ぬぎつも!
白羽彼方
プロローグ
異世界へ
異世界というのはお約束のファンタジーだと思う。
特に異世界転生ものなんて現在ありふれているようなものだ。
しかし本はいい。心が癒されるようだ。
現実なんていいものじゃないと実感させてくれる。
「雀、お前無視すんなよ」
またか、またお前達か。俺を見かけで判断する大馬鹿は。
見た目赤髪でつんつんは許さねとか言ってなんかゲームに勝ったら許してやるとか言われたから持っているもので勝負してやるといい相手が得意とされるゲームに完勝してやった。
それを何度も繰り返している。
「いい加減飽きないのか?」
「お前も勝つまでは、勝って巻き上げるまでは絶対に挑戦してやる」
今の現在、ゲームですべてを決するというのが流行っている。
もちろんその対価は平等ではない。ただ賭けた側は有利だとしてもこちらが勝てばいいだけである。毎日妹にゲームを付き合せられている俺にとってはゲームなど朝飯前だ。
「雀にぃ」
「げっ」
そこのくそ野郎。他人の妹を「げっ」とかいうな。
「そこの人、また雀にぃに絡んできている?」
この雀にぃと呼んでくる金髪の少女は一つ下の妹『麻央』。
天才少女と称されるも本能のままに欲望のままに行動するので大学を自ら蹴るなど様々な伝説がある。
「そのなりでゲーマーなのに、にぃに言い寄るなんて……死にたい?」
……物騒だぞ、妹よ。
まるでにらみ殺すように男を見る。あー、なんか怯えてるぞ。
「だってよ、お前らおかしいだろ」
「何がおかしいんだ。いってみてくれなきゃわからんなぁ」
「だってお前ら、俺たちのことを……」
「ああ……俺が初日に言ったことか」
入学初日、俺はクラスの連中にこう言ってやった。『話しかけるな、俺はお前らのことを信用することはない』といった。
これは俺たち兄妹の価値観だ。
大人なんて、人間なんて信じることなんてできない。
笑顔で寄ってくる人間なんて信用できない。
親しみを覚えてくる人間も信用ならない。
家での虐待など見て見ぬふりする人間など大嫌いだ。
「信用できないなんてなんでいったんだ」
「ならお前は俺たちのこと何を知っている」
ガシッ、襟を持ち上げる。もちろん体格差もあるし体は浮かない。
「雀にぃ、こんなのに構ってないで夕飯買いに行こっ」
「だな」
浮かなかったことを目にもくれず手を離して雀は帰っていった。
「な、何なんだよ。あいつは本当に!」
※ ※ ※
俺、雀とその妹麻央はスーパーでの買い物を終えて帰路に立っていた。
今日の夕ごはんは、和風ハンバーグ。今日も今日とて妹のリクエストだ。
懐が少し寂しくなっていたがそれくらい買う余裕はある。
「ハンバーグだハンバーグ」
「ご機嫌だなぁ」
「ご機嫌にもなるよ、今日は月一のハンバーグだよ」
うちの家庭事情は結構複雑。ふたり揃ってバイトして家計を維持していた。
両親は遊び好きで振込が不定期。最近の三ヶ月仕送りなどない。
「そういえば連絡ないね」
「そうだな」
「私たちのこと忘れちゃった?」
そんなことはない。そう信じたい。だけれども否定はできない。
もう二年近く帰ってきていない親などどうでもいいが。
「さて、もうすぐ家に……えっ?」
トラックが赤信号のまま突っ込んできた。運転手は眠っている。あれでは引いたところで気づきはしないだろう。
「雀にぃ!」
「麻央っ!」
俺は、麻央を庇う。
たとえ無駄とわかっていてもそうするしかなかった。
強く目を閉じる。暗い・・・・・・暗い、このまま終わるのか……そう思っていたんだが衝撃が一向に来ない。一体なぜだ。訳も分からず目を開けるとそこはまるでおとぎばなしや小説の世界が目の前に広がっていた。
「・・・・・・はっ?」
目を疑った。おいおい待てよ。
これはどういうことだ?
