第31話 病室での会話
ミミカが起き上がったエミリスさんに顔を向ける。
「あなたは王国騎士のエミリス様ですね。はじめまして。ミミカと申します。ところで今おっしゃった『実験』とはどういうことでしょうか?」
エミリスさんもすっかり容態が回復したようだ。ベッドに上半身を起こしたまま腕組みをして答える。
「うむ。あそこに囚われて絶命した者が口にしたのだ。転生人が死んだらスキルはどうなるか、その実験のために囚われたのだと。ミミカ殿は彼らのことを知っているのか?」
ミミカはその言葉に頷く。ミミカは彼らの死体を回収し、埋葬したそうだ。
「彼らは……元々は私達の仲間だった者たちです。なぜあそこに囚われていたのかはわかりませんが」
「元々……とは?」
「元々彼らは私達のミミカ・ドミニオンに所属していました。でも、だいぶ前に私達のドミニオンを抜けてしまったのです」
「ガリュウ側に付いたって噂は聞いてたんやけど」
ラミイが口を挟んだ。いつのまにかラミイも目覚めてベッドで上半身を起こしていた。頷きながら納得するようにエミリスが話す。
「なるほどな、だから彼らは『みみか』の言葉を残したのか。察するにガリュウとかいう者に裏切られたりしたのであろうな。ミミカ殿に何か言いたいことがあったのだろう。それが後悔や謝罪の言葉なら良いが、はたしてどうなのだろうかな」
俺達はミミカを疑う気持ちがあったことは確かだ。しかしその疑いは晴れていた。
手紙の後半部分もミミカが書いたものではなかった。共同墓地の地下に囚われていた者たちの残した『みみか』の言葉も何かミミカに残したかった言葉だったのだろう。
他に犯人がいるのだ。
誰かがあの四人を牢に閉じ込めて餓死させようとした。そして俺達をあの墓地へとおびき寄せた。
どこかに犯人がいる。
それを確かめないことには平安は訪れない。一番疑わしいのはガリュウだ。だがガリュウ・ドミニオンのリーダーであるガリュウは行方不明だというのだ。彼はいったいどこへいったのだろうか。
「ミミカ、俺たちを墓地におびき寄せて罠に落とした奴、そしてあの四人を餓死させた奴がどこかにいるってことだよな? ミミカには心当たりはないのか?」
「心当たりですか、もちろん疑わしいのはガリュウなのですが、今彼がどこにいるのか、わかっていないのです。しかし、はたしてガリュウがこれを企てたのかどうか証拠があるわけではないですし……」
ミミカはその犯人がガリュウなのかそれ以外の人物なのか、図りかねているようだった。
「ラミイ殿から聞いたのだが、ガリュウは同じドミニオンの人間を殺したのではないかと言われているとか」
「ええ、最後にガリュウを見た者がたまたま相手のスキルを看破する能力を持っていました。その者によるとガリュウは一万五千種類以上のスキルを獲得していたそうです。もしそれが本当であれば仲間を手にかけて手に入れたのでしょう。しかもそれは私たちの手に負えない程の力です。敵がいないに等しい彼は容易にこの世界を支配することができるでしょう」
「しかし、ガリュウは行方不明……。ミミカ殿、これはいったいどういうことなんだろうな?」
「わかりません……」
ミミカは押し黙った。ラミイから聞いていたガリュウ・ドミニオンとの抗争は終わったかに見えていたが、肝心のガリュウを倒していない以上、まだ完全に終焉を迎えたわけではない。
ガリュウを探して彼を倒さない限り、本当の平安は訪れないのだとミミカが無言のまま伝えてくる。
――ガリュウを探して倒す。
俺は考えていた。俺が異世界に来た目的はこれなんだ。魔王を倒すことではない。同じ世界から来た悪役のガリュウを倒して異世界に平和をもたらす。そのために俺はここに来たんだ。
小説から学んだ俺の知識を活かす時がとうとう来たのだ。やっぱり同じパターンじゃつまんないもんな。俺のために新しいパターンで最高の舞台を用意してくれていたんだろう。
よし、ミミカとラミイのために、そしてこの世界のフィーネとエミリスさんのためにガリュウを倒そう。俺はそう決意した。
ガリュウを倒せばすべて解決する。横に立つフィーネの頭を撫でながらそう思っていた。フィーネの目は「マヒロならできるよ、マヒロなら勝てるよ」そう言っているようだった。
まあそんな俺の考えが浅はかだったと後になって思い知らされることになる。俺達が探している犯人の本当の目的なんて知るはずもなかったのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます