第24話・呵々大笑とのこと



 ナツカのギルドを離れて、しばらくのこと。


「おぉ、冒険者よ。私たちは困っているのです。実は近くの森に蜂が大量発生しまして、隣町まで恐ろしく行けなくなりました」


 と、お決まりのセリフを言いながら、立派な白ひげと、どこぞの元首相みたいな眉毛をした村長がオレの眼の前にいる。

 ようするに森の中で蜂の巣が大量に出現し、それにともなって蜂モンスターが発生しやすくなった。

 ゲームの中なのだから、NPCは無害だと思ったのだが、どうも勝手が違うようだ。


「わかりました。オレがなんとかしましょう」


 自信満々。なにせこっちは[蜂の王]というスキルを持っている。

 蜂モンスターに襲われることなんかあってはいけない。

 いや、[反逆者リベリオン]とかそういうスキルは持ってませんよね?

 クエストは主に森の中にある蜂の巣の駆除。しかも結構なプレイヤーがやっているようだ。

 クリア難度はC。まぁココらへんの蜂モンスターなら妥当だろうな。蜂の巣は十個討伐すればよし。



 ……で、三十分くらいで終了。いやね。あまりに言うことがないんだね。

 自分でもこれにはさすがにおどろいた。[蜂の王]すげぇ。

 虫モンスターとは結構戦ったけど、[ファイア]で対応。

 やっぱり火は虫にとって天敵らしい。

 ちなみに蜂モンスターは攻撃なんてしてきませんでした。

 しかもこの[蜂の王]、蜂モンスターどころか蜂の巣の場所もわかるという親切設定。

 なので探索は他のプレイヤーやパーティーを無視して、蜂の巣がある木を当てまくる。

 ある意味すごいスキルだったのか?

 と説明してもあれなのだけど、レベルはどうなったのかって?

 ふたつくらい上がった。なんだかんだで蜂モンスターとも戦っているから、もうすこし上がってほしかったけど。

 ポイントはすべてLUKに。これで基礎が115になった。

 ついでに魔法もひとつ、スキルアップ。



 [フレア] 属性・火

 熱く燃え上がる火の玉。攻撃力はファイアの[150%]

