ガンマニアックス2 後編

―大会当日―


タケル、メガネ、少佐の3人は会場内に整然と並ぶ筐体のすき間に身を潜めている。


「ハァ、ハァ…、何がどうなってんだ一体!」


「シッ!大声を出すなタケル。奴らに気づかれるぞ」


意味不明な状況にパニックに陥りそうになっているタケルを少佐が制する。


大会の会場であった東京びっ臭いと東4ホールはなぜか大量のゾンビで溢れ返り地獄絵図と化していた。


助けてくれー!!グァーッッ!!!

ギャーーーーー!!!!

ヒィィィーーー!!!!!


あちらこちらでゾンビに襲われた人間の阿鼻絶叫が鳴りひびく。


「ここにいても危険だ。ともかく脱出しよう。周囲の安全を確認する。」


少佐が筐体から慎重に顔を出し、近くにゾンビがいないか確認する。


「大丈夫だ。行くぞ」


少佐の後を続く形で3人は筐体のすき間から出て、近くの筐体に移動する。


できることなら一足に出口に向って駆け出したい所だがうようよいるゾンビに見つからないよう移動せねばならないため思うように前に進めない。


移動した筐体のすき間にしゃがみ込むと通路に足をおさえ苦しそうにしながら横たわっている男と目が合った。


「た、助けてくれ!足を噛まれた。」


ゾンビに足を噛まれ、身動きが出来なくなっているようだ。


グハァッ!


