階からそうなってた? シャミセンのステータスって、基礎値はLUK以外は増やしてないんだったよね?」


 そう聞かれ、オレはうなずいてみせた。


「レベルが高くなるとステータスの変化で俺ツエーみたいになるんじゃないのか?」


 それを制限するために……というのはムリな考えか。



 オレは、セイエイが見守っているという形で、ギルド会館の談話室でログアウトし、VRギアのバージョン最適化と[星天遊戯]のデータ最適パッチを公式サイトからダウンロードし、インストールをし直した。



 作業からだいたい三十分。

 ゲームのインストールを終えると、バックアップしておいたプレイヤーデータを保存フォルダに入れなおし、ログインし直した。



「お帰り」


 目を覚ましたオレを、セイエイがジッと見つめていた。


「もしかして、ずっと待ってた?」


 セイエイは応えるようにうなずく。



「シャミセンさんを見守っている時、セイエイさん一寸も動いてませんでしたよ」


 いつの間に来ていたのか、双子がオレを見ていた。


「双子も来てたのか」


「今クエストの申請を終えてきました。嫌なこと言われましたけど」


 セイフウがほほをふくらませる。

 たぶんレベルが低いプレイヤーには同じようなことを言っているんだろうな。



 さて、ステータスを再確認。

 最適化されていれば、さっきセイエイが言っていた数値になっているはずだ。



 シャミセン 法術士

 Lv22

 HP:429/429

 MP:550/550



 HP、およびMP以外は、特に変わった様子はなかったので省略。


「お、ちゃんと最適化されてる」


 [玉兎の法衣]の効果は、常時最大HPの10%の回復だから、常時42の回復ってことか。


「えっと? つまりそれ以上の攻撃を連続で重ね続けないと倒せないってことですか?」


「なにそのチート装備」


 と双子が唖然としていた。


「シャミセン、LUKが基礎値の時点でおかしいし、[土毒蛾の指環]の恩恵でAGIも上がってる。だから下手なプレイヤーは攻撃も通じない」


「攻撃が通じても倒せないってことですか?」


「暖簾に腕押しも生ぬるいかもしれない。しかも[玉兎の法衣]は状態異常を現在のLUKから計算された一定の確率で回復できる」


 それって、もし1/4でも49%だよなぁ。


「毒針とかクリティカル=即死の武器を至近距離で使わないと勝てそうにないですね」


 なんか聞けば聞くほど[玉兎の法衣]ってチート装備なのな。

 いや、それよりもだ……



「もしかして、キュウトウダバって攻撃力高いんじゃ?」


 あの時、油断していたとはいえ、HPが一気に一桁まで喰らったんですが?


「それは単純にレベルにたいしてシャミセンのVITが低いだけ」


 セイエイから冷静に返された。



「でも、なんであんなステータスになってたのかな?」


 セイエイが首をかしげる。


「だいたいジョブやステータスにもよるけど、最低でも50からってなってたはずなんだけど」


 その話が本当なら、思いっきり弱いんですが?


「というか、よくそれでレベル22まで生きてましたね」


 双子は知らないだろうけど、理不尽な戦闘で一回死にましたよ。

 セイエイと双子が色々と思案しているが、それが普通だと思っていたオレは、今更どうこう言ったところで埒が明かないと思いながら、イベントクエストをどう攻略しようかを考えていた。



 ここは[星天遊戯]を製作している会社である[セーフティーロング]の日本支部。


「よしイベント参加の申請受付を締め切るぞ」


 スタッフリーダーであるボースごと孫丑仁が、そうスタッフに命じる。

 時刻は夕方四時。ギルド会館にいるNPCに扮する運営スタッフにメッセージを送っていく。



「今回はどれだけのプレイヤーがクリアできますかね」


「それはやってみないとわかるまいさ。星藍が言っていただろ? 工夫すればレベル20でも一匹くらいは倒せるって」


「それはそうと、HPとMPの最適化はだいぶ好評みたいですね」


「うむ。それだけプレイヤーキラーが多くなってしまったということでもあるがな」


「モンスターからの経験値をすこし上げておきますか?」


 常時、そういった最適化はされているが、基本的にはプレイヤー個別にインストールしているデータ最優先されるため、パッチがかけられていないままプレイしているプレイヤーもいる。



「おっ! リーダー、例のラッキーボーイもやっと最適化しましたよ」


 スタッフはボースの机に置かれているPCのモニターにチャット形式でスクショを添付する。


「うむ。このままなにもしていなかったら、おそらく一撃で死んでいただろうな」


 ボースはホッとした表情を見せる。

 運営としては、さっさと気付いてほしかったのだが。



「いくら運が良くても、攻撃が通ればひとたまりもありませんからね」


「……思ったんですけど、常時42の回復って、普通だったらちょっとしたことですけど、彼だとチートレベルじゃないですかね?」


 スタッフの一人がそう言う。


「あっ……」


 その意味がわかるや、ボースたちは唖然とする。



 常時回復するということは、攻撃が当たらなければ常にHPがフル状態だということになる。

 しかもシャミセンのLUKを考えれば、それこそ本当に麻痺状態か、身動きをとらせないようにする以外、確実に攻撃が通らない。

 さらに[玉兎の法衣]は一定の確率で瀕死・死亡以外の状態異常を自動で回復してくれる。

 言ってしまえば、[玉兎の法衣]の状態異常回復はLUKが高ければ、それだけ回復する確率が高くなり、本当にプレイヤーを殺す以外に倒す術がなくなってしまうチート装備であった。



 ほとんどのプレイヤーはポイントをSTRやINT、VITなどにバランスよく振り分けるため、優先的に特定のステータス、例えばLUKに、レベルアップ時にもらえるポイント全部を入れるといった縛りプレイをするような人は極稀である。

 だからこそ、[玉兎の法衣]のようなステータスで効果が変化する装備は、まさにシャミセンのように極端なステータス振り分けをしているプレイヤーにこそ効果を発揮し、相手にとっては鬼畜使用となってしまうのだ。



「……ちょっと設定を考えなおすか」


 今日はイベントの管理だけだと、安堵していたスタッフに降りかかった悩みの種だった。


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