 取得方法。ファイアを50回使う。



 意外にスキル条件難しかったようだ。


「ファイアはお役御免になったかな。簡単なやつなら[火鼠の牙]で間に合うし」


 ちなみにドロップアイテムは蜂蜜以外だと、[蜂の針]と[蝶の鱗粉]という錬金アイテム。知り合いに錬金術士とかいないから、アイテムボックスに転送。



 このことをクエストを教えてくれたテンポウにメッセージで報告。

 ログインしていたようなので、返事が早かった。


『もうクリアしたんですか? 早くないですかね? 蜂の王さまはすごいですね』


 どうやら、三十分でクリアできたことにおどろいたようだ。

 なにせ蜂の巣ひとつあたり三分だからね。

 噂では蜂の巣を守る働き蜂にやられて、プレイヤーが離脱したり、クエスト失敗したりしているらしい。


「[蜂の王]持っててよかった」


 もしかしたら孤児みなしごの蜂王子どこかにいそうだな。



 で、このままじゃレベル上げもあれなので、はじまりの町の宿屋でMP回復して、裏山登山。目的地はレベル制限のあった場所。

 つまり理不尽なデスペナを喰らった場所だ。


「いざゆかん、リベンジマッチッ!」


 オレはときをあげるように叫んだ。

 さすがにマミマミの件で、ちょっと警戒してるけど。

 ボースさんの話だと調整は終了しているそうだから大丈夫だろう。

 道中、レベル10くらいの冒険者もいましたし。



「ぐぅぎゅるるる」


 と、早速リベンジ相手一号の魔熊発見。レベルは11と表示されている。


「さてとイエローに入ったら魔法詠唱だな」


 オレはその場を動かず、魔法詠唱を始めた。

 ファイアのほうが相性的にいいけど、ここはライトニングがどういうふうに放たれるのかというテストも兼ねている。

 魔熊との間合いがグリーンからイエローに変わった。


「よし。…………」


 オレはライトニングの詠唱を始めた。その時だ。

 魔熊がオレの気配に気付き、こちらに突進してきましたよ。


「あ、ぶねぇっ?」


 間一髪。イエローから突然のレッドゾーン。

 熊の引っ掻き攻撃。[刹那の見切り]でかろうじて避けられた。

 それより魔熊のAGI高くない? こいつ倒したらデータ見てやる。


「ってか、[忍び足]使えばよかったんじゃ?」


 今更だ。というか最近使ってない。まぁ使ってもLUKによるからなぁ。

 運だけじゃ勝てないんですよ。結構そこは気にかけてる。

 魔熊の攻撃。さすがに二回連続は避けられなかった。


「くっ?」


 [玉兎の法衣]のおかげでちょっとしたダメージなら大丈夫だけど、プレイヤーにも弱点がある。まぁ基本的に急所がそれに当たるようだ。


「[ライトニング]ッ!」


 間合いをイエローに持って行き、チャージなしのライトニング。

 魔熊に命中し、混乱しておられる。


「よしっ! [フレア]ッ!」


 すかさず炎攻撃。やっぱりなにことも効率です。

 木属性の魔熊は大ダメージ。粒子となって散っていき、ドロップアイテムを置いていきました。



「えっと、「熊の肉]と[熊の爪]か」


 肉は食材、爪は鍛冶の材料になるようだ。


「爪ねぇ。どこぞのお姫様につけたら似合いそうだな」


 それこそ部屋の壁を蹴り破るくらいのおてんばとか。


「肉は持っておこうかな。というかこれって焼けば食えるのか?」


 と思い、早速試そうと思ったが、その前に枝木集めだ。


「[ファイア]で焼こうとすると火加減が難しいからな」


 さて、そう思った矢先だ。



「どうしようかな……この状況」


 目下もっか、藪蛇さんたちが身を潜めて待機しております。ついでに蜂モンスターも。

 蜂モンスターは[蜂の王]のスキルでわかったが、藪蛇との間合いはグリーンに入っていたからだ。

 ジリジリと藪蛇が間合いを詰めてきている。

 ただ攻撃を仕掛けてくる気配もなさそうだ。



「すこし試してみるか」


 オレはライトニングの詠唱を始める。

 詠唱時間の青色のバーがたまる。


「ここから[チャージ]」


 青色のバーは緑に変わり、緑は赤に変わる。


「[チャージ]、[ライトニング]ッ!」


 オレは天高くライトニングを放った。

 さて、どうなるか……すこしワクワクしてる。

 周りの藪蛇がいっせいに攻撃を仕掛けてきた。


「だが、速さが足りない」


 天高く放たれた光の矢は、拡散され、地上に放たれた。


「キュルルル?」


 それとともなって四匹くらいの藪蛇らしき爬虫類の悲鳴。

 というか、どんだけ藪蛇が潜んでいたんだと言いたくなるくらい、ダメージカウンターの多いこと。

 しかも急所クリティカルも追加されて一撃で倒せた。


「一撃ボーナスとかないのかね?」


 まぁ[F&A]に載っていないみたいなのでないのだろう。あればいいのに。

 経験値が一気に増えて、レベルアップ。

 周りにいた蜂モンスターはどっかに行ったらしく、周りを見渡しても気配も感じられない。



「リベンジ完了。というか想像どおり拡散してくれた」


 ただやっぱりチャージ中は攻撃されそうだから、使いどころを注意しないとな。


「さてと、ポイント振り分け……の前に図鑑確認」


 魔熊のAGIを確認。15だった。負けてる。


「AGIあげようかなぁ」


 と素で思った。でも今更だ。


「ポイントはすべてLUKに……」


 AGIを強くする装飾品がないか、あとでケンレンたちに聞いてみようかな。メッセージを送るくらいなら怒られないだろう。

 自分で調べろとか言われそうだけど……。



 【シャミセン】/【職業:法術士】/4660N

  ◇Lv:18

  ◇HP:30/30 ◇:MP20/20

   ・【STR:14】

   ・【VIT:9】

   ・【DEX:19】

   ・【AGI:13】

   ・【INT:10】

   ・【LUK:120】


  ◇装 備

   ・【頭 部】

   ・【身 体】玉兎の法衣+5(I+20 V+30 L+10)

   ・【右 手】

   ・【左 手】初心者用の錫杖(I+3)

   ・【装飾品】女王蜂のイヤリング(L+10)

         水神の首飾り(L+20(+8))


 ◇体現スキル

  ・忍び足

  ・蜂の王

  ・武闘術者

  ・刹那の見切り


 ◇魔法スキル

  ◇取得済魔法スキル

   *回復補助系魔法スキル

    ・ヒール

    ・キュア

   *戦闘補助系魔法スキル

    ・チャージ

    ・テンプテーション

    ・アクアラング


   *攻撃補助系魔法スキル

    ・ファイア

    ・フレア

    ・ライトニング


 [水神の首飾り]における現在の付加は+8だった。

 はて、レベルがあがってステータスがアップしたわりに、+アルファが下がっているんだけども、


「うむ、最終的に+5くらいになるのかね?」


 計算するとだいたいそんなところ。

 今の、装備品を含めたLUKのパラメーターは160。

 それに現在のレベルを割るわけだから、うん大体+8になる。



「さてと、町に戻ったら宿屋でログアウトするか」


 現実での時間は午後九時になろうとしている。

 時間的にまだやり足りないが、大学のレポートがあるので、今日はこれで終わることにした。なにこともやり過ぎるとあとがキツい。



 土曜日。いよいよイベントは来週に迫っていた時のこと。

 午前九時に[星天遊戯]にログインし、お昼十二時までレベル上げに専念する。

 あと昨日の話だが、ケンレンたちにAGIを上げる装飾品がないかメッセージでたずねてみると、


『[土毒蛾ナハトファルターの指環]というアクセサリーがいいですよ。[蝶の鱗粉]と[夜光虫]、それから[アクアクリスタル]を素材にしますが、お持ちでしたらオススメします』


 とサクラさんからメッセージがあった。


「ナハトファルターって、たしかドイツ語で[蛾]じゃなかったっけ?」


 [夜光虫]は……いまのところ持っていない。

 情報によると夜の時間帯に現れるレアモンスターとのこと。

 イベント開始までにはなんとかして手に入れたい。

 あと武器も……ちなみにギルド会館で目をつけていた[霊廟の錫杖]はすでに誰かが購入した後だった。

 あの時は手持ちがなかったからな。しかたがないね。

 うん、こういうのは早い者勝ちだ。気にしない。



 さてレベル上げ。やはり週休二日制。フィールドに出ると、朝からプレイヤーの多いこと。

 とはいえ、廃人を出さないためにログインシステムを考えられているし、未成年には課金限度額が制限されている。

 オレも、あまりお金は使いたくない主義なので、ほとんど無課金だ。


「クリスタルとか結構課金アイテムもらってる気がするけど」


 それはまぁ、運営からの恩恵ということで。



 閑話休題。


「よっと」


 はじまりの町周辺のモンスターを[忍び足]で懐に忍び込み、そこからファイアを詠唱。

 どうやら詠唱時間というのはINTと使用回数に依存するようだ。

 最初三秒くらいかかっていたのが、今では一秒になってる。

 詠唱時間が長いぶん、それだけ狙われやすいわけだが、魔法効果のある攻撃以外は[刹那の見切り]で避けることができる。


「よし、倒した」


 経験値は増えたが、レベルは上がらない。


「ステータスを見ても、次のレベルまでがわからないんだよな」


 このゲームのシステムで不満があるとすればそれだった。


「なんか気付いたらレベルアップしてましたって感じで、やりがいがないというか」


 う~むとオレは首をかしげる。

 もしかすると職業によってレベルの上がりかたが違うとか?

 特定の回数戦闘しないとレベルが上がらないとか?

 最初に戦ったウサギと一回勝っただけでレベルアップしてたし、色々と考えられる部分はあるが、とにかく今は戦闘だ。



「周りにモンスターがいればね」


 オレは周りを見渡し、肩を落とした。

 今日は土曜日。朝から中高生がログインしていて、片っ端からモンスター倒してます。

 モンスターが再構築されるまで一分ほどのラグがある。

 もうここらへんのモンスターは食い潰されていて、見渡す限りなにもいません。

 他のプレイヤーは違う狩場を求めてさまよう。

 それを見て、なぜか新しい緑地を求める象の群れに見えた。



 けっきょく、オレは昼の十二時まではじまりの町から自分のレベルにあわせて、ソロで大丈夫だった場所を中心にレベル上げをしていた。


「それでもひとつ上がったくらいなんだよなぁ」


 三時間やってこれである。やっぱりレベルが上がる経験値がわからないというのはつらいものがある。

 ポイントは当然LUKに。基礎で125になった。

 [水神の首飾り]の付加は変わらず+8だ。


「そろそろ時間だな」


 オレはフィールドマップで近くにセーフティースポットがないか探す。ちょうど[睡蓮の洞窟]の近くだった。

 そこの宿屋でログアウトをすませた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る