第15話 謎の協力者

「綾野先生、大丈夫なんですか。誰が来ると

いうんです。」


「岡本君、君もこの間遭っただろう、リチャ

ード=レイとアーカム財団のマリア、それに

連絡が取れればマーク=シュルズベリィにも

ここに来るように要請してある。それにアー

カム財団特務工作員達もだ。彼らはクトゥル

ーハンターとしての特殊訓練を受けている。

そして、取って置きの切り札が一人。」


「切り札ですか。」


「そう切り札だ。今回の作戦の鍵を握ってい

るほどのね。」


 浩太は、ツァトゥグアにはこちらの思考が

総て読まれているのでは、と思ったがあえて

その内容については聞かなかった。浩太が気

付くようなことに綾野先生が気付かない筈が

無いからだ。


 それにしても、マリアさんやマークさんは

かなり頼りになる筈だがリチャード=レイと

いう初老のアメリカ人については、一度遭っ

ただけでよく判らなかった。


「綾野先生、そのリチャードという人とはア

ーカムで何があったんですか。」


「彼には命を助けられたのさ。ツァトゥグア

の封印を解く方法を探しているうちに、『エ

イボンの書』まで辿り着いたんだが、解読し

ているうちに『エイボンの書』に取り込まれ

てしまったんだ。ミスカトニック大学付属図

書館の稀覯書室に居る時で良かったよ。リチ

ャードがたまたま居合わせてくれて。」


「そうだったんですか。」


「ただそのお蔭でツァトゥグアの封印を解く

鍵が『サイクラノーシュ・サーガ』に記され

ていることが判ったんだ。怪我の功名という

やつだね。」


「『サイクラノーシュ・サーガ』はラヴクラ

フトも想像上の書物としてさえ取り上げなか

った稀覯書中の稀覯書なんだ。サイクラノー

シュはクラーク・アシュトン・スミスも言及

している星の名前だけれど、その星の名前の

元になった人間の名前でもあるんだ。ただ、

『サイクラノーシュ・サーガ』を読み進んで

行くとどうも私達とは違う種類の人類、異星

人らしいね。遥か昔に星々を旅していたのだ

から。」


「そのサイクラノーシュがツァトゥグアを訪

ねてここまで来ていたんですか。」


「そう。その辺りの記述も『サーガ』には詳

しく記されている。そして、その後サイクラ

ノーシュに戻った彼がツァトゥグアの封印を

解く方法を研究している件があるんだ。そし

て彼は封印をする方法と共に封印を解く方法

を見つけ出した。儀式に必要なものも総て詳

しく記述されている。ただ、問題なのはその

儀式に必要なものは必ずしも今の地球上で手

に入るものだけではない、ということなんだ。

君が新山教授たちに揃えてもらったものはあ

くまで今の地球において揃う物であって記述

されているもの、そのものではないと思うん

だよ。」


 岡本浩太が杉江統一や新山教授に頼んだも

のは216個の人間の虫垂だった。もともと

は何かの必要な器官であったものが、人間が

進化、若しくは退化する過程の中で不要にな

ってしまったと考えられる虫垂が遥か昔ツァ

トゥグアを封じた封印を解く鍵となっている。

ただそれは現在特に人間にとって特に必要と

はされていない虫垂ではなく、体内の器官と

して有効に機能していた虫垂なのだった。


「とすると、ツァトゥグアの封印を解くこと

は現代においては不可能になってしまうんじ

ゃないんですか。」


「だから私達は現代の地球上において可能な

限りツァトゥグアの封印を解く努力をすれば

良い訳だよ。決して嘘を吐いている訳ではな

いし、サボタージュしている訳でもない。真

剣にツァトゥグアの封印をとく儀式を行うつ

もりだ。呪文も本物をつかう。後はツァトゥ

グア次第だな。」


 綾野先生はツァトゥグアを騙すこと無く復

活もさせない方法を見つけ出していた。単純

にツァトゥグアの封印を解く振りをすればい

いと考えていた岡本浩太は、ツァトゥグアら

旧支配者たちの能力を過小評価していた自分

が恥ずかしかった。仮にも神々と崇められて

いる程の力の持ち主で遥か永劫の時を封印さ

れているもの達なのだ。


 クトゥルーの時は直接その意識に触れたり

言葉を交わす機会が無かったので、感覚的に

はただの怪物としか捉えていなかったのだが、

やはり旧神と呼ばれる神々たちと敗れたとは

言え戦ったものたちだ。当然かなりの力を有

している筈だった。そして、その中でもツァ

トゥグアは主神クラスなのだ。


 そして、ヴーアミタドレス山の洞窟に別働

隊が辿り着いた。綾野たちはツァトゥグアが

開いた空間なので直ぐに着いたのだが、別働

隊はその規模を通す空間を再構築されていた

ので少し時間がかかっていた。

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