第4話 事件現場にて

 冬子たちは御逆川に沿って歩いていた。

 日はまだ暮れず、肌寒い風が冬子の長い髪を揺らした。

 「日が暮れる前に、現場の様子を見ておきましょうか」

 現場検証は既に終えたようで、警官の姿は一人もなく、事件現場は日常たる空気をただよわせていた。

 「この辺りにスマートフォンとポーチが落ちていて、おそらく、被害者の女性はこの坂を川の方へと引き摺られていった」

 冬子はある程度の位置を示しながら、川に向かって坂を下った。

 「そして、この川の、この辺りで仰向けに倒れた状態で、被害者は警察に発見された」

 「第一発見者は警察の方だったんですね」

 「えぇ、被害者が行方不明になった数日後、被害者の親御さんからの通報を受けて捜索が開始され、4日前にようやく見つかったようね」

 「その親は何ですぐに捜索を依頼しなかったんだ?」

 「彼女は実家暮らしだったようだけれど、おそらく、最初は家出の類だと考えられたのではないかしら」

 「君たち、そこで何してんの?」

 不意に声を掛けられ、振り返ったそこには、作業服を着た20代くらいの若い男が立っていた。

 「その制服は……柳國やなぐに高校の生徒さんだね。川の近くで何をしているんだい?」

 「……カワラベってご存知ですか?」

 「急に何だ、カワラベ? 勿論、知ってるさ」

 「私たち、民俗学研究の一環として、この川について調べていたところなんです」

 「そうなのか。あぁ、僕は御逆川河川事務所の菊池きくちという者だ。不審者がいないか河川巡視……まぁ、見回りをしていたところだ」

 菊池は胸元の名札を示しながら言った。

 「見回りお疲れ様です。……一つ、お訊きしたいのですが、ここであった溺死事件、あれは、なのでしょうか?」

 冬子の言葉に、玲子、梨沙、菊池の三人は瞬時に凍りついた。

 「あぁ……ニュースになっていた事件のことかい。僕ら職員は、不法投棄されたごみを回収する仕事もしているが、噂によれば、その被害者の人というのは、煙草をポイ捨てするような人だったというじゃないか。そりゃあ、カワラベの怒りを買って、祟り殺されたとしても何も不思議なことはない。カワラベは、本当にんだからな」

 「カワラベは……いる?」

 「あぁ、カワラベは、確かに、んだよ」

 夕暮れを背に、菊池は静かにそう言った。

 沈黙が続き、やがて、菊池は帽子を被りなおすと、笑顔をつくって言った。

 「さぁ、冗談はこのくらいにして、用が済んだらさっさと帰るんだ」

 その言葉を合図に、冬子たちは何も言わずに事件現場を後にした。

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