その直後、足を噛まれたその男は大量に吐血し意識を失った。


「おい!大丈夫かおっさん!!」


筐体のすき間から出て駆け寄ろうとするタケルを少佐が腕で制する。


「何すんだよ少佐!」


「見ろ!」


すると意識を失ったその男は動けなかったはずの足でフラフラと立ち上がり、ゾンビと化した血の気のない凶悪な顔でタケルに襲い掛かろうと向ってきた。


「うわぁー」


とっさに少佐がタケルの前に出てガンホルダーから至近距離用のベレッタPx4を素早く抜き取りゾンビの目に向って撃つ。


光線銃の光でゾンビの動きが一瞬止まり、その隙をついてゾンビ化したその男から逃れる。


しかし、派手に動いたため周囲にいるゾンビ数体に気づかれた。


「見つかったぞ!」


いち早く気づいたメガネが少佐に状況を伝えると少佐はアーミーベストから缶状の手榴弾を取り出し、口でピンを抜きこちらに向ってくるゾンビ数体に向って投げつけた。


床に落ちると大量の煙が出てあたり一面が真っ白になり3人は近くの筐体に移動。



息をじっとひそめる。


タケルらを見失ったゾンビ数体は方々に散り無秩序に彷徨いはじめた。


「………何とかやり過ごせたようだな」


「ごめん、少佐」


「大丈夫かタケル。援護助かったぜメガネ」


銃を持った時の少佐は本当にたくましい。


「まだまだ出口には遠いが大分近づいたな」


その時だった。


「キャー!!」


女の子の叫び声が聞こえた。


声の先を目で辿ると数ブロック先にゾンビに囲まれ腰を抜かしてしゃがみ込んでいる少女がいる。


放っておけば10秒以内に少女はゾンビの群れに無残に食い殺されるだろう。


とっさに3人は目を合わせる。


「…かなり危険だが、男として少女を見捨てるわけにはいかないだろう」


少佐の言葉にタケルとメガネはごくりと唾を飲み込み、コクリとうなずく。


「よし、これを使え。奴らの目を狙うんだ。射程距離は1m以内。奴らの目が光で眩んでるうちに少女を奪還する」


少佐はサブマシンガンMP5Kをタケルに、ベレッタPx4をメガネに渡す。


「いくぞ!」


グォオオオオオ

ガァァァアア


3人は一斉に飛び出し襲い掛かってくるゾンビをかわしながら少女の元へ駆け寄る。


少佐は背中に背負っていた長距離用ライフルM60をまるで映画のランボーのようにぶん回しながらゾンビの目に次々と狙撃。


タケル、メガネが援護射撃する。


少女を取り囲むゾンビの集団にたどり着くと少佐は銃の柄の部分でゾンビをなぎ払い四方に手榴弾を投げつけ少女の周りに煙幕の結界が張られた。


「立てるか?」


少佐は怯える少女に手を差し伸べ、起き上がらせる。


「隠れるぞ!」


ひとつの筐体のすき間に4人全員が隠れるのは不可能なため少佐の合図と共にタケルとメガネ、少佐と少女はそれぞれ近くの筐体のすき間に身を潜めた。


「ハァ、ハァ…大丈夫か?お嬢ちゃん」


動揺しながらも少女はこくりとうなずく。


「そうか、良かった。お嬢ちゃん名前は?」


「…詩音」


詩音(しおん)と名乗る幼い少女は兄に連れられてこの会場に来たと言い、その兄は詩音を守るため盾となりゾンビに殺られたらしい。


ゾンビの荒々しい息が聞こえる。すぐ近くにいるようだ。


その時、少佐のガラケーがメールを受信した。


メガネからだった。


隣の筐体にいるが、ゾンビに気づかれるため会話はできない。


メールには会場の図面のURLが添付されていた。


少佐は脱出ルートの返信をメガネに送る。


会場を抜け通路に出ても大量のゾンビがいる可能性は高い。しかも通路は隠れる場所がないためかなり危険である。


駐車場に一番近く直接外に出れる非常口から脱出し、車を確保して逃走する方法がベストと考えた。


『了解』


メガネからの返信が届く。


4人は数時間かけ、これまでのようにゾンビに気づかれないよう少しずつ筐体の移動を繰り返しついに非常口の近くまでたどり着いた。


が、最悪なことにそこはまるで4人の脱出を頑なに拒むかのようにゾンビが密集していた。


極度の緊張感の中、数時間を費やした4人の精神は疲弊しきっている。とくにまだ12歳くらいの少女である詩音はおでこから汗をびっしょりかき精神、体力共に限界が近いのは明らかだった。


(これ以上時間はかけられないな。出口まで一気に駆け抜けるしかないか)


少佐は隣の筐体にいるメガネにメールを打つ。


『ここから一気に駆け抜ける。俺が囮(おとり)になって奴らの注意をそらすから2人はその隙にこの子を連れて非常口から出て駐車場に向って走るんだ。みんなが外に出たら俺もすぐに行く。外にどれくらいゾンビがいるか分からないから気をつけろ!』


『…了解。幸運を祈る』


メガネからの返信を確認後、少佐はミッションの内容を少女に説明し深く深呼吸する。


ウォォォォ!!!!!


少佐は筐体から飛び出し大声を上げながら非常口周辺にいる反対の方向に走りゾンビを引き付ける。


3人は非常口にゾンビがいなくなった事を確認すると非常口に向って全力で走った。


ドアの前に着くとまずタケルが外にいるゾンビに応戦するため銃を構えその後メガネがドアを開ける。詩音はメガネの背後に隠れている。


おりゃぁぁぁあああああ!!!!!!


タケルがMP5Kをゾンビの目に向って乱射し駐車場に向って走る。メガネは詩音の手を握りながらタケルの後を追って走る。


「畜生、バッテリー切れか!」


囮(おとり)となった少佐は20体くらいのゾンビを相手に的確な銃さばきでゾンビの動きを封じていたが撃ちすぎのためついにバッテリーが切れる。


アーミーベストから最後の武器となる護身用のスタンガンを取り出し応戦。


タケルらの後を追い駐車場に走る。


幸いなことに駐車場にはまだゾンビはほとんどいなかった。


少佐を追ってくる大量のゾンビを除いては。


「少佐!こっちだ!!」


タケルが叫ぶ。



1台のバンの前にいるタケルらの元に少佐が駆け寄ると、滑らかな手つきでEDC(Everyday Carryの略)からピッキングツールを取り出し持ち前の器用さでドアのロックを解除する。


4人は車に乗り込み、今度はエンジンの鍵穴にピッキングツールを差し込む。


ゾンビの集団が近づいてくる。


「ヤバイ!囲まれるぞ!!」


その時エンジン音がうなりを上げた。


「よし!」


少佐はアクセルを吹かし、タイヤをスピンさせながら勢いよく発車する。


「・・・・はぁ~危なかったなぁ」


張り詰めていた緊張の糸がほぐれ車内に安堵の空気がたちこめる。


だが詩音は助手席で下を向いたまま青ざめた顔で大量の冷や汗を流している。


そして長い髪で覆われたその首筋には小さな引っかき傷があり、うっすらと血が滲んでいた。。。



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