「雀にぃ。ここはどこ?」
「わからん」
目の前に広がるのは大自然。特に日本では見られないほどの大自然。
変な生き物が徘徊していたりする。顔のついた花までいるくらいだ。
試しに花に近づいてみる。
『男は近寄んなこのやろう。そこの嬢ちゃんはこっちへおいで』
「もぎ取るぞこのクソフラワー」
『痛い痛い痛い。何すんだこの童貞野郎』
なんとも口の悪い花である。いかにもファンタジーっぽいがこれはなんかぶち壊された気分だ。俺は、試しに根っこから引っこ抜いてみた。
するとどうだろう。花の声がしなくなった。
もしかしなくても地面についていないと話すことはできないようだ。
花をポイッと捨てて俺たちは歩き始める。
ここは見たところ人里離れた森だ。
初期装備貧弱の俺らには一刻も早く食料と寝床を確保する必要がある。
しかし実際問題としてこのようなことがあげられる。
俺たちにはサバイバル技術はない。そう技術はない。
大事なことだから二回言いました。
俺たち兄妹は、知識はあっても実戦経験など一つもない。
ついでに言えば体力もない。同横の絶望っぷり。異世界補正で体力付きませんかね。
かからないな・・・・・・かからないよなぁ。
「雀にぃ、あれ見て」
「どうした妹よ・・・・・・ほう」
思ったより人里離れていなかったようで、むしろ都心部の近くだったらしい。
だってスゲェよ。お城があるもの。正しくファンタジー。
俺はファンタジー世界にやってきましたー!
意気込んで街に入る。雰囲気は明るい。すごく明るい。
活気に満ち溢れている。
「「おうえ」」
俺たち兄妹は早速嘔吐した。
こんなに人がいっぱい。吐き気がするわ!
畜生いきなりのハードモードだ。
美少女系である妹様も口から異物を吐き出し続けている。
やめろ。ヒロイン失格になるぞ。
「雀・・・・・・にぃ、でも、情報収集は出来そう」
「そうだな・・・・・・まずはお金を使えるかなんだが・・・・・・キャッシュカードはもちろん使えないよな」
「異世界でそんなものを使えたらどの人も苦労しなかった」
「ですよねー」
初期でお金に不自由しないとか勝ち組当然だ。無一文で投げ出されるとここまで辛いなんてことは体験して初めてわかるものである。
役に立たない身分証明書等がはいった財布をポケットに入れた。
そこで俺たちを見つめている人物がいることに気づく。
うん。一言いってやろう。
スゲェ美人や!!
ほんともうパないわ。
まさにボンキュッボンよ。
清楚な感じがしている趣にそのダイナマイトボディ。着ている服は、ワンピースだが胸を強調している。この服選んだ人グッジョブ。もしこの子が選んだならさらにグッジョブ。
「何へんなことしているの」
「君に一目ぼれしたところさ」
「ふぇ」
美少女の顔が真っ赤になる。いや、そこまで真面目に返されると割とハズいんだけど。ねぇもじもじしないで。何? 脈アリ、脈アリなの!
それなら先のこともきたいしちゃ・・・・・・痛ぇ!
「雀にぃ、邪なこと考えてる」
「邪じゃない、男として健全な妄想だ」
「雀にぃ、殺されたいの?」
「なんか目がマジなんですけど!」
なんでヤンデレなの。兄ちゃん、春が来ると思ったけど阻止されるの。
「こほん、ところでおふたりさん不思議な格好ですね」
美少女は、俺たちの服を指差して言った。
なるほど・・・・・・この世界では制服というものは存在しないらしい。
そう結論付けるが・・・・・・。
「もしかして東の国の人?」
こっちが言う前に東の人言われたよ。普通こっちが東の国の人とかいう立場じゃないの。
なんかこう、どこ出身的なこと聞かれるんじゃないの。なんで最初に結論なの。
それであっていると美少女に伝えた。それと食事や寝床を確保できる場所はないかと聞いてみた。もしかしたら帰ってこないと思っていたが・・・・・・。
「そっちを左に曲がってすぐのところに『コリア』って店がありますよ」
そんなすぐ近くにあるんだ!
思わず大範囲探しちゃうところだったよ。毒の沼地に突っ込んじゃうところだったよ。
「オッケありがとう。で君の名前は?」
さりげなく名前も聞いてみた。
なぜか右腕につねられた痛みと裏切り者とか言われた気がしたけど気にしない。
これで名前回収も完了だ・・・・・・。
「ごめんなさい。名前は言えないの」
まさかの回収ができなかった。
そのまま美少女は振り返って消え入った。
名前・・・・・・あの流れで聞けないなんて思わなかったぜ。
俺はトボトボと妹は右腕を抱きつきながら歩く。
歩きづらいけど近くなのでとりあえず我慢することにした。
・・・・・・異世界さん、もう少し優しくしようぜ。
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