ツァトゥグアの恐怖(クトゥルーの復活第2章)

綾野祐介

第1話 謎の死

「いったい何があったんですか。」


 橘教授の体調が最近優れないとは聞いてい

たが、そんなに急に亡くなってしまうとは予

想外だった。私の今の肩書きを用意してもら

ってからまだ1年、あの恐るべきクトゥルー

の復活を阻止してから半年しか経っていない。


 私は未だ事後の報告も出来ていなかった。

ただ岡本優治が無事だった事を連絡しただけ

だ。


 連絡を受けてなんとか告別式には間に合っ

た。岡本優治と彼の甥の浩太くんも一緒だ。


 告別式の最中ではあったが、私は橘教授の

奥さんに亡くなった時の事情を聴いた。


「橘は綾野さんがいらしてから少し鬱病のよ

うになっておりました。大学にも全く連絡し

ないようになってしまって。今年に入ってか

らは体のほうもかなり弱ってまいりまして、

お医者様には無理をせず入院したらどうか、

と仰っていただいておりましたのですけれど、

橘はいやがりまして、とうとう自宅で朝、私

が起こしに参りましたときには亡くなってお

りました。」


「何か特に変わったところはなかったのです

か。」


「そういえば、亡くなる前の晩に私は存じ上

げないお客様がいらっしゃいました。お帰り

になってから橘はたいそう機嫌が悪うござい

ましたわ。直接の死因は心臓麻痺でございま

した。けれども、私には到底信じられない事

でございますが、死に顔を見たときには、五

十年連れ添った私でも見分けが付かないほど

形相が変わっておりまして、最初は誰か他人

が橘のベッドで寝ているのかと思ったくらい

でした。」


 奥さんの話しでは、確かに橘教授の部屋で

教授が着ていた寝巻きをきている人が死んで

いるのだが、自分の夫には見えなかったらし

い。恐怖に歪んでいる顔、というところだろ

うか。何かとんでもなく恐ろしいものを見て

そのショックで心臓麻痺を起こしてしまった

という処が、警察の見方だった。司法解剖の

結果も死因は心臓麻痺以外見つからなかった

らしい。問題はそれほどの恐怖を与えるもの

が何か、ということだ。当然奥さんには心当

たりは無かった。


「その客は一人でしたか。」


「いいえ、お若い男性の方がお一人とその方

よりも更に若い女性の方がお一人でした。女

性の方は二十歳にもなっておられないように

見受けられましたので、橘の大学の教え子か

誰かかとも思いましたのですけれども、橘の

機嫌が大層悪うございましたので、何も聴け

ませんでした。」


 奥さんは気丈にも私の質問に丁寧に答えて

下さった。もし、私に協力して下さったこと

が原因だとしたら、会わせる顔が無い。


 私は東京に戻った岡本優治にその辺りの事

情を調べてもらうことにした。所期の目的で

あるクトゥルーの復活は阻止できたのだが、

だからと言って直ぐに琵琶湖大学の講師を辞

める訳にもいかない。私と浩太君は教授の告

別式が終わると滋賀県に帰った。

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