【7話】 それは洪水のように

「むにゃ……どうしたの? らしょうもん」


 ふわふわのお姫様カーテンが揺れ動いて、ルーリィが顔を見せた。

 奴隷の薄汚れた服のままだ。

 これもはやく、着替えさせてやりたい。



「すまん、起こしたか。ルーリィ」


「らしょうもん、怒ってるの……?」



 この子は、なんて聡い子なんだろう。



「……これから、ルーリィをいじめたかもしれないヤツと、話しをしようと、思うんだ」



「らしょうもん……?」


「でも、ぜんぜん怖くないよ? ルーリィ、こっちにおいで」


「うんっ」



 エルフ幼女も、俺のただごとじゃない雰囲気に、真剣な顔つきになる。

 シートをレーシングタイプに変形させ、俺はルーリィをがっちりとシートベルトで固定する。



「目標! 魔王軍!」

「もくひょー! まおーぐんっ!」




 お゛お゛お゛お゛おんっ! お゛んっ! お゛お゛お゛おおおおん! 




 別にニャン○ゅうがお姉さんに猿ぐつわをされ、目の前にマタタビを吊されて絶叫しているのではない。



 俺が魔王軍に向け、平原を爆走しているのだ!



 お゛お゛お゛お゛おんっ! お゛んっ! お゛お゛お゛おおおおん! 



 俺のヘッドライトに照らされ、はるか前方の魔王軍正面が、たたらを踏む。




「はなしが、ああああああるッ!!」




 俺は、動きを止めた魔王軍の先頭集団の鼻先でストップし、出来る限りの声をあげた。



 魔王軍に、威容な空気がみなぎっていた。



「!?」



 気づいた俺は息を飲む。





「なんだ、この、モンスター達の、張り詰めた――」


魔王軍「「「「はわわわわわー!(しょわー)」」」」





 数千、数万規模の魔王軍、一斉に失禁!!




 轢いていいのかな?




「待て! どうか待たれよ!!」



 俺がエンジンを吹かそうとすると、


 魔王軍の中から、転びまろびつ出てきたのは、

 悪いマスター・ヨー◯みたいな、いかにも知恵と威厳のありそうな魔族だった。


 ただし、股間は濡れている。



「いずれの名のある魔王とお見受けいたします……!」



 そして平伏。


 その一滴がウェーブを創りだすように、魔王軍が膝を付いて行く。



 ……なにが、起こった?



「我々は、そなた様の道行を咎めようなどという気は毛頭ございません!

 この軍勢は、この先にある人族の要塞都市『オリオン』を攻め滅ぼさんとする、

 魔王オルガネーシャの一群にございます!」



 それはやばいな。



「……御名みなを、お名前をおうかがいして、よろしいでしょうか」



「トラックの羅生門だ」



「な、なんと禍々しいお名前……ッ! ざ、残尿がッ!(しょわー)」



 悪いマスター・◯ーダのような参謀風の魔物が失禁しながら失神した。



「聞きたいことがあるんだけど、なんというか……店長、いる?」




 俺はできるだけクレーマーのような態度にならぬよう、できるだけ優しい声で魔王軍に尋ねる。




「いやじゃあああああああああッ! やめいッ! や、やぁぁああめいいいいッ!」




「ん……?」



 こう、コンサートライブとかで、ボーカルとかの人が、お客さんのバンザイした手に運ばれるヤツ方式で、



「ダークエルフ幼女!?」



「許さぬ! おまえたち許さぬからなぁあああッ!!」



 褐色の肌に黒髪、黒革ノースリーブのスキンスーツを身につけた生意気そうな幼女が、押し出されてきた。



「おまえが、その、店長か」



「はぁぁぁぁぁぁあああんっんっん……っ(しょわわー)」



 ダークエルフ幼女は、ぺたんと女の子ずわりで、



「配下たちの……ッ、配下たちの前で、に、2度もっ! 2度もぉぉっ!」



 声だして泣いた。

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