【11話】 コールドフラワー

 

「赤信号ッ!!!!!!?」


 

「ファファファファファファ……ラショウモンとやら……」


 

 勝ち誇った笑みを浮かべ、両腕を広げるウェディング・ビキニパンツの

 ダークエルフ、ベルキオン。


 

「いや、正確には、きちんと『羅生門』と呼ぶべきか?」


 

「な、なぜ流暢に、俺の名をッ!?」


 

「いかなおまえであろうとも、『交通規則』には、かなうまい?」


 

 なにが起こっているのか、ダークエルフ少女も、魔王軍にも、

 ルーリィにもわかっていない。


 

 俺と、ベルキオンだけが、その意味を知っている……!?


 

「まさか、おまえ……」


 

 俺は震えた。


 

「おまえも、転生者なのか!?」


 


 

「いかにも!!!」




 

 ダークエルフ魔王、ベルキオンの咆哮。


 

「私はこの力で、この異世界の幼女を統べる王になるつもりだ!」


 

 勝ち誇った笑み。

 銀髪、銀パンツのイケメン筋肉ダークエルフは、片手を俺に、


 いや、


 俺の運転席内部に向け、


 

「手始めに、ルーリィよ」


 

 エルフの幼女プリンセスへと申し出た。


 

「結婚しよう」


 

 俺のフロントからドリルが消滅。


 

 タオルで身体を拭いたダークエルフが、ゆっくりと、俺に近づいてくる。


 

「ルーリィ! 私と結婚したあかつきには、朝昼晩、ご飯は全部、生クリームだよ?

 ただし、私のこの身体に塗ったものを、キミが舐めとるんだ。いいね? 結婚しよう」


 


「やめろ! そんなことはさせない!」


 


「そのかわり、私のご飯は、キミがお風呂に入ったあとの残り湯で炊いたご飯だ。

 おあいこだね? 結婚しよう」


 

「ルーリィにへんな言語を届けるなァァ!!」


 

「キミ、うるさいよ」


 

 ずばーん! ばきぃいいん!!


 

「やめろッ! 中にルーリィも乗っているんだぞ!!」


 

 ベルキオンは、俺のボディを太いムチのようにしならせたオーラで鞭打! 鞭打! 鞭打!


 

 はじけ飛ぶ装甲! フロントガラスにもヒビが入る!!


 

「くそッ! 身体が、身体が……動かないッ!!」


 

「らしょうもん、らしょうもんっ!! だいじょうぶ?」


 

「ルーリィ……!」


 

「らしょうもん、げんきだして? へいきだよ? ルーリィ、らしょうもんといっしょなら、

 こわくないもん!」


 

「泣くな、泣くなルーリィ……」


 


 ずばーん! ばきぃいいん!!

 ずばーん! ばきぃいいん!!


 

「やめろ……やめろベルキオン!」


 


「ルーリィ、降りておいで。そうすれば結婚してあげるよ」


 

 ずばーん! ばきぃいいん!!

 ずばーん! ばきぃいいん!!


 


「ルーリィ、こわくないもんっ! らしょうもんのコーラをのめば、へいきだもん!

 そうだ……! らしょうもんもコーラのもう?

 いっしょにのもう? げんきがでるから、のんで? らしょうもん!!」


 

「ちがう、ちがうんだよ、ルーリィ……」


 

「らしょうもん、ルーリィもっといいこになるよ? だから、まけないで……」


 

 ああ、俺はルーリィを守護(まも)ると誓ったのに!


 

「ちがうんだルーリィ、ごめん……、信号が……赤なんだ……!」


 

「あか……? あかだとだめなの?」


 

「あかは、とまれ……、赤は止まれなんだ……進めないんだ!」


 

 しかも、いつのまにか信号の横に、一方通行の看板まで出している用意周到さ!


 俺の弱点を熟知。


 

 俺はこのベルキオンを舐めていた……。


 

 俺は、俺の中に刻まれた、交通安全遵守のDNAに、逆らえないッ!!


 

 このままじゃ、ルーリィがッ!!


 

「ルーリィ、逃げろ……おまえだけでも逃げるんだルーリィ!」


 

「やだ! やだ! らしょうもんといっしょがいい! らしょうもんといっしょにいる!」


 

「俺もおまえとずっと一緒にいたい! でも、今は逃げるんだ!!」


 

「いやだよらしょうもん! ずっといっしょにいて? がんばって、がんばってらしょうもん!!」


 

「泣くな……ルーリィ! ああ、おまえは、かわいいなぁ……」


 

「らしょうもん……」


 

 エルフ幼女の涙が、俺のシートに染みこむ。


 

 このほっぺたに、ずっとさわっていたいよ、ルーリィ。


 


 ああ、意識が……


 


 染みこんだルーリィの涙、光は、俺の全身を包む。


 そして、大地を伝わり、柱を駆け上って、信号機を包んだ。


 


 


「なに……っ?」


 

 信号機を見上げるダークエルフ魔王、ベルキオン。


 

 そして、


 

「らしょうもん! あおくなった!!」


 


「……ル、ルーリィ?」


 


「あかじゃなくて、あおくなった! あおは?」


 

 信号の表示が、変わっていた。

 俺を呪縛していた交通ルールが、切り替わっている。


 

「あおは、なんなの? らしょうもん!」


 

「青は……」


 


 


 

「青は、轢き殺せの青だぁぁああああああ!!!!!!」


 


 


 

 お゛お゛お゛お゛おんっ! お゛んっ! お゛お゛お゛おおおおん! 


 




 ラムドリル起動ッ!


 


「くらえええええええええええええッ!!!!!」


 


 グモモモモモモモモモモモモ――――ッ!!!


 


「うぎゃあああああああああああああッ!!!!!!」


 


 俺は、銀色のピチピチパンツを、轢いた!!


 


「な、なにっ!? わ、私は、なんで……!」


 


 上空に跳ね上げられ、銀色ウェディング・パンツを失ったベルキオンの当惑に、俺は、


 


「失禁せよ」


 


 静かに、納ドリル。


 次の瞬間、


 


 


「うわああああああああああああああああああッッッ!!!!」


 


 


 しょわわー


 


 


 ベルキオンが夜空に放った失禁は、まるで銀色の花火のように、月のひかりに照らされた。


 


 

 そして落下したところを、俺が轢く!


 


 


 ぐももももももー!!


 


 


 魔王ベルキオン、上手に轢けましたー!

 

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