第22話 戦いの地へ

 翌日の朝。

 光輝はメイドの悪魔に案内されて城のテラスへと出た。

 そこでびっくりして呟く。

「どうしてこうなった」

 光輝の眼前には王の配下の悪魔の大軍団が控えていた。

 中庭に大勢並んでいる。

 みんなとても強そうだ。王が現れるなり彼らは大きく鬨の声を上げた。

『うおおおおおおおおおおおおお!!!』

『我らの王のお出ましだあああああ!!!』

『今こそ戦いの時いいいいいいい!!!』

 地平の果てまで響きそうな声の中、親衛隊長のアクバンが促してきた。

「どうぞ我らにご命令を」

「うん、じゃあ闇の竜を倒しに行こうかあ」

「ははーっ」

 王の命令は静かだったが、確かに彼らに伝わった。

『さすがは王だ。堂々としておられる』

『冷静沈着な御方だ。我らとは格というものが違う。見習わねば』

『あれで戦いにも長けているのだから恐れいるぜ』

 そう評価されるのはどうかと思ったが、せいぜいみっともないところは見せないように努力はしようと思ったのだった。

 軍団が動き出す。

「お兄ちゃん、凄いねー」

「うん、凄いねー」

 希美の声に魂が抜けるように答える。

 この状況でどうして学校があるから帰るわなんて断って去ることが出来るだろうか。もうちょっと様子を見に来ただけと言える雰囲気では無かった。

 頼りになるハンターがいなくても、自分の力で前を向くしかなかった。

 妹達やゼネルやアクバンや悪魔達が見ている。尊敬する王の姿を。

 光輝は軍勢を従えて竜の住むと言われている北の山へと向かった。



 こうなったら面倒な用事は早く片付けるしか無い。

 光輝は向かう先を見る。山は遠いが目に見える距離だ。

 今の光輝はかつて王が着ていたと言われる漆黒の禍々しい鎧を着ていた。この鎧も早く脱ぎたかった。恥ずかしくてクラスのみんなには見せられない。

 希美は造り込みが凄いさすが本場の魔界製と目を煌めかせて鼻息を荒くして感心していたが、彼女の趣味と一緒にされても困る。

 ここに郁子の姿が無いのは幸か不幸か。

 代わりにリティシアがべたべた引っ付いてきた。

「お兄ちゃんと出かけるなんて楽しみやわあ」

「そんなに引っ付かないでよ」

「何で? おじいちゃんはお兄ちゃんと仲良くしと言うとるよ。その方が得やからって」

「あの人は」

 どうもゼネルはまだリティシアを利用して自分の立場を高めようと企んでいるようだった。そんなことしなくてもこの世界のことは好きにやっててくれればいいと思うのだが。



 ともあれ山に着いた。ここまでは何事も無かったが、そこはモンスターのはびこる魔境だった。

 武器や甲冑を身に付けて城に住む文化のある身内の悪魔達よりもここのは野生のモンスターっぽいと思った。

 やってきた大軍勢を山の魔物達は怪しい瞳で見つめてきた。

「竜の魔力に惹かれて集まった者達です。我らの味方ではありません」

 ゼネルが教えてくれる。

 その言葉で示した通り、彼らの発してきたのは明確な敵意だった。

 様々な奇声を上げて襲い掛かってきた。光輝はいきなりシャドウレクイエムを使うべきか迷ったが、アクバンと軍隊が素早く前に進み出た。

「ザコを相手に王自らが手を下すまでもありません。ここは我らにお任せを」

「うん、任せる」

 せっかくの申し出だ。ありがたく受けることにした。

 アクバンは嬉しそうに笑み、すぐに戦う武人としての顔になって配下の軍勢に激を飛ばした。

「王に我らの力をお見せする時だ! 行くぞー!」

『うおおおおお!!』

 悪魔の軍団とモンスターの軍団との戦いが始まる。

 光輝はそわそわハラハラとしながらその戦いを見守った。

「お兄ちゃんはあのお祭りに参加しないの?」

「今は力を温存しておくべき時だ」

 希美の質問にはもっともらしく答えておいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る