第11話 エピローグ

 病院は朝から賑やかだった。


「人の世界の医療とは凄いものですな。わしはもう死んだかと思いましたぞ」


 入院してベッドに寝ながらもゼネルは元気そうだった。光輝も無茶をして炎を撃った右手が痛んで入院していたが、もうすぐ退院が出来そうだ。


「おじいちゃんもお兄ちゃんも元気そうで良かったわあ」


 リティシアはベッドにいる二人の間を駆けながら元気そうにしている。


「リティシア様はそろそろ魔界に帰ってきていただけませんか。みんなが寂しがっています」


 アクバンが困惑するのも当然だろう。寂しがっているみんなが見舞いに来るから。病院ではもう悪魔を見るのが日常になっていた。

 学校のみんなが竜の面倒を見てくれているのがせめてもの幸いだった。その竜もたまにクラスメイトを乗せて飛んでくるのだが。

 思っていると、早速窓の外に現れた。背にクラスメイトを乗せて竜がはばたいている。


「王よ、お元気そうで何よりです」


 竜が声を掛け、その背のクラスメイト達も声を掛けてくる。


「早く退院しろよ」

「みんな待ってるよー」

「うん、ありがとう」


 光輝は彼らに入ってこいとは言わない。より迷惑になるのが分かっているから。

 魔の存在に頭を悩ませていると、その魔と戦う者達が部屋にやってきた。ハンターの翔介と郁子だ。


「失礼する」

「怪我の具合はどう?」

「うん、もうすぐ退院できそうだよ」

「良かった。隣の席が空いているとわたしもリティシアちゃんも落ち着かなくて」

「早く治せ。他のハンターがやってこないうちにな」

「うん」


 翔介は今の魔の溢れている状況を上に報告するのを待ってくれているらしい。こういうところは郁子と兄妹だなと実感する。

 彼も後で連絡の事で上に怒られるのだろうなと、その姿が容易に想像することが出来た。

 郁子が微笑み、光輝も微笑みを返した。それを翔介が見とがめた。


「何だ? 二人で何を笑いあった」

「兄様には秘密よ」

「兄妹だなと思っただけだよ」

「そうか……?」


 翔介は腑に落ちないながらも納得したようだった。

 光輝がみんなの暖かさに感謝していると、向こうのベッドから怒る声がした。


「静かにしろ! ここは病院だぞ!」


 驚いたことに虎男も同じ病室で入院していた。


「お兄ちゃんに負けた人が偉そうに」


 リティシアが余計なことを言う。


「いや、虎男に勝ったのは僕じゃないんだけど……」

「相手なら私が務めますが」


 アクバンも余計なことを言う。悪魔達が盛り上がる前にゼネルが良い事を言ってくれた。


「王の判断を仰ぎましょう」

「ここは病院だから静かにして」

「ははーっ」


 みんなが従ってくれた。光輝はほっと安堵の息をつくのだが、


「で、お兄ちゃんと郁子お姉ちゃんは退院したらいつデートに行くん?」

「え」

「え」

「「「え」」」


 リティシアがまた余計なことを言いやがった。郁子は顔を真っ赤にさせている。

 翔介の落ち着きが少し崩れていた。アクバンはぽかんとしている。

 ゼネルはやれやれとため息を吐いていた。

 さらに光輝の自慢の妹は追い打ちをかけてくる。


「だって付き合ってるんやもん。恋人同士やったら当然やん?」


 彼女の顔には悪意がない。だからこそ立ちが悪い。

 一瞬静まり返り、とたんに賑やかになる病室。

 もうどうにでもなれ、畜生め。

 光輝はもう投げやりな気分になった